新型コロナウイルスは私たちの生活を一変させた。仕事を失い、これまで続けてきた生活ができなくなってしまった人もいる。一人で家計を支えながら、子供を育てる「ひとり親世帯」への影響はどれほど深刻なのか。埼玉県・川口市に住むシングルマザーを取材した。(テレビ朝日社会部・笠井理沙)
■仕事を失い…“普通の生活”ができない
女性(40)に出会ったのは、去年6月。緊急事態宣言が解除されて間もないころだった。
シングルマザーを支援する団体の食料配布イベントに、ボランティアとして参加していた。てきぱきと動く姿に、自身が仕事を失い、困っているというような印象は感じなかった。
女性は、小学校1年生の息子を抱えるシングルマザー。契約社員として、観光バス会社に勤めていたが、新型コロナウイルスの影響で、バスの予約は軒並みキャンセル。会社は、3月末から休業しているという。休業補償を支給されたが、手取りは5万円ほど。生活費が足りず、近くの飲食店で日中のアルバイトをしてなんとか生活しているとのことだった。買い物を控え、支援団体からもらったお米やレトルト食品で日々の食事を済ませているという。
「不安しかない…不安を通り越して、もうどうしたらいいのかわからない」
収入は月収20万円ほど。5年前に離婚してから、息子と2人、“普通の生活”を送ってきた。しかし、3か月ほどの休業で、貯金は底をつき、日々の食事にも困る状態。「こんな風になるとは…」と女性は暗い表情をみせた。
■「いま死んじゃったら楽なのかな」
高校卒業以来、バスガイドや添乗員として長年観光業に携わってきた女性。明るく前向きな姿からは、現役時代の姿が想像できる。「観光を通じて人と関わることが好きだった」という。しかし、新型コロナウイルスの影響で、先行きの見えない観光業。息子との生活のため、安定した仕事への転職を決意した。
なかなか仕事が決まらず、2か月ほど就職活動をしていたが、運良く、家の近くの建設会社に内定。長年勤めた観光業を離れることに寂しさはないかと問うと、「いまは息子のことが第一優先」と答えた。
仕事を始めてから、その後の近況などメッセージのやり取りを続けてきた。「耳が聞こえにくい」「お腹の調子が悪い」などと、日々、心も体をすり減らしながら生活を続けているようだった。そして久しぶりに会った表情は疲れ切っていた。新型コロナ前から抱えている不眠症も悪化し、処方される薬も増えたという。
慣れない仕事、息子の世話。一人の時間などなく、休みたくても休めない日々。この間、生活費として国から借りた60万円の返済など将来への不安も尽きない。
「ふと思う時があります、『いま死んじゃったら楽なのかな』って」
「疲れちゃいました」
忙しさやストレスから、言うことを聞かない息子を怒鳴ってしまう。私もそうだが、子供を持つ親なら、誰もが経験のあることだと思う。あとになって「言い過ぎたかな」と反省する冷静さを取り戻すためには、心の余裕が必要だと感じる。女性は離れて暮らす母親や友人に愚痴をこぼすなど、周囲の人に支えられながら、何とか子育てができていると話してくれた。
■感染の終息見えず…続く不安
女性の現在の月収は20万円ほど。転職前と変わらない水準だが、借金の返済があり、貯蓄をする余裕はない。息子が成長すれば、塾などの習い事、部活など出費が増えていく。息子のやりたいことを最優先させてあげたい気持ちはあるが、親として応えられるか不安が募る。新型コロナウイルスの感染拡大の終息が見えない中、女性は「また休業になったら…」と心配する。
先行きが不透明な中、子供のため必死に前に進み続ける女性。女性は描いていた息子との未来を、これから先、手にすることができるのだろうか。
未来を担う子供たちを育てる親たちが、安心して日々を過ごせるよう、充実した支援が必要ではないかと感じた。(ABEMA/『倍速ニュース』より)
■笠井理沙(かさい・りさ)
テレビ朝日社会部記者。これまでに児童虐待やDV問題などを取材。新型コロナウイルスの感染拡大以降は、医療機関や医療従事者などの取材を進めている。