最もキツいのは回復期。自覚症状がひどい=“重症”ではない…“三途の川の手前で生還した”医師が戒めるコロナの「勘違い」
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 医療現場のひっ迫により急増する自宅療養患者。東京都では今月1日の時点で3278人だったのが、18日には3倍近くの9442人に達している。そうした中、自宅療養中に死亡してしまうケースも現れている。東京都では20日までに6人が自宅療養中に死亡している。

 21日の『ABEMA Prime』では、自宅療養を経て入院、2日で人工呼吸器が必要になるほど急速に重症化した経験を持つ「辻クリニック」院長辻直樹医師に話を聞いた。

・【映像】「三途の川の一歩手前で生還」辻医師に聞く、コロナ入院体験

■「三途の川の手前で生還した」

最もキツいのは回復期。自覚症状がひどい=“重症”ではない…“三途の川の手前で生還した”医師が戒めるコロナの「勘違い」
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 持病もなく、週に1度はトレーニングもしていたという辻医師。初期症状は、全く風邪と変わらなかったという。

 「偽陽性・偽陰性率が20~30%あるわけで、所詮、検査は検査だ。僕の場合も、とにかく検査を毎日していたが、陰性が続いた。それでも患者さんに会うことは控えるようにしていた。倦怠感が続き、自分で胸の音を聞くなどの自己診断しているうち、“さすがにおかしいな”と思い、保健所に連絡して入院となった。次の日には酸素が入らなくなり、胸部の画像も悪くなっていったので、そのまま挿管という状態となった。結局、陽性が出た時にはしんどい状態になっていた」。

 そこからの数日間について、自身のFacebookに「三途の川の手前で生還した」と記した辻医師。治療について次のように説明する。

 「普通のインフルエンザや肺炎球菌の場合、数週間から1カ月ほどかけてゆっくりと悪くなっていくが、コロナは本当に1日、2日で急激に悪化する。このスピードに医療体制が追いつかないというのが、このウイルスの怖いところだ。また、今のところは敵である新型コロナウイルスそのものを殺す薬がないので、いわば自衛隊にあたる自分の免疫がウイルスを殺してくれるのを待つしかない。しかしウイルスが免疫に波状攻撃をかけてくるので、戦場にあたる肺がどんどんダメになっていく。そこで炎症を抑えるため、ステロイドを使ってコントロールしながら持久戦に持っていくという治療だ」。

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 また、回復期の経験を踏まえ、「生きる、治すのは患者自身だ。強烈な苦痛に耐えながら、どうしてもやってもらわなければならないことがたくさんある」とも綴っている。

 「呼吸器に繋いでいる間が症状としてはピークだが、麻酔をかけているので意識がなく、痛みも苦しみも感じない。ここで助かりそうだというときには麻酔を切って自発呼吸をしてもらうことになるが、そうでなければ終わり、ということだ。僕の場合、2日後には呼吸状態が良くなって来たので麻酔が切られ、目が醒めた。“ああ、助かったのか”という感覚だった。しかし、ここからの回復期がきつかった。痰を一生懸命出さないといけないが、糊のような状態なので、しょっちゅう詰まって息を吸うことも吐くこともできなくなる。そこで痰を吸い出すための管を肺まで入れて吸うのだが、これがきつい。1日に5回も6回もやるので、体力も相当奪われた」。

■「自覚症状がひどくなった=“重症”ではない」

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 体重が10kgも減り、「白衣がぶかぶかになった」と話す辻医師。後遺症もあるという。

 「味覚に関しては戻ってきたが、今も空咳が出るのと、右の肺の上葉が結構ダメージを受けているので、階段を1フロア分上っただけでも息が上がってしまう。それから、筋肉痛もある。皆さんが勘違いされているのが、病院の言う“治癒”の状態と、患者さんが考えている“治る”は意味が違うということ。感染症の状態は、いわば火事が起きているということだ。そこに医療が消防隊として駆けつける。そして鎮火すれば消防隊は“消えましたね。良かったですね”と言って帰ってしまう。しかし、そこにあるのは以前のままの家ではなく、焼け跡があるということだ。患者さんの感覚では、新しい家が建て直され、家に住める状態が“治った”だと勘違いしているが、医療がやってあげられるのは、基本的に火を消すことだけ。そこから家を建て直せるかどうかは、患者さん自身の再生能力次第だ。すぐに再建できる人もいれば、1年、2年とかかる人もいる。その状態を後遺症と呼んでいるということだ」。

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 退院後は7人の自宅療養者の往診を続けているが、気にかかるのは患者たちの「不安」だと明かす。

 「これも勘違いされていることだが、皆さんは自覚症状がひどくなったのを“重症”と捉えていると思う。しかし実際は血液中の酸素濃度によって、中等症、重症と分けているということだ。ただ、濃度が急激に下がってからはあっという間で、現場のドクターたちもどう管理していいのか分からないと思う。実際、38℃くらいの発熱と咳があるが、酸素飽和度が正常なので軽症とみなされ、自宅待機の方がいる。しかし家に一人なので、精神的な不安がすごい方がいる。僕もまだ本調子ではないので頻繁に行けるわけではないが、夜に行って胸の音を聞くだけでも安心してくれる。ただ、小さい病院としては、その人たちを受け入れたとしても、武器がないから何もできない。呼吸の状態が悪くなっても、呼吸器がないので、結局は自宅療養とほとんど変わらない」。

■「いわばロシアンルーレットだ」

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 自宅療養者が容体の急変に気づくためにはどうすればいいのだろうか。辻医師は「“全く分からない”というのが正しいと思う」と話す。

 「知人のいる救命救急センターやコロナ病棟にも問い合わせてみたが、結局はわからない。メディアでも色々な仮説が出ているが、現場の医師たちも急変が起きてから随時対応している、というのが正しいと思う。僕の場合も“勘”だが、酸素濃度が下がると体が呼吸の回数を増やし、ごまかそうとする。そこで怪しいと感じ、人との接触をとにかく絶った。だから呼吸回数というのは一つの目安なのかもしれない」。

 その上で、“コロナは風邪”という意見について、次のような見方を示した。

 「確かにそうだが、それが怖さの理由でもある。つまり誰に出るのかがはっきりとは分からないので、ロシアンルーレットのように、誰かのときに突然弾が出てしまう。前日まではそうでもなかったのに、急に悪化する。もっと年月が経ち、症例が重なってくれば仮説の上にエビデンスが出てくる。その時に初めて本当のことが分かってくる。そして、それは随分先のことだと思う」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

「三途の川の一歩手前で生還」
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