BACKSTAGE TALK #11 BES&I-DeA
AbemaMix出演の合間に、HIPHOPライター 渡辺志保氏がアーティストにインタビューを実施!
ココでしか聞けないBACKSTAGE TALKをお届けします!
ーシリーズのMIX作品となっている『BES ILL LOUNGE』ですが、前作はDJ GEORGEさん、そして、2020年11月にリリースした今回のPart3はI-DeAさんがMIXを担当したということで。これは、どういった経緯で?
BES:リリースについて話していたら、(I-DeA)先生が「手助けしてあげましょうか」みたいに言ってくれたので、「じゃあお願いします」と。
ーほぼ同時並行的に、フル・アルバム『LIVE IN TOKYO』の制作もあったんじゃないですか?そちらもI-DeAさんが総合監修的な役割を務めていらして。
BES:一応、アルバムが終わってから作りました。ですよね?
I-DeA:そうですね。本来、『LIVE IN TOKYO』がもうちょっと早く出る予定だったんですけど、昨今の事情により、色々リリースが延びて。でも、こっちは変わらない制作ペースを続けていたので、そのサイクルの延長線上で今回の『BES ILL LOUNGE』が出た感じです。
【映像】BES & I-DeA AbemaMix ライブパフォーマンス
ー今作の収録曲の中には、新録した楽曲と2006年頃のSWANKY SWIPE時代の楽曲たちがコラージュされるように混ぜ合わされていますよね。MIXするにあたって、お二人で話し合ったりもしたのでしょうか?
I-DeA:とりあえず、BESくんからは「あまりDJプレイみたいな繋がったようなMIXではなく、どちらかというと曲を聴かせる感じで」というオーダーがずっとあったんです。
だから、ループしたりとかDJ的なスキルは一切入れずに、昔のBESくんの曲を今の若い世代の人たちにも聴いてもらいたい、という方向ですよね。
ーここ1、2年で、SCARSの作品が再発されて盛り上がりが再燃したりとか、かたや舐達麻のような、今までの日本のラップ・シーンにはいなかったような変化球のラッパーの方たちがワーッと席巻したりということもあって、これまでとはリスナー層もだいぶ変わってきたと思うんです。先ほども、「今の若い世代の方にも聴いてほしい」というふうに仰っていましたが、例えば『フリースタイルダンジョン』などから入って「初めてラップを知りました」みたいな子たちの反応や反響みたいなものは、BESさんのところに届いてますか?
BES:いや、特にそういうのはないですけど。一度、某フリースタイルバトルのときに若い子が<SWANKY>って名前を出していて。そういうのを見て、「おお、そこで言うか」ということはありました。それは嬉しかったですね。
ーI-DeAさんもプロデューサーやエンジニアという立場で、ずっとこの日本のヒップホップ・シーンを見てこられてるわけじゃないですか。今も積極的にGOODMOODGOKUくんとか、若いラッパーの方とも一緒にセッションをして。ご自身たちがSCARSやSD JUNKSTAのメンバーらと共にシーンに出てきた頃と比べて、「ここが違うな」と衝撃を受けることはありますか?
I-DeA:ヒップホップに出会うきっかけやラッパーになるきっかけは、十数年前よりも間口が広くなりましたよね。俺の世代だと、どうしてもUSのヒップホップが入り口でしたけど、今の若い子たちは、国内のフリースタイルのラッパーを見て「ラッパーになりたい」みたいな。いろんなところからヒップホップに出会っていて、良い部分もあれば悪い部分も見えてくると思うんです。
というのは、僕はクオリティ面を追求しているので、制作面でいうと、どうしても海外のヒップホップ作品と比べてしまう。一方で、クオリティ面やカルチャーへの造詣そのものが浅い子が「俺なりのヒップホップ」という感じを打ち出して、そのまま影響力を持つこともある。
そうすると、僕が思っている<かっこいいヒップホップ>とは違った形で、「日本のヒップホップはこうなんだ」と認知される可能性もある。そうなることを、ちょっと危惧していますね。でも、そうなってしまうのは、自分らを含む上の世代の人間の責任でもある、という風にも思っていて。
だから、この歳になって、自分が関わる仕事やアーティストに対しては、あまり<かっこよさ>が曲がった感じにはならないように、かつ、その人の個性も生きるように、そういうところまで考えて向き合わなきゃなと思いますね。
ーめちゃくちゃ分かります。「ヒップホップは何でもあり」と言われることも多いですけど、私自身は「何でもあり」の中にも、ここまでがかっこいい/ダサい、という境界線や判断基準をしっかり持っていないとダメだな、と思うことが多くて。
I-DeA:向こう(海外)との差は、どうしてもまだあるんですよね。それは、ラッパーの意識の差だったり、リリックやトピックの作り方だったり。トラックメイカーに関しても、向こうの若い奴らはめちゃめちゃ曲を知ってるし、機材もめちゃめちゃ使える。
ただ、ウィード吸ってぶっ飛んでるだけじゃないんですよ。日本の制作現場を見ていると、レベルを高いことをやってる人はごく一部なんです。少しでもそこを改善していけるように、安い仕事でも頑張ってやってる、という感じです。(笑)
ーBESさんも、プレイヤー側としてそういった変化や差を感じることはありますか?もともとバトルに出ることも多かったと思うのですが、MCバトルを取り巻く環境もガラっと変わったのでは?
BES:普通に、ラップがうまくなりましたよね。「よく、そうやっていっぱい(ラップが)出てくるよね」と思うくらい、勢いを感じます。
ただ、何ていうか、いきなり言ってはいけないことを言ったりすることもあって。要は怒らせるってことですよね。そういうところをわきまえていないやり方が目に付くなと思っていますね。僕の時にはなかった挑発の仕方っていうか…。
ー確かに、<フリースタイル=ディス>みたいなイメージが先行していますよね。何でもかんでも、相手に吹っかければいいんだろ、みたいな。
BES:俺、相手の外見をイジったのは、多分、回鍋肉ぐらいじゃないですかね。「まず服を着ろ、それから勝負しろ」って言いましたね。(※2007年 UMB東京予選)
だから、あんまり挨拶もしなかったし。(相手を挑発しても)バトルが終わって、何もなければ俺はそれでいいと思ってるんです。ただ、ラップの幅が広がった分、緊張感が増して地雷も増えるじゃないですか。
あとは、ヒップホップって、体験しないと分からない。場所によっては怖い思いもすると思うんですけど、そういうのも経験ですよね。だから、そういう経験にもめげないように、やる。
ーBESさんが言うと、ちょっとずっしり来ますね…。
BES:上に行けば行くほど、若い子でもそういうことがあると思うんで。それと、俺的には、フリースタイルに出てる人も、音源をもっと出した方がいいですよね。それできてる人は、すごいと思いますね。
I-DeA:昔BESくん出てたときは、ほぼ全員音源出してるラッパーたちがバトル出てる感じでしたよね。
ー今日、インタビュー前もBESさんの『LIVE IN TOKYO』を聴いていて、「Test」の中には「少年よ大志を抱け、無理かもな」という、あえて突き放すリリックがあって。「人生はGAMEではなく現実だ」というラインもすごく刺さったんです。実際に経験してきたストラグルや経験がリリックに落とし込まれる、というのはこういうことなんだろうなと思いました。
BES:そうですね。ある人が言っていたんですけど、「”誰しもが成功するわけじゃない”ということを分かってやった方がいい」と。上にいる人たちが「誰でもできる」って言っちゃうと「あの人がそう言ったのに、全然うまくいかないじゃん」と思われることもあると思うんです。それは良くないな、と。結局、自分でどう持っていくかですよね。それは、運と努力だと思います。