13日から施行された新型コロナ対策の改正特措法により設けられた「まん延防止等重点措置」。緊急事態宣言の前段階として、政府が指定した都道府県の知事が市町村単位まで絞り込んで、飲食店への時短営業やマスク着用をしない人を入場禁止にするよう命令できる措置のことで、違反の場合には20万円以下の過料が科される。
【映像】何が問題? 大手メディアが報じない「まん延防止等重点措置」の欠陥
しかし、同措置には緊急事態宣言とは違い、国会への事前報告の義務がないことから恣意的な運用を懸念する声もある。緊急事態宣言が出ているときを有事、そうではないときを平時とし、平時と緊急事態の“グレーゾーン”に作られた新たな措置。具体的には国が定めるステージIVで緊急事態宣言、その手前のステージIII、感染急増の状態で、まん延防止等重点措置に当たる。
ニュース番組『ABEMA Prime』では、専門家とともに「まん延防止等重点措置」の“落とし穴”に注目した。
■「まん延防止等重点措置」設けられた“グレーゾーン”の意味
「平時」と緊急事態宣言の中間に作られた「まん延防止等重点措置」。あえてグレーゾーンを作る意味はどこにあるのだろうか。弁護士の倉持麟太郎氏は「中身と法的な問題と政策的な問題がある」と話す。
「原理的な話をすると有事と平時は全然違う。平時は普段の自由を謳歌できる状態で、有事は緊急事態で『市民社会を守るために自由をいったん停止しましょう』という発想。だから法的にはかなり厳格に線を引いておかないといけない。国会の承認が必要だったり、後々に裁判所がちゃんと判断できたり、そういうことをセットでやらなければいけない。グレーゾーンとしているが『まん延防止等重点措置』は、これまでの緊急事態宣言よりも強いこと(重い命令や罰則など)ができるもの。にもかかわらず、国会の関与はない。期間の延長に関しても無限ループで延長できる。平時か有事かよく分からなくなる」
「緊急事態宣言と何が違うかというと。罰金が10万円違うだけ。今の感じだと『まん延防止等重点措置』が出たらみんな自粛するだろう。そうすると、緊急事態宣言が出たときに、何が起きるか。『罰則が10万円違うだけ』と言ったときに、緊急事態宣言が出たからといって行動変容を調達する(促す)ときに効果が極めて薄くなってしまう。法的にも政策的にも問題がある」
倉持氏の意見を聞いた平石アナウンサーは「説明するのに時間がかかったりするのもあって、ニュースで扱いづらい。まん延防止と聞いた瞬間に聞きたくなくなるワードというのも問題だ」と意見を述べる。
「『まん延防止等重点措置』は2月13日から始まったが、これまでの緊急事態宣言になかった、要請をして応じないときの命令、それに違反した場合の罰則がついている。これまでの緊急事態宣言になかった効力があるものが、グレーゾーンでできるようになる。『まん延防止等重点措置』の成立に伴って、緊急事態宣言でもできなかった命令や罰則ができるようになる。それなのに2月13日から変わることがあまり知られていない。さらに緊急事態宣言、有事で構えている状態ではないのに、グレーゾーンの形で政府がいつでも(罰則を伴う対策を)打てる状態になることも問題だ」
一方、番組にリモートで出演したひろゆき氏は「緊急事態宣言が終わったとしてもコロナ禍は終わっていない」と指摘。
「平時のままコロナが収まってくれればいいが、平時のままでみんなが自由に動くと、やはり新型コロナの感染が拡大すると世界中で証明されている。ロックダウンをして、ロックダウンをやめたら(感染が)増えた、そしてまたロックダウンする。それを世界中がやっている。ロックダウンや緊急事態宣言が終わったとしても、何らかの感染が広がっているところには自由を制限しないといけない。それは新型コロナを収束するためには必要だと思う。罰金10万円なのか、営業自粛なのか、個別のやるべきことは議論の余地はある。少なくとも、緊急事態宣言の前に何かグレーなものがないと自由になってしまうのであれば、それはそれでまずい」
ひろゆき氏の意見に、前述の倉持氏は現状のまん延防止等重点措置の“欠陥”を提示する。
「今、平時には、特措法の24条に書いてある『都道府県知事がなんでも協力要請できる』という内容で全てをやっている。法的根拠があるかどうかもよく分からないし、基本的に強制力もないので、裁判所で後々争うこともできない。そうではなく、例えば緊急事態予防措置のようなものを作って、国会承認なども取り、司法的な救済もできる状態で、有事の緊急事態宣言では、もう少し厳しいことができるようにしないといけない。今の緊急事態宣言ではエボラ(出血熱)などが流行ったときに何もできない」
■大手メディアが報じない、まん延防止等重点措置の危うさ
営業自粛を求められる飲食店などへの補償の問題もある。緊急事態宣言では1日最大6万円と数字が入っているが、まん延防止等重点措置では、協力金については未定となっている。
「国会の関与の問題、裁判所が全く機能しない状態になっている。あとは補償の問題。今は政府からの施しとあるが、我々一人ひとりが補償の請求権があるということを法律に明記すべき。緊急事態宣言も財政的措置は書いてあるが、補償の請求権が我々にあるとは書いていないので、訴訟で争えばほぼ確実に負ける」
平石アナウンサーは「新型コロナが収束したあとも続いていくことだから、拙速に決めていたら『こんなことになっていたの?』になりかねない」と指摘。また、まん延防止等重点措置の内容についても「すでに持っている性質が緊急事態宣言に非常に近い。罰金が違うぐらいだ。緊急事態宣言を打たずして、かなり強力なものを自由に打てるようになってしまう。『そこまでの権限を与えますか?』と思う」と疑問を呈した。
名称に関しても改善の余地はある。ひろゆき氏は「名前を難しくするのは、内容は理解しなくてもよくて『分からないから任せちゃえ』という流れにしたい政府側の願望もあるのではないか」と述べる。
「名前だけ聞いてもよく分からないし、実際に発令されるまでは制限はない。『発令されていないから、気にしなくていい』とみんな気にしないまま、法律だけができてしまって、必要ないときにドーンと出る。すると『法律があるなら仕方ない』と諦める。それを倉持さんは危惧していらっしゃるのだろう。日本はいつもこのパターンだ」
ひろゆき氏の見解に倉持氏は「決め方にも問題がある」と話す。
「今回は立憲民主党と自民党の国対委員長が話し合って『コロナ禍でこれに反対するなんて』と決まった。立憲民主党は今まで反対ばかりしてきたのに『これは賛成する』と。法案の審議が始まる前に修正協議が終わっていた。国対委員長がやっていたことを大手メディアの政治部はそのまま誘導されて流すので、中身の議論を全くせずに『罰金が安くなったらしい』というような報道しかできない。決め方にも問題がある」
■まん延防止等重点措置、解除のタイミングも“政府のさじ加減”
物議を醸している、まん延防止等重点措置の内容。解除の流れはどのようになっているのだろうか。
倉持氏は「今のところ解除の方法は全然決まっていない」と述べた上で「答弁でもまん延防止等重点措置を出す基準は『ステージIIIに入ったら』という話もあるが、西村経済再生担当大臣は『ステージIIでも出す』と発言していて、ではステージIIにどのような指標があるのか、ステージIとの違いは何か。指標はないので、要はさじ加減になってしまっている」と指摘。
「まん延防止等重点措置の解除のタイミングも、今回は罰則も含め全て政令に投げている。政令は政府が自由にフリーハンドで出せるもの。我々の代表者が国会でちゃんと議決を取って出せる法律ではない。本当に全て内閣がフリーハンドで、いつやるか分からない。しかも、国会関与がなくなってしまう。『エリートが全て決めてくれればいいよ』という発想だったらそれでいいかもしれないが、どんどん我々の遠いところで、こういうことが決まっていることだけは理解して欲しい」
感染拡大から1年が経った今も明確な出口が見えない新型コロナ対策。新設されたまん延防止等重点措置は、生活にどのような変化をもたらすのか。2021年は衆議院選挙が行われる年。国民一人一人が法改正の賛否について考える必要がありそうだ。
(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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