新型コロナウイルスの感染拡大から1年。今、感染者とともに増え続けているのが失業者だ。完全失業者数は204万人、休業者数は統計開始以来最多の256万人。経済的に困窮する人たちは増えていくばかり。
そんな人たちの最後の砦とも言われる「生活保護」だが、1月27日の参議院予算委員会で菅総理は「最終的には生活保護という仕組みも」と発言。最終手段を平然と提案したことが批判の的になった。
そもそも、生活保護は簡単にもらえるものなのか。以前、『ABEMA Prime』が取材した受給者たちは「“水際作戦”的なものだと思うが、申請書を渡さない。『働き盛りなのに生活保護を受けて恥ずかしくないのか?』とか」(40代男性)、「死ぬまで一生独身なのかなって思ったりもする。バッシングとかを思うと、自分を理解してくれる人がいるかどうかも聞くことすら厳しいと思う」(20代女性)などと話す。
役所に行っても受け付けてさえもらえず、受給できたとしても「生活保護受けている人間はクズ」「恥だと思わないの?」「早く働けよ、税金泥棒」などというバッシングに怯える日々。国民の権利のはずが、いつからイメージは悪くなったのか。
コロナ禍の生活保護制度はどうあるべきなのか。国会でもこの問題を言及し続ける、日本共産党の田村智子参議院議員と議論した。
■生活保護に立ちはだかるハードル
生活保護を受給するまでの流れは、(1)自治体の福祉事務所で現在の状況を説明し申請書を受け取る、(2)申請書を提出、(3)資産や援助できる家族などの調査やケースワーカーによる家庭訪問、(4)審査が通過すれば受給開始、というもの。
この仕組みの問題点について、田村氏は「申請書を受け取るというが、これをまず出してくれない。厚生労働省も『ためらわずに相談しましょう』とは書くが、『ためらわずに申請しましょう』とは言わない。また、申請しようとして親御さんや兄弟に連絡を取ることがあると言われてしまうと、『自分がいま困窮状態にあることを知られたくない』となる。だったら…と申請を諦めるパターンや、窓口での最初の対応で傷ついて申請したくないとなってしまう事例はたくさんある」と指摘する。
生活保護に立ちはだかるハードルとして、「扶養照会」によって親族に受給を知られてしまう、「水際対策」として「若いんだから働けるでしょ」など数時間に及ぶ高圧的な“相談”で追い返される、「沖合作戦」で生活保護以外の制度を紹介して申請させないといったことなどがある。
厚労省によれば2017年、扶養照会46万件に対して援助があったのは1.45%だったという。この数字について田村氏は「国会で扶養照会をやめたらどうかという質問を野党はしているが、厚労大臣は『家族関係が壊れてしまったようなところにまで扶養照会はやらない』という言い方をする。“音信不通状態が20年”という一つの基準みたいなものができてしまっていて、それはさすがに長すぎると厚労大臣も言っているが、問題になるのは家族関係が壊れていないから知られたくないというケースが多いこと。自分の兄弟に貧困状態を知られたくない、知られたら合わせる顔がないとなってしまう。扶養照会をしても『援助する』と返事が返ってくることはほとんどないので、必要ないのではないか。同居しているなら別だが、そうでない家族にまで扶養照会をかけるのかは大きな問題点」と指摘した。
また、生活保護自体に対する社会的なバッシングについては、「収入が得られなくなる過程の中には様々な問題がある。アルコール依存症やパチンコ依存症になってしまったという方では、確かに生活保護でパチンコに行ってしまったりする事例がある。そこばかりが報道されたりネット上でも取り上げられたりして、『税金で遊んでるじゃないか』『税金で酒飲んでるじゃないか』と。生活保護は“怠けて働かないで税金で食べていきたい人が受けるもの”というイメージで、相当やられた時期がある」と説明した。
■ひろゆき氏「総理の言う通りガシガシもらいに行きましょう」
生活保護で手厚い支援を受けると、働く意欲が減り、抜け出せなくなる。ワーキングプアでいるより収入が高く、働いた分だけ生活保護費はカットされ“働き損”になることなどから、脱するメリットがない“貧困の罠”だという指摘もある。
その“出口”の部分について田村氏は「働いた分が収入と認定されると、その分保護費が減る仕組み。働いた分とは世帯で働いた分のことだが、不正受給という話の中で、高校生がアルバイトで得た収入を言わなかったのも不正受給と言われている場合がある。高校生は一定額を収入認定しない仕組みにはなっているが、(全体的に)もう少し働いた分の収入を上乗せして、ここから一定のお金を貯めて就職も決まればステップアップした生活が先にあるということが描けるようなケースワークをやってほしい」と訴える。
この点について、SNSで「総理の言う通り(生活保護を)ガシガシもらいに行きましょう」と発信した2ちゃんねる創設者のひろゆき氏も「『ハリー・ポッター』を書いたイギリスのJ・K・ローリングさんは、もともとシングルマザーでお金がなく生活保護を受けていた。その時に書いた小説が当たって、2年前の年収が100億円超というように、何かしら働けない状況があって、その間(生活保護で)生活して、ちょっとずつ仕事をして売れたという人もいる。生活が苦しい時はさっさと生活保護を受けて生活を安定させて、能力・スキルを磨いて仕事をしましょうというのが普通だと思う」と述べた。
働く能力や意欲のある人に向けた“第2のセーフティーネット”と呼ばれる「求職者支援制度」も存在する。雇用保険を受けられない人を対象に、本人の収入が月8万円以下、世帯全体の収入が25万円以下で、世帯全体の金融資産が300万円以下まで認められるなど、生活保護とは違って一定の資産を保有しながら受給できる。民間の職業訓練を受けることで、生活費として月額10万円の職業訓練受講給付金が原則1年間支給される。
しかし、田村氏は「条件が悪すぎる」とし、「本人収入が月8万円以下なら生活保護だろうと思う。生活保護は(抵抗がある)という方がこの制度で職を得ていくという点では確かに使えるが、生活保護を受けさせないための水際作戦で使われる場合もあるので、若干問題がある。求職者支援の職の部分でも、人材が不足している介護や建築(業界に)にもっていこうとしたりで、その人が何をしたいのか、どういう適性があるのか、場合によっては学び直しも含めて、いろんな選択肢をもってこれからの人生が考えられるような制度になっているかというと、あまりそうではない。不十分な点が多い」と課題にあげる。
これに対し、ひろゆき氏は「賢く使えるものは行政が知らせたほうがいいと思う」と提案。リディラバ代表の安倍敏樹氏も「例えば、若い女性に対するアウトリーチ(行政や支援機関などが積極的に働きかけて情報・支援を届けること)を政府はできていない。一方で、風俗業界などはめちゃくちゃな広告費を投じていて、アウトリーチの競争で圧倒的に負けている。国の制度が届く前にそういう業界に引っ張られるという構造があって、その業界がダメだという話ではなく、(政府は)アウトリーチに予算をつけてもいいと思う」との見方を示した。
(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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