みんなで「Go To Goro」してみない?「孤独のグルメ」久住昌之氏がコロナ禍で提案したい「1人で食べること」で救われるものの大きさ
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(C)Masayuki Qusumi,PAPIER/Jiro Taniguchi,FUSOSHA

 新型コロナウイルス感染拡大を受けて2回目に出された緊急事態宣言が11都府県に拡大された1月13日、Twitterで行われた1つの投稿が瞬く間に拡散した。投稿したのは人気漫画・ドラマ「孤独のグルメ」の原作者である久住昌之氏。主人公の言葉として「俺の食に密は無い。がんばれ、飲食業界。井之頭五郎」とイラストを投稿すると、リツイートは約8万、「いいね」数は20万を超えた。対象となる都府県にある飲食店が、営業時間を短縮することになったが、先の見えない短縮営業により、久住氏の知る店が1軒、また1軒と閉まることにもなった。「政府は『会食は4人まで』って言うけれど、そんなにみんな会食なんていう食べ方しないじゃないですか」と、首をひねるとともに「みんなで『Go To 五郎』したらいいんじゃないかと思うんですよね」と提案もした。1人で食事をすることのエキスパートとも言える久住氏に、食に関する思いを聞いた。

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 正直びっくりした。まめに投稿をする久住氏ではあるが、ここまで反響が出たツイートもなかったからだ。ただ同時に、それほど今の世の中において「1人で食事をする」ことについての関心の高さも再認識することになった。

 久住昌之氏(以下、久住) 1回目の緊急事態宣言の時は「夜の街」ということでしたよね。ライブハウスとか。ただ今回は飲食店。黙って食べるような店もあるし、いろいろなお店もあるのに、一律全部というのも、ちょっとどうなんだろうと思ったんですよ。政府も「会食は4人まで」と言っていたけれど、会食なんていう食べ方って一般の人はしないじゃないですか。考えれば、大人が仕事中にお腹すいて4人で夕飯を食べに行くのは「会食」ではない。みんな言葉少なにそれぞれが頼んだ定食とかを食べるものだし。飲み会で人が集まるのがよくないっていうなら、会食なんていう言い方じゃなく、「飲み会」という風に言えばいいと思う。

 久住氏が強く思うのは、「普段の食事」まで時短営業の対象になってしまったことだ。本人もこれまでは午前11時から午後11時まで働き、午後3時ぐらいに遅い昼食、仕事終わりに飲みがてら夕食、というライフサイクルだったものを「店で食べるために」、全てを3時間ほど前倒しにした。これでも、午後8時には閉まる店に間に合わせるのもギリギリだ。

 久住 自分が行くような店は、1人で飲みに来る人も多いから、しゃべらないんですよ。「孤独のグルメ」の井之頭五郎も、頭の中ではくだらないことたくさんしゃべっているけど、飛沫は飛ばないですからね(笑)

 1月に2軒、2月に入ってからも知り合いの店が閉店した。そのうち1軒は出身地である三鷹の町中華。貯金を切り崩しながら営業はしていたが、先行きが見えないことで決断をしたという。

 久住 仕事帰りに1人、店のテレビ見ながら餃子でビール飲んで、タンメン食べて帰るような店でね。平日夜は独身のサラリーマンとか、働いて夜ご飯を作るのが大変そうな女性客も多かった。店のお母さんが「今月で閉めることになっちゃって」って、みかんをくれたりする、そういうお店でした。

 大規模チェーン店でも閉店が相次ぐ中、家族で営むような店への影響ははかりしれない。人間味溢れる店が1軒、また1軒と閉まっていく話を聞くのは、なんとも寂しい。だからこそ、そんな店に少しでも客が通い続けられる仕組みができてほしいと願う。それが「孤独のグルメ」の主人公・井之頭五郎のように、1人で食べる「Go To Goro」だ。

 久住 「Go To トラベル」なんかにお金出すよりも、食事のお一人様券を出した方がいいと思うんですよね。1人で食べる時のクーポン。「Go To Goro」ですよ。近所の立ち食いそばでもいいし、高級なフランス料理でもいい。だけど行くのは1人で。お金を持っていない人は安いところ、お金がある人は高いところでいい。「会食」なんていかにも喋りながらうまいもん食いそうな話じゃなくてさ。普通の人が、普段に、安い外食の夕飯を食べること。そういう普通の日常生活を大事にして、それを支える飲食店を守る政策を考えないといけない。

孤独のグルメ - season1
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 外食だからといって、毎回大騒ぎする必要もない。おいしいものを食べられるだけで十分幸せ。目玉が飛び出るごちそうでなくても、今の空腹が満たされる、ほどほどのうまさがあればそれでいい。「食事」というものに、少し多くを求めすぎていた時代でもあっただけに、それを見直すことで救われる人が多いのではないかと考えている。

 久住 「一人でも楽しい一食にしなきゃ!」なんて頑張って食べるのがご飯じゃないでしょ(笑)。そんなに毎食毎食幸せじゃなくたって、いいじゃないですか。普段はそこそこにすますと。肩に力を入れてもしかたない。一人で食べるのは大変って、それは慣れていないだけの自意識過剰で、みんな人のことなんて見てないから大丈夫ですよ(笑)。 “五郎ちゃんごっこ”と思って、気軽にやってみてください。

 会社の仲間と連れ立って行っていたランチを、1人で行ってみる。リモートワークにより自宅で済ましていたところを、行くきっかけがなかった地元の店で食べてみる。そんな何気ない1食で救われるものは、想像以上に大きい。

◆久住昌之(くすみ・まさゆき) 1958年7月15日生まれ、東京都三鷹市出身。大学在学中から美術、音楽などに興味を持ち、執筆活動では1985年に初の単独著書「近くに行きたい 舞台は江ぐちというラーメン屋」を書く。多くの「食」に関する著書がある中、1994年に漫画原作として「孤独のグルメ」の連載をスタート。2012年にテレビ東京でドラマ化されると大ヒットし、海外でも放送されるようになる。

◆孤独のグルメ 1994年から連載された漫画で、主人公の雑貨商・井之頭五郎が仕事の合間に立ち寄った店で食事する様子を描いている。仕事先で見かけた店に入った中年男性・五郎が、食事に関して頭の中で様々な感想を述べていく。2012年からスタートしたドラマ版は、五郎役を俳優・松重豊が好演。シリーズ8まで続いており、大晦日には生放送も含んだ特番も組まれるようになった。原作者の久住氏は「ふらっとQUSUMI」のコーナーで出演、ドラマに出てきた店を実際に訪れている。 

孤独のグルメ - season1 - 1話
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孤独のグルメ - season8
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