“軍事的思考”が感染症対策でも大きな柱になる…橋下氏と岩田健太郎教授が対談
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 7日のABEMANewsBAR橋下』に、神戸大学の岩田健太郎教授が出演。橋下徹氏と、日本のワクチン開発、さらには安全保障の観点からの感染症対策について議論した。

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岩田:時間をかければ開発される可能性はあると思うが、やはり日本はワクチン開発に対して力を入れてこなかった。お金がまず入っていない。それからアメリカがすごかったのが、何万人という規模の臨床試験をあっという間にやってしまったが、そういう経験値が非常に少ない。菅総理は“日本は患者さんが少ないからそういうことができない”と仰っていたが、それは間違いで、中国が南米などで臨床試験を行ったように、工夫すればいくらでもできる。そういう実施力、パワーが弱いところが出てしまったと思う

もっと言うと、隣の中国の科学技術開発力、学術研究のアウトプット力がどんどん強くなっているのに対し、日本は非常に弱くなってきている。文部科学省が大学の運営交付金を削っているし、この数十年、むしろ国をあげてイノベーションの力を弱くしてきた。そういったところで、いざという時のクライシスマネジメントがどうしても弱くなってしまうと思う。

橋下:色んな意見があるし、これが全てだというわけではないけれど、アメリカにしても中国にしても、スピード感がある背景には、軍事的な思考というものも絶対にあると思う。

例えば地下鉄サリン事件が起きた時には世界が驚愕し、安全保障の観点からバイオテロへの対応に力を入れるようになったように、彼らは常に生物化学兵器にやられた時にどう対応するかを考えているし、軍隊が前面に出なかったとしても、感染症がバッと広がった時に学術界や医療界が一気に対応するという有事への切り替えができる。日本はやっぱりそういう軍事的な思考が弱い。加えて日本学術会議問題でも言われたことだが、“軍事研究を禁止する”とあえて言わなくても、やりたい人はやればいいんだし、やらない人はやらなくていい。この研究は軍事分野だ、民生分野だと明確には分けられないわけだし。今回のワクチン対応というのは、軍事的な視点でしっかり研究をするとか、体制を考えるというのは絶対に必要だと思う。

もちろん軍事研究をしていたからといってワクチンが開発できるというわけではないと思うけれど、アメリカがあれだけの治験がバッとできたのは、やはり生物化学兵器に対応するシミュレーションができているからだとも聞いた。科学のための予算、人員が必要だということには賛成だが、政治・行政の立場でいくと、学者の自由な時間を確保するための予算を増やしていくのはなかなか難しい。でも、国民の命と財産を守るための予算だということであれば、お金が回しやすいところもある。戦争をするためではなくて、国、国民を守るための安全保障のための研究なんだという視点を学術界の人には持ってもらいたいと思う。

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岩田:アメリカは第2次世界大戦直後にも、司法取引をして731部隊の人たちを戦犯にせず、色んな所で活躍できるようにする代わりに、研究データをもらってしまった。地下鉄サリン事件やアメリカの炭疽菌テロなどのようなものへの対応力の涵養、研究開発をやってきたし、特に炭疽菌テロの時に僕はニューヨークで感染症の修行をしていたので、よく覚えている。あの時はアメリカもダメで、CDCですらまともに対応できずパニックになった。その失敗から学び、危機管理能力とかリスクマネジメント能力を高めたと思う。

中国は2002~2003年にかけてSARSでかなり痛い目にあったので、香港も含めて感染症対策を強化した。僕が香港に行ったときには、SARS専門病院のような、感染症に特化した病院があった。普段は空っぽで仕事をしていないが、危機のときにはいつでも発動できるよう、準備をしている。韓国もMERSという中東からの感染症で非常に痛い目にあったので、やはり危機管理を重視してCDCのような組織を強化していった。

日本ではサリン事件はあったものの、幸か不幸か外からの感染の危機は遭遇してこなかったために、大丈夫だ、大丈夫だと専門家を養成せず、惰眠をむさぼってきたそして今回、僕に言わせると“素人”の厚生労働省にリーダーシップを取らせてしまったがために、感染対策も素人くさいもののまま、本番に突入してしまった。思い出してみれば、去年のダイヤモンド・プリンセス号への対応もまさに素人芸で、プロから見ればお粗末そのものだった。しかも、それを綿々と続けてしまう。今回の教訓を奇貨にして、何とか感染症対策にプロフェッショナリズムとか科学性とか予算、そして安全保障の観点を必ず入れるようにした方がいい。

橋下:グローバルな時代は、そこが政治の大きな柱になると思う。今は入国制限をやっているが、いずれ解除されれば人がどんどん移動するような状況になるだろうし、感染症についても想定しておかなければならない。今まで欠けていたここの部分をきちんと確立していくことが、これからの政治の大きな課題になるだろう。(ABEMA/『NewsBAR橋下』より)

対談 橋下徹×岩田健太郎 ゼロコロナは可能?
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