7日のABEMA『NewsBAR橋下』に神戸大学の岩田健太郎教授が出演。橋下氏が「岩田さんと一番話したかったことだが、激論になると思っていた」と話す、“ゼロコロナ”か“ウィズコロナ”か、という問題について議論した。
橋下:立憲民主党が“ゼロコロナ”を打ち出しているが、僕は違うんじゃないの?と思っている。そりゃあ僕だって、できるならゼロを目指したい。だけど、ゼロにはならないということを前提に、10なのか100なのかなど、どこまでを許容するのを考えるのがポイントだと思う。それがウィズコロナだ。でも野党は自民党との対立軸を出したいのか、“ゼロコロナ”という。この番組に来てもらった小川淳也議員に聞いたら、“ゼロにするんじゃなくてゼロを目指す”と言っていた。でもそれでは自民党と大差なくなってきちゃう。
岩田:実を言うと、去年は迷っていた。2月ぐらいの段階では、“できるだけゼロ”。当時は飛沫感染だし肺炎の原因だし、どちらかというと“インフルエンザの親類”みたいなイメージで捉えていて、中国から持ち込まれた場合、すぐに抑え込んでゼロでメンテできたらいいな、それができなくなったら“ウィズコロナ”でやるしかないな、という感じだった。
ただ、今は違う。病棟で実際に患者を見ると分かるが、インフルエンザとは全く違うタイプの病気だ。インフルエンザだったら冬が終わって春が来れば対策をしなくても勝手にシーズンが終わってしまう。でもコロナは放っておけば夏でも増えるし、非常に対策が難しい。野党の方々が何を思っているかは分からないが、僕は“ゼロコロナ”を目指すべきだと思っているし、達成も可能だと思っている。実際、中国、台湾、ニュージーランド、オーストラリアではそれを目指してきた。オーストラリアのメルボルンなんかではウイルスがちょっと入っただけで妥協せず街をすぐにロックダウンする。それを短期的にやって、コロナがゼロになったら大坂なおみさんが優勝した全豪オープンテニスも開催した。
日本でも、適切な対策を取ればゼロに持っていくことはできる。例えば、島根、鳥取、秋田などはコロナがほとんど出ていない地域だが、大切なのは、それをちゃんと維持してあげること。大阪や兵庫と島根の間を人が移動すれば、ウイルスが持ち込まれてしまう。広島市がPCRをやろうと言っていたが、仮に感染者を見つけて隔離しても、岡山や兵庫との往来を許していれば、またウイルスが持ち込まれて振り出しに戻る、だ。
せっかく感染者数が下がってきているのに、GoToをやったりして、増やすように仕向けてしまう。それでは努力が水の泡だし、また同じような対策を延々とやることになる。だからみんな疲れて、うんざりしてしまう。結果として、夜は外に出ないようにしようみたいなことを言わざるを得ないわけで、経済対策としても裏目に出てしまう。やはりGoToは完全に大失敗で、ああいうことをやったがゆえに年末年始は景気や人の心が冷えこんでしまった。
だからゼロに持っていくことは可能だし、それを維持できれば色々な活動もできるようになる。外食もできるし、マスクなしで外も歩けるわけだ。これこそが本来目指すべきビジョンだと思う。
橋下:立憲民主党の政策案も、岩田さんと同じような考え方を目指していると思うが、これは政治家が舵取りをする重要な分野の話だ。確かに中国は抑え込んではいるが、感染者数が10名ぐらい出ると一斉にPCR検査をして都市の700万人を家に7日間も閉じ込めるとか、日本人はなかなか許容できないんじゃないかというような、尋常じゃない抑え込み方をしている。
台湾、オーストラリア、ニュージーランドも話がよく聞くが、感染症の専門家や数学者の皆さんに言わせると、人口密度によって感染拡大のリスクは高まるわけで、人口2300万人の台湾、2000万人のオーストラリア、500万人のニュージーランドと、首都圏だけで6000万人を抱えている日本を同じように比べるのは違うのではないか。むしろ欧米の先進国を見ていると、ロックダウンをしようが誰でもPCR検査をしようが、必ずしもうまくいくわけではない。国柄、国民性、免疫力も違うし、ゼロを目指すというのは国の運営方法としては間違っているじゃないか。
岩田:人口密度が高い方が流行も広がりやすいというのは事実だが、それを踏まえた上でゼロを達成することはできる。北京や上海は人口密度がものすごく高いわけだが、ゼロが維持できている。もちろん、中国みたいなやり方がいいとは思わない。ご指摘のように、人権をないがしろにしてやっているし、日本にはそぐわない。一方で、人権を大事にしているニュージーランドやオーストラリアでもできるわけだ。それぞれのいいところを見る必要がある。加えて、アメリカ合衆国の最大の問題は往来の自由だ。いわゆる変異株がイギリスから入ってきたが、すでに40州近くの州で見つかっている。これも人の移動が激し過ぎて一気に広まってしまったということだ。そして、一度広がってしまうと、あれだけでかい国では止めようがない。
確かに日本全国でやろうとすると、広すぎるし人も多過ぎる。しかし先ほども言ったように、島根県、鳥取県、秋田県はほぼ“ゼロコロナ”だ。おそらく山口県、長崎県、佐賀県なども、ちょっと頑張ればすぐにできる。そしてそれを維持できれば、もっと自由なことができるようになる。僕がアフリカのエボラ対策でやっていた“セグメンテーション”という考え方だが、自治体ごとに小さくまとめて、ゼロの地域を一つずつ増やしていく。今すぐ大阪や東京をゼロにするのは無理な話だし、机上の空論だ、ということになる。しかし東京や大阪ですら去年の夏ぐらいには日に40人ぐらいまで下げることはできた。あそこでダメ押しをすればよかったのに、GoToをやっちゃった。
実は今、自治体間の往来については誰も力を入れていない。緊急事態宣言下でも県をまたぐ移動については“自粛しよう”というスローガンだけ。一方、飲食店の方ばかりに力を入れてきたが、そればかりに力を入れすぎると、飲食店イジメみたいになってしまう。そもそも日本は島国なので、ヨーロッパに比べれば輸入感染症の対策が取りやすい。そのアドバンテージを活かし、地域ごとに“ゼロコロナ”を達成させ、維持させることを目標にする。そうすれば、いつ終わるともない自粛生活が延々と続き、うんざりしている我々も、“あそこはゼロになった”と希望が持てるようになる。
橋下:地域ごとに、というのは僕も賛成だ。どこが違うかと言えば、ゼロになるまで社会経済活動を止めろということなのか。30人とか40ぐらいの数字でダラダラいくんだったら、社会経済活動を全部止めなくてもいいじゃないのか。岩田さんはGoToは失敗だったとおっしゃっているし、確かにあの時は日本全国で、ということでグチャグチャになってしまった。ただ、医療のキャパシティを広げていきながら、首都圏や大阪なんかで感染者数が落ち着いていた場合、その域内でイートなどの経済活性化策をやるそして、感染が広がっているような所は止める、ということではいけないのか。
岩田:社会経済活動を止めるというのは、いわば感染症の拡大を先回りして止めるための手段であって、感染者がメチャクチャ増えた時にやることだ。日本には、得意のクラスター対策があるから、感染者が十分に減った時には、そこまで止める必要はない。ただ、無症状の人のPCR検査を上手にできなかったこと、クラスター対策のための人員が足りなかったことがあり、追いかけられなくなってしまった。それが典型的なのは神奈川県だ。感染者が少なくなってきたら、すぐに捕捉して隔離するという形で、社会経済活動の制限を理にかなった形にしながら、さらに感染者を減らし続けることができると思う。
橋下:言葉の綾みたいになってくるが、ゼロになるまで社会経済活動を止めるということじゃなく、ゼロは目指していくけれど10人なのか20人なのか30人になればクラスター対策で追いかけていきながら社会経済活動も並行してやっていく、というのを、僕はウィズコロナと言っている。
岩田:でも、最終的にはゼロに持っていかないと、同じことの繰り返しになってしまう。集団免疫ができて日本人全体がコロナに強くなるのはだいぶ先だ。ワクチンを接種したとしても、おそらくかなりの時間がかかる。長期戦というのはしんどいし、日本、あるいは世界は耐えきれないと思う。だから、あくまでも目標はゼロだ。そのための作戦を、規模に応じて順次立てていくわけだ。
感染の規模が小さくなればなるほど、みんなに制限をかけなくて済むような、フォーカスを絞った感染対策が取れるようになる。感染の規模がでかくなると神奈川県のようにクラスター対策が役に立たなくなるので、先回りしてロックダウンや緊急事態宣言によって、飲食店を閉めようみたいな話になってしまう。去年は緩めてしまったが、そうではなく、ゼロにするというゴールをちゃんと忘れないことだ。
はっきり言えば、日本政府には対策はしているが、何を目指すのかというビジョンがなく、世論が騒ぐとそれに対応するだけ。クルーズ船が来たらクルーズ船に対応し、マスクが足りないと言われればマスクを配り、学校が危ないと言われれば学校を休ませ、ベッドが足りないと言われればベッドを増やす。要は言われたことに対するレスポンスしかしてこなかった。でも感染対策というのは世論が騒ぐまで大きくなるまで放っておいてはダメで、その前につぶしてしまうのが大事だ。だから後手後手だと言われる。
橋下:最後は国が方針を決めないといけない。どっちを取るんだと。問題なのは、それがはっきり分からないこと。世論に押されて、ゼロを目指すと言った方が受けがいい。でもゼロと言ってしまうと、ものすごく社会経済活動を止めないといけない部分がある。はっきりしないことが政治がだらしないところだと思う。(ABEMA/『NewsBAR橋下』より)
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