BACKSTAGE TALK #20 Jesse McFaddin
AbemaMix出演の合間に、HIPHOPライター 渡辺志保 氏がアーティストにインタビューを実施!
ココでしか聞けないBACKSTAGE TALKをお届けします!
ー昨年末にリリースされた初めてのソロ・アルバム『Crescent』を作るにあたって、一番背中を押したことは何でしたか?
Jesse McFaddin:逮捕されて、これまでに自分が作り上げてきた仕事や身近なものが全て崩れて行ったんですよね。砂で作っていたものが崩れて全部砂浜に戻って、崩れた後に残ったものがチラホラあって…というような。もちろん、流されて消えたものもいっぱいあった。でも、そこで残ったのが、自分の声と、歌詞を書けるということだった。
そこで、歌いたい内容だったりとか、伝えたい内容が浮かんできた。何もプランはなかったけど、スタジオに入ってみようと思って。ちょこっとづつ作って行ったら、だんだん形になったという感じ。
【映像】Jesse McFaddin AbemaMix ライブパフォーマンス
ー逮捕されたのが2019年の夏でしたが、そこからまたスタジオに入るまで、結構期間が空きましたか?
Jesse McFaddin:明確に覚えてるんだけど、2019年の8月14日に出てきて、9月14日にスタジオに入ったんだ。1ヶ月間ずっと落ちていて、「色んなものがこんなにも無くなるんだ」って気持ちでいっぱいだった。
運よく、当時ちょうど息子が2歳くらいで、そいつと一緒にいっぱいいれたから、あんまり人とも会わずに外にも出ず、家族だけで過ごしてるのもすごく心地が良かったんだけど、それに慣れるのも怖いというか。
で、9月14日に、エンジニアの仲間に「ちょっと、入れる?」って連絡したら、「待ってたよ、電話」って応えてくれて。
ーそこから、ソロ作品用に制作を進めていった感じですか?
Jesse McFaddin:そのあとはギターをメインで曲を作って行って、ヒップホップをやろうとかバンドをやろうとかは全く考えてなかったですね。ギターでいいリフができたらメロディを乗っけて、というのを繰り返しやっていった。
ーそれがだんだんと、『Crescent』を出すまでに色んなものが固まっていった?
Jesse McFaddin:最初はリハビリ程度にやるか、と考えていたんだけど、途中で考え方が変わって。やっぱり、俺のミスで、うちのバンドの乗組員全員を船から下さなきゃいけなくなった。
RIZEでやってもThe BONEZでやっても、こいつらは何も悪くねえんだから、まずは俺が1人でやるべきだなと思うようになって。バンドのために、まずはここで俺が一人でやって、ちゃんと爪痕を残して結果を出すべきだ。
そののちに、ようやくフラットにバントを始めることができるのかなって考えるようになったんですよ。
ーソロでのライブの形態は、IZOHさんがバックDJとして参加しているスタイルで、とても新鮮でした。バンドではなく、1MC+1DJでのパフォーマンスで。
Jesse McFaddin:DJとのライブは、大好きですね。元々、バンドをやる前はバイトというか、勉強としてレコードボーイっていうのをやっていて。それが14歳くらいの時だったかな。例えば「Jump Around」を掛けたら次はコレだなとか、グループ・ホームの次はこっちかなとか、DJがレコードの二枚づかいをするときに次にかけるレコードを引っ張り出して渡す、ってことをやってたの。
DJ KEN-BOくんが地元の先輩で、俺の同い年にKEN-BOくんの従姉妹がいたんだけど、「お前、やべえな!」とか言いながら話を聞いてた。城南のノリだよね(笑)。
ーこれまでのコラボ作などを聴いて、Jesseさんのバックボーンに色濃く影響しているのはヒップホップのカルチャーなのかな、と感じていました。
Jesse McFaddin:俺の親父はロック一筋でやってたから、親父が知らない音楽をディグりたくて、ジャパニーズ・ヒップホップをどんどんディグるようになった。
昔、さんピンCAMPもバスの後ろに捕まりながらスケボーで戸越から観にいったんだけど、チケットもないから、木を探して登って一番後ろから見てたの。パッて観たらHACが出てて、その後のRHYMESTERの2MCスタイルやNIPPSのバイリンガルなラップにもヤラれた。
でも、一番ヤラれらのはイルマリアッチのライブ。そこで初めてTOKONA(-X)くんを観て「きっと俺と2、3個しか変わらねえんだろうな。でもステージに立ってる」って、すごく悔しかったんだよね。それで、「俺も絶対このシーンに入ってやる」と思った。
だから、DJが後ろにいるっていうのが一番落ち着くというか。
ー今回の『Crescent』は曲ごとに、それぞれに込められたメッセージが濃くて、どの曲もずっしり響きました。
Jesse McFaddin:今のヒップホップって、メッセージないもんね(笑)。かっこいいし、ノリも良くてキャチーだけど、目標というか何のために歌ってるんだろう?って思うこともある。
ーそうですね。どちらかと言うとファッション的なかっこよさに引っ張られすぎているとは思います。中でも、「Welcome」は人種問題にも触れた、すごく強いメッセージを持った曲ですよね。
昨年も、全米から世界各地へと「Black Lives Matter」のスローガンを掲げたプロテスト運動が広まって行きましたが、日本にいるとこうした問題が伝わりづらいと感じたり、ヒップホップに影響を受けたアーティストも、自分がどんなメッセージをどうやって届けるべきなのか分からないと思っているんじゃないかと感じたりしたんです。
そんな中で、Jesseさんが包容力を持ったこの楽曲を発表したことに感銘を受けました。
Jesse McFaddin:最初は、「Welcome」ではなく「All Lives Matter」という曲のタイトルだったの。でも、「Black Lives Matter」と「All Lives Matter」って相反する言葉なんだよね。
最初、この曲は「All Lives Matter」ってタイトルにしようと思っていた。でも、LAの友達に「この言葉は違うんだ」って言われて。「All Lives Matter」は「Black Lives Matter」と相反するメッセージを持つ言葉だと教えられて。でもなんだか、俺は腑に落ちない気持ちになった。
もちろん、今大事なのは奴隷制から何百年も続いているアメリカの黒人たちの人種問題なんだけど、俺たちは彼らの靴を履くことはできない。
でも反対に、俺みたいにミックスの血が流れていて、昔は「あいのこ」とも言われたような立場でもあるし、ブラックの奴らには俺の気持ちは分からない。そこでタイトルについて苦悩したときに「じゃあ、”Welcome“だな」って考えに至った。
ー肌の色や考え方の違いに捉われず、何でも受け入れる、という姿勢ですよね。
Jesse McFaddin:そう。それに、ジョージ・フロイドの事件などを見ていて、どんどん<Black vs White>という図式が広がっているようにも感じた。差別から生まれる憎しみを、また憎しみで返すのはどうなんだろう、って思ったんだ。
だから、違う色や考え方もウェルカムだよって歌詞にした。それは、ミックスだから書けたことなのかなって思う。俺は、ネイティヴ・アメリカンの血も入っているし、スコッティッシュやアイリッシュ、そしてジャパニーズの血も入っているから。
ーめちゃくちゃ貴重な一曲だと思いました。Jesseさんのような立場でラップできる人も、日本のヒップホップ界には少ないですし。今後、ソロの Jesse McFaddinとしてはどんな活動を予定していますか?
Jesse McFaddin:もちろん、JESSEとしてはバンドもやっていくし、RIZEも諦めたわけじゃないし、The Bonezも始動していく。
でも、本名のソロ・アーティストとしてやるからには、背伸びする部分がなくて一生胸張れるような、何十年経っても聴ける音楽をやって行きたいなと思いますね。
例えば、今度はアコギだけのアルバムを出すかもしれないし、ライブはアコギの上にIZOHがブレイクビーツを乗っけて擦る、みたいなこともやるかもしれない。映像でも本でも音楽でも、何十年経っても「これ、かっこよくないっすか?」って言われるものを残して行きたいっていう思いはありますね。
ーソロ作品もリリースした、今の率直なお気持ちは?
Jesse McFaddin:ワクワクが止まらない。俺、鬼ポジティブなんで。