自民党は1日、高市前総務大臣ら保守派議員を中心に、結婚前の姓を通称として使いやすくすることを目指す「通称使用拡大・周知促進の議連」を立ち上げた。党内で選択的夫婦別姓の導入に賛成する意見が広がる中、出席者からは「まずは旧姓使用の拡大を行うべきだ」とけん制する声も。議連には約150人の議員が参加している。
賛成派と反対派、さらには慎重派からも意見が出る中、選択的夫婦別姓をめぐって今どのような議論が行われているのか。テレビ朝日政治部の澤井尚子記者が解説した。
現在の民法と戸籍法では、結婚時に同じ姓を名乗ることが義務づけられている。夫婦同姓は明治時代から120年ほどの歴史があるが、女性が結婚・出産しても仕事を続けることが一般的になってきた今、どちらかの姓を変えないといけないということが結婚の阻害要因になっているという指摘が出てきた。そこで、希望する夫婦に限って別の姓を名乗ることを認めるように法改正すべきではないかというのが、選択的夫婦別姓の考え方だ。
厚生労働省の「平成28年度 人口動態統計特殊報告『婚姻に関する統計』の概況」によれば、結婚時に「夫の氏」を名乗る割合は96%(平成27年)で、妻が改姓する風潮が根強くある。一方、去年2月に行われたANN世論調査では、選択的夫婦別姓に「賛成」が61.4%、「反対」が26.3%と、賛成が大きく上回っている。
賛成派の意見について澤井氏は「姓を変えることが結婚することへの阻害要因になっているのではないか、少子化が進む中でその要因は取り除いたほうがいいと。あくまで選択性なのだから、個人の自由で選べるようにしていいのではないかという意見が自民党の中でも高まっている」と説明。
一方、反対派からは「子どもの氏の安定性。夫婦別姓の場合には、結果的には、両親が子どもの姓の取り合うことになってしまうのではないか。また反対派の議員から聞いた意見では、『お墓はどうするんだ、名前が違うと入れられない』と。さらに、戸籍制度というのは日本が世界に冠たるもの、国民と社会の利益を保全してきたもので、相続制度や社会保険制度も家族単位で設計されているし、配偶者控除や扶養控除などの税制優遇も家単位で考えられているということで、今の戸籍制度は守るべきだという意見がある」という。
ポイントとなってくる子どもの姓の決め方については、「結婚時にあらかじめ、どちらの姓にするかを届け出ておくべきではないか」という意見や、「15歳くらいで選択できるようにするべきではないか」という意見がある。また、野党が提出している案では、「出生児に、どちらの姓を名乗るか決める」としていて、決まらない場合には家庭裁判所に申し立てるとしている。
また、慎重派の“通称使用”という点については、「これまで慎重派、反対派の議員は『絆を守る会』というグループで、選択的夫婦別姓によって子どもの姓の安定性が失われる、戸籍制度の崩壊を招く、家族の根幹にも関わると反対の姿勢を明確にしてきたが、賛成する世論の高まりを受けてこれまでとは違った動きを見せた。それが、通称使用拡大・周知促進の議連で、高市早苗前総務大臣や山谷えり子元国家公安委員長などが、あくまで旧姓使用の拡大周知で女性が改姓によって受けている不利益・不都合を解消しようということを目指している」とした。
選択的夫婦別姓の議論がここ最近になってみられるのは、菅政権が発足したことにあるという。「これを最初に法制審が答申したのは25年前で、その時は自社さ政権(自由民主党、日本社会党、新党さきがけ)だったが、自民党内の反発もあって法案の提出には至っていない。その後、自民党内では選択的夫婦別姓の議論を促す動きもあって、2001年に当時の自民党の執行部に対して議論をするよう呼びかける文書が出されている。その時の賛同者として今の菅総理の名前があがっていた。そのように、菅総理はかなり昔から選択的夫婦別姓に関して前向きだと言われている。7年8カ月続いた安倍政権の岩盤支持層と言われている保守派のグループ、神道政治連盟や日本会議などは選択的夫婦別姓には反対していて、まったく進展してこなかったが、今は国会でも期待感が高まっている」と説明した。