言葉はときに人生を変える。ABEMA4月新ドラマ『ブラックシンデレラ』(4月22日配信スタート)に出演する、俳優・兵頭功海にはその経験がある。高校卒業と同時に地元・福岡を飛び出し、俳優になるためだけに東京にやって来た。2018年にオーディション「NEW CINEMA PROJECT」でグランプリを獲得し、映画『五億円のじんせい』(2019)で俳優デビュー。順調に俳優の道を歩んでいるかのように見える彼だが、いまだに忘れることができない言葉がある。「君は役者には向いていない」。このショッキングな一言は兵頭がデビューしたての頃に言われたもの。彼はこの言葉をどう受け止め進み続けるのか。
「俳優になりたい」。そんな漠然とした思いを抱いて上京し、映画出演までトントン拍子で進んだ。そんな機運の中でその言葉は言い放たれた。「打ち上げの席である監督から『役者に向いていないからやめた方がいいよ』と言われたことがあるんです。そんなことを言われるとは思わず…」とまさに出鼻を挫かれたかたち。当然腹が立ったし、落ち込んだ。
でもその言葉の意味は今なら痛いほどに理解できる。「お芝居の経験も浅く、撮影という状況も未知なものでした。監督からの指示すら正確に理解できないまま現場に立ってるような感覚。沢山の大人がいて、カメラが自分に向けられていて。セリフを言うことに対しても緊張と羞恥心がありました」と反省しきり。
「今考えたら、それは凄く優しい行為だと思います。無名の僕に対してわざわざ時間を割いて、真剣にアドバイスをくれたわけですから」と感謝しながら「当時は大学4年になる年齢までに結果が出なければ地元に帰ればいいと考えていました。でも『役者に向いていない』と言われた瞬間に、俳優という仕事を一生やってやろうと思ったんです。絶対に見返してやるぞって」。退路を断つ決意をくれた言葉として胸に刻んでいる。
悔しさをバネに。覚悟はおのずと行動に現れる。『騎士竜戦隊リュウソウジャー』(2019)のカナロ/リュウソウゴールドという結果を生んだ。自身初の連続テレビドラマ出演作で初めての大役だ。「1年間カメラの前に立たせていただき、撮影現場のイロハを学び、アクションやアフレコ、集団劇なのでお芝居のアンサンブルも経験することができました。その経験は今の僕の活動のすべてにおいて活きていて、間違いなく自分の俳優としての土台になっています」と宝物のように大切にしている。
演じること以外の喜びも与えてくれた。「反響を沢山いただきました。子供世代はもちろんのこと、僕と同年代の男性にも戦隊ファンは多く、お母さんの職場のママさん世代の方々からも『息子が見ている』と言われて。そのようなリアクションをもらうのはとても幸せだと感じました」と手応えを得ることができた。
ABEMA4月新ドラマ『ブラックシンデレラ』は、自分に自信が持てない平凡女子が外見主義に立ち向かいながら夢や恋に奮闘する”逆襲”ラブストーリー。兵頭は、学年一のイケメン・橘圭吾(神尾楓珠)の親友・滝川を演じる。
実は神尾楓珠とは実生活でも親友。「だから親友役と知ったときは嬉しくて。ビックリさせようと思って、楓珠には出演することを内緒にしました。でもすぐにバレて『お前なんで言わないんだ!?』と連絡が来ました」と思い出し笑い。出会ったのは2年ほど前。共通の友人と3人でカラオケに行った際に、お互いにエレファントカシマシの楽曲を入力したことで「意気投合!一緒に『今宵の月ように』を歌いました。そんな関係性もあって、本読みの段階で監督から『二人の親友としての空気感は抜群だ』と太鼓判をいただきました」と役作りはバッチリだった。
ところがナルシストで完璧な国宝級イケメンというキャラクター性のはっきりした圭吾とは違い、滝川には濃いキャラクター設定は与えられていない。いわゆるどこにでもいそうな普通の男だ。「滝川という人間性を表すようなセリフも少なかったので、どのように個性を出そうか悩みました。意識したのは、優しさ。みんなよりも俯瞰で全体を見ているような感じを出したかったので、声を甘めに、圭吾に対してツッコミを入れるときも語尾を柔らかく。そして立ち姿もカッコよく見せるために、背筋に針金を入れているようなシルエットをイメージ」と微調整を重ねて役柄を立体化した。
現在22才と若年だが、意外なことに学生役はこれが初めて。「制服に袖を通したときはテンションが上がりました。撮影現場も若い人が多かったので、そのテンションに引っ張られたりして。僕自身高校3年間は野球漬けだったので、このドラマを通してスポーツ系の青春とはまた違ったキラキラ系の青春を追体験させてもらいました」と役得に笑顔を浮かべる。
親友との初共演にキラキラ青春の追体験。毎日が楽しかった。「オールアップの時は大号泣。キャスト・スタッフ全員を大好きになっていたので、撮影終了後は心の支えをなくしたような気分でした」と『ブラックシンデレラ』ロスに。ちなみに大号泣の際は「空役の(板垣)瑞生は『お前、いいやつだな~!』と言ってくれたけれど、楓珠は爆笑していました!」とちょっと恥ずかしそうだ。
「役者に向いていない」と言われて落ち込んだのがウソのように、充実した俳優生活を送っている。気づけば当初タイムリミットにしていた年齢も超えた。「僕がこの仕事に向いているのかどうかはわかりません。でも向いている人だけがいいとも限らないし、苦手な人が一生懸命やるからこそ響く味もあると思う。自分がやりたいと思って足を踏み入れた世界、その自分がやれると思えるならば、やればいい。今回は楓珠との初共演に刺激を貰ったので、同世代として今後も一緒に俳優業界を盛り上げていきたいです」と息の長い継続を誓っている。
テキスト:石井隼人
写真:You Ishii