「SNSで知り合って」「SNSで繋がって」。世界中の人々とのアクセスを可能にしたSNSが発達した昨今、未成年の少女をターゲットにした悪質な所業が後を絶たない。少女たちの無知さや好奇心に付け入り、鬼畜と化した大人たちが獣の如く襲い掛かる。卑猥な写真や映像を要求し、恐喝する。エスカレートの果てに少女たちは、命の危険すらある凶悪犯罪の餌食となっていく…。毎日のようにニュースとして流されるSNSを媒介とした事件は、日本だけの病理ではなかった。チェコ発の実験的囮ドキュメンタリー『SNS-少女たちの10日間-』(4月23日公開)がそれを教えてくれる。まさに“百聞は一見に如かず”を地で行く衝撃作を生み出した共同監督の一人である、ヴィート・クルサークに緊急インタビューを実施。本国チェコでの公開後の余波から、おぞましき大人たちの逮捕劇などを聞いた。
“12歳”の少女に絶え間なく届く大人からの猥褻なメッセージ
幼い顔立ちをした3名の成人女優が“12歳”という設定の下、子供部屋をイメージしたセット内に設置されたPCを使ってSNSで友達を募集する。女優達は撮影にあたって設けられた「12歳であることをハッキリ告げる」「誘惑や挑発はしない」「露骨な性的指示は断る」などのルールの中で、コンタクトを取ってきた男たちとSNS上で交流を図る。カメラはその様子を10日に渡り密着するのだが、初日から地獄絵図。逮捕者続出も納得の展開となる。
10日間でコンタクトを取ってきたのは2,458人(そのうち女性は40人弱)。この結果にクルサーク監督は「こちらの予想をはるかに超える人数だった」と驚くが、コンタクトを取ってきた男たちの行動に比べれば、序の口の驚きだったといえる。「大人しくチャットをしていた人間が、急に攻撃的な態度に変わったりして、中には『住所を探してやる!』『ホームレスに後をつけさせてレイプさせるぞ!』と脅す人もいました。とにかく気持ちが悪かったし、ゾッとしました。しかし同時にドキュメンタリー監督としての責任感を強く感じました。『これが現実なんだ』と」。
いきなりの全裸。局部アップでの登場。アクセスしてくる成人男性たちの映像にもゾッとする。そんな性獣たちの顔に施された目元と口元がクリアに見える形のモザイク処理も、キモさを際立たせる要因だ。「あの特殊なモザイクは、テロ組織の人々が使うモザイク処理からインスピレーションを得て、4ヶ月もかけて手作業で加工したものです。確かにちょっと滑稽に見えますが、その滑稽さや惨めさもあえて出すよう意図しました。それによって加害者たちの惨めさも倍増しますから」と怒りのこもったこだわりあり。
そのモザイク処理は、当事者やその知人が見たら人物を特定できてしまうのではいないかとも思えるが…。「それならそれで別に構わないと個人的には思っています。コンタクトを取ってきたある男からは、撮影後に弁護士を通して『私の映像を使ったら訴訟を起こす』との連絡がありました。しかし私は劇中で使用しました。何故なら個人の問題よりも、彼はより大きな社会的問題を引き起こしているわけですから。訴訟になったとしてもこちらの勝ちは目に見えていますし」と愚か者に情状酌量の余地はない。
その信念は届き、本国チェコでは一大センセーションを巻き起こした。「映画公開後の反響ですが、これも私たちの予想を大きく超えていました。社会全体からのあらゆる反響があり、ドキュメンタリーを超えた、ある種の社会現象を起こしたように思います。チェコの人口は約1,000万人ですが、本作を映画館では60万人、テレビでは150万人が観ています。オンラインでは『ロード・オブ・ザ・リング』を上回る視聴率となりました」とポジティブな反応に嬉しそう。
国も動いた。「警察はアクセスしてきた人々の中から52人の男性と1人の女性を捜査し、その内8人は既に裁判にかけられて判決を言い渡されました。これについてメディアも多くの記事を出したので、児童虐待や性的虐待についての社会意識が高まったと感じています。さらに三つの行政機関からも連絡があり、学校教育に性教育やオンラインについてのカリキュラムを取り入れたいとの前向きな話も聞きました。政治家たちも本作を観てくれて、サイバー犯罪の為の警察官を増やすよう動いてくれました」と関心の高さに感謝している。
子供を守るためにどうすればいいのか「家族間の信頼関係が最も大事」
実はクルサーク監督自身も4人の子供を持つ父親。SNSの中に潜む闇は他人事ではないのだ。子供たちをネットの底なし沼から救い出すためには何が必要なのだろうか?「例え話しになりますが、満員電車の中でスリがいることは避けられません。でもリュックを背中に背負わないとか、ファスナーを開けたままにしないとか、危機意識を持つことで被害を避けることは出来ます。ネットについても同様で、インターネットを利用するわたしたちの意識の変化、そしてなにより家族間の信頼関係が最も大事なことだと思います」と実感を込める。
専門家も言っていたらしい。「思春期の若者が何に敏感かというと、一番身近な親のプレッシャーに対してです。何か問題が起きた時に、バレたらどうするのかなどですね。悪い成績を親に見せられずに自殺した若者もいます。去年はネット上のトラブルで14人のティーンが自殺しています。やはり一番大事なことは家族間のコミュニケーションです。問題を抱えても、話せるような環境さえあれば改善されるのではないでしょうか。私自身はこの作品の完成に2年半かけたので、この体験から子供たちをどう守ったらいいか、どういう点に注意したらいいかなどを考えることができ、敵を知ることも出来ました」と保護者必見作であるとアピールする。
SNSを介した事件は年々増加傾向にある。少女を食い物にする下劣な大人たちに向けて、クルサーク監督は訴える。「女の子も男の子もそうですが、彼らが持つ純粋で美しいもの、愛とか親しみ、そういったものを大人たちの残忍な行為がすべて台無しにします。その傷を癒すのには大変な時間がかかります。SNSを悪用する輩たちには、そこのところをしっかりと認識してほしいです」。本国チェコ同様に、ここ日本でも『SNS-少女たちの10日間-』の公開は大きな話題になるはずだ。
テキスト:石井隼人
取材協力:矢澤一範
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