東京・高円寺で50年にわたって愛され続けてきた定食屋「薔薇(ローズ)亭」。去年の年末におきた突然の火災で営業が出来なくなったが、再起を願うファンらから多くの支援が集まる中、店を切り盛りする夫婦はある決断をした。
嘉村正氏さん(80)と妻の千種さん(78)は、1973年に高円寺で定食屋「薔薇亭」を開店。「高円寺のお父さん、お母さん」と呼ばれ、50年近くにわたって多くの人に愛されてきた。正氏さんは「お店で大事にしていたことは、ボリュームやおいしさ、人間関係だね。よく食べて、おいしいものを腹いっぱい食べて、いっぱい働け。食べたんだから働かなくちゃダメって」と話す。
しかし去年12月28日の早朝、「薔薇亭」は、突然の火災に見舞われた。夫婦のいでたちに合わせるかのようにカラフルだった内装など、店内の大半が燃えてしまい、営業が困難に…。休業を余儀なくされた。「薔薇亭」は、駅からほど近い人通り多い商店街の一角にあったが、現在は更地になっている。
千種さんは「(ここが)入り口。50年間通ったここが、ちょうどドアがあったところです」。「(火災が起こったことについて)ほんと?なにそれ?うそでしょ?って。そういう気持ちでした。(でも)このままじゃ終わらない。もう一度立ち上がるんだって、私、思ってたんですよね」と、当時の思いを振り返る。
復活に向け、常連客らの有志が応援団を結成。クラウドファンディングで資金を募ることなどが計画された。客と夫婦で作り上げた「薔薇亭」を「絶やすわけにはいかない」。1月下旬、夫婦は物件探しを始めた。
ところが、複数の大きな商店街に無数の飲食店が軒を連ねる高円寺での物件探しは、困難を極めた。正氏さんは「不動産屋回りをして、(物件)ないよ、みたらないよと。ここでやりたいけど、条件がそろわないとやれないでしょ」と苦悩をにじませた。千種さんも「高円寺中、全部探しました」と肩を落とした。
そうした中、「薔薇亭」の前に置かれたホワイトボードには、復活を期待する無数のメッセージが書き込まれていた。正氏さんと千種さんは、苦渋の決断を迫られた。
千種さんは、「(かつて『薔薇亭』があって、今はもう更地になった土地には)もう入れないのね、寂しいよ。また、ここに入りたかったな。ここがちょうど、みんな(が座っていた)カウンターがあって」と涙を流した。正氏さんは、「更地になっちゃったな。どうなるかな」と途方に暮れる。
火災以降、中心となって支援を続け、学生時代から35年間にわたって「薔薇亭」に通い続けてきた若松さん(56)は、「最終的にお2人が決めたことを、我々は尊重しようということは決めていたので、正直いうと、全員がホッとしたというのが正直な気持ちだと思います。僕は2人を見続けてきて、もちろん愛し合っている夫婦ということもあるんですけど、それ以上に我々は戦友だったとおっしゃるわけです。2人で東京に出てきて、この高円寺という場所を見つけて、本当に店に寝泊まりして2人でどれだけ泥水を飲んでがんばってきたのか…。どれほど苦労してやってきたのか…。だから私たちは、戦友なんだって」と、正氏さんと千種さんの「薔薇亭」への思いを語った。
戦友として2人で頑張ってきた正氏さんと千種さんだが、「薔薇亭」は、50年の歴史に幕を下ろした。それは2人が、普通に愛し合う夫婦として再び歩き始める瞬間だったのかもしれない。
正氏さんと千種さんは、50年に渡って「薔薇亭」を支えてくれたファンに向けて、Twitterを通してメッセージを発信している。
ファンから多くのメッセージ寄せられたホワイトボードの前で、正氏さんは「心に決めてね。また出発したいと思います」と話し、千種さんは「皆さん、ありがとう。本当に頭が下がります。ありがとうございます。しばらくの間、待っててね。さよならは言わない。高円寺の『薔薇亭』のお父さん・お母さんより」と感謝の気持ちを伝えた。
Twitterで閉店のメッセージを見たファンは、「どうしようもなく寂しいし、悲しいけどありがとうございました」「今まで幸せを届けてきた分、お2人が幸せな、穏やかな時間を過ごせることを祈っています」など、多くの感謝のコメントが寄せられた。
閉店に伴って、正氏さんと千種さんは、「『薔薇亭』で長年使ってきた、こだわりの秘伝のタレの作り方を受け継いでくれる方がいるならぜひ教えたい」と話している。
(ABEMA/『ABEMA Morning』より)
グルメハウス薔薇亭を応援してくださっている皆様
— 高円寺~グルメハウス薔薇亭~ (@Koenji_ROSE_tei) March 24, 2021
マスターとママからのメッセージが届きました。縦長で読みにくいかもしれませんが、この形での投稿を希望されましたので、その通り投稿致します。#高円寺 #グルメハウス薔薇亭 #薔薇亭 #ローズ亭 #メッセージ pic.twitter.com/lDjaqiDrdC