これはちょうど30年前、まだ街中に本屋が溢れ、スマホは影も形も無かったころのお話。1990年秋に「週刊少年ジャンプ」で連載が開始された「SLAM DUNK」を最初に見た時、「どこかで見た絵だな~」と思ったことを覚えています。漫画家の名前は井上雄彦。見たことのない名前です。いったいどこで見たのだろう?と頭をひねり、少し前にやはりジャンプで連載されていた「カメレオンジェイル」という作品とく絵柄が似ていることに気付いたのです。
後で分かったことですが、井上氏は「カメレオンジェイル」で作画を担当しており、このときは成合雄彦というペンネームを使用していました。
しかしインターネットも無い時代、地方の学生が作家の情報を調べることは難しく、後に「SLAM DUNK」の単行本が本屋の平台に積み上げられていたときに、その片隅で「カメレオンジェイル』が井上氏の過去作品だと紹介されていたことで、初めて確証が得られたという記憶があります。
さて、連載が始まったばかりの「SLAM DUNK」ですが、当初から読者の注目を集めていたように思います。特に筆者が住んでいた地域は当時非常に不良が多く、桜木花道ほど目立つ存在こそいなかったものの、非常になじみがある存在だったのです。しかもこの年、筆者は高校受験の真っ最中だったため、「中学から高校に上がった不良がふとしたきっかけてバスケを始める」というストーリーに極めて強い親近感を覚えていました。
当然、1991年2月に単行本の1巻が発売されたときは買おうと思って近所の本屋を巡りましたが、どこも売り切れの連続。平台にぽっかりジャンプコミックス1冊分の空白が空いているのを見ては「ああ、ここもダメだったか」と肩を落とす日々。しかもちょうど受験シーズン本番の真っ最中だったため、都会に遠征して探すこともできず、結局発売直後の購入は断念せざるを得ませんでした。それまでジャンプコミックスは本屋に行けば簡単に手に入るものだったので、わざわざ予約する必要を感じなかったのです。「SLAM DUNK」の1巻は、人生で初めて「予約しなければ買えない漫画もある」ことを教えてくれた作品となりました。
それからしばらくして、今はもう存在しない、駅前のビルの2階にあった本屋で1巻を見つけたときの興奮は、今も忘れられません。飛びつくようにして購入したその単行本は、30年が経った今でも手元に残しています。当然その後もすべての単行本を揃えましたが、初版を逃したのは結局1巻だけだったのがちょっと悔しいところです。学生の頃に揃えた全31巻の「SLAM DUNK」は多くの友人たちに貸し出し、回し読みされたためにすでにボロボロになってしまっていますが、手放す気はまったく起きません。おそらくはこれから先もずっと、筆者の本棚の一角を占め続けてくれるのでしょう。
今回、コラムを書くためにひさしぶりに単行本を引っ張り出してみましたが、花道たちはあの頃とまったく変わらない姿で筆者を迎えてくれました。しかしあのころ同級生や先輩世代だった彼らはすでに子供のような年齢になっており、自分が歳を取ったことを改めて実感させられたのもまた事実。湘北の赤木や陵南の魚住、海南大付属の牧が自分の半分以下の年齢になってしまったことに頭がクラクラしてきます。もし彼らが目の前に現れたとしても、年上面できる自信はまったくありません。
1月に井上氏の公式ツイッターで発表された新劇場版の詳細情報はまだ出て来ていませんが、果たして筆者はあの頃あこがれた同級生たちの新たな活躍という視点で見ることになるのか、息子世代の活躍を見守るお父さん視点になってしまうのか、自分でもわからないので今から戦々恐々としています。
(C)井上雄彦 I.T.Planning,Inc.
(早川清一朗)