「空気を読んでしまう俳優たちの負担を減らしたい」 Netflix「彼女」にも起用され話題の職業「インティマシー・コーディネーター」とは
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 先月から配信が始まったNetflixのオリジナル作品『彼女』で、日本映画としては初めて起用された「インティマシー・コーディネーター」という職業をご存知だろうか。

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 出演者の感情を表現する手段としても用いられ、時に作品の魅力ともなる刺激的・官能的なラブシーン。演じる俳優にとっては、肌の露出の度合いや、やれること・やれないことに違いがあるものの、センシティブな内容ゆえ、事前に制作との細かなすり合わせが行われないまま撮影に入ってしまうケースも少なくないのだという。

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 実際、8年間にわたり出演した作品でヌードを披露したイギリス人俳優のエミリア・クラークは、「事前に台本でヌード場面の多さに気づいたが、若いキャリアの自分が主張する権利もないので引き受けた。撮影は精神的にきつかった」とインタビューで明かしている。

 そんなとき、主に監督など制作側からの依頼を受けて撮影のビジョンを細部まで把握、俳優との間に立って双方の合意を取り付けていくのが、インティマシー・コーディネーターの役割だ。欧米で本格的に導入されるきっかけとなったのが、2017年にハリウッドでセクハラや性的暴行の告発が広がった「MeToo運動」だ。米HBOは翌2018年、いち早くインティマシー・コーディネーターを起用している。

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 海外経験を活かし、アフリカ大陸での撮影コーディネートを手掛けてきた西山ももこさんは昨年、この職業の存在を知って興味を抱き、アメリカ団体『Intimacy Professionals Association』の日本向けコースに参加。昨年7月に資格取得した。まだ数人しかいないと言われる、日本人インティマシー・コーディネーターの1人だ。

 「どんなシーンであれ、台本には詳しい説明が書いていないことの方が多い。例えば“部屋に入る”“服を脱がせる”“抱き合う”“ベッドに入る”という流れがあったとして、どういう状況で入って来るのか、その時には何を着ているのか。そして脱がせる時に、一体どこまで脱がせ、最終的にどこが見えているのか。抱き合うにしても、手はどこに置かれているのか、ベッドに移る際には何を着ていて、どこまで映るのか、といったことまで明確にブレイクダウンしていく」。

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 時には小道具を用意することもある。「ズボンの上から性器を触ったりするシーンで、下着の中に着てもらう男性用パッドを使う。そうすることによって、触る方も触られる方も抵抗感が少なくなる。他にも、乳房が見えないようにする特殊な小道具も準備しておく」。

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 モデルの益若つばさは「“NOだと言えばいいじゃん”と思う人もいるかもしれないが、新人であればあるほど言い出せない。作品を作りたいという気持ちは俳優も同じだし、多くのスタッフがいる現場の雰囲気に飲まれて言えず、泣き寝入りしてしまうこともあると思う。

 私自身は性的なシーンを撮影した経験はないが、キャミソール1枚で“けっこう肌を露出するな”という撮影もあったし、自分の意図とは違う意見を言わなくてはいけないバラエティ番組の収録もあった。その結果、自分にマイナスになって返ってきたこともある。それでも、“断ってしまったら場の雰囲気が悪くなるかも”とか、“お仕事がもらえなくなるのではないか”と空気を読んでしまう人もいると思う」と話す。

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 また、「ウツワ」代表のハヤカワ五味氏も、「あるファッションモデルの方が、撮影現場にクライアントの方が来ていて見られてしまったという告白をされたことがあった。現場によっては、興味本位で異性のスタッフや関係者が見に来ているケースも多いと思うし、事務所のマネージャーだけが調整するのは難しいと思う」と疑問を呈した。

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 西山さんは「センシティブなシーンが対象なので、未成年がキスをする、といった場面に立ち会うこともある。大切なのは、“嫌だな”だけでなく、“何が嫌で、ここまでならやってもいい”というのを明確にすることだと思う。やはり若手であればあるほど、“ここまでやってみようか”と言われ、求められるままに演じてしまうこともある。

 また、撮影現場についてはミニマムということも大切だ。プロダクションに対して最低限の人数でお願いし、事前に立ち会う必要がある人に対しては連絡してもらったり、壁に注意書きを貼ってもらったりする。また、モニターも誰でも見られる状況にせず、必要最低限か、という確認もする。そのようにして、本人たちの負担を軽減できればと思っている」と説明した。

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 ドワンゴ社長で慶應大学特別招聘教授の夏野剛氏は「時代が変わっているのに自分の常識が変わっていない人はどの業界にもいて、映画界でも大物監督やベテラン俳優などが“こんなの普通だろ”みたいなことを言う人がいる 企業が監査役を置いてコンプライアンスとコーポレート・ガバナンスをきちんとさせようとするのと同じで、現場のスタッフの中にインティマシー・コーディネーターがいるだけで、いい抑止力が生まれるのではないか」と指摘する。

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 西山さんは「アクションシーンであればスタントマンが入るのが普通のことだし、そのことで、“この俳優さんは体を張ってないよね”と言われることは無いと思う。それなのに、なぜ“脱いでこそ俳優だ”とか言われ、本人がやらなければ駄目だという風潮があるのか、それは不思議に思う」とコメント。

 「やはり“俳優側だ”という雰囲気があり、制作側にとっては“面倒くさい立場”という認識がなきにしもあらずだ。しかし、演出に対して“こうしてはいけない、ああしてはいけない”という口を出すわけではないし、撮影がスムーズに進むよう手助けするサポートであって、制作側にとってもメリットのある存在だ、ということはしっかり説明する。アメリカですら3年目の職種なので、日本ではまだまだこれからだ。きちんと浸透させられるよう、正しく伝えていければと思っている」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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