15日のABEMA『NewsBAR橋下』のゲストにお笑いトリオ「3時のヒロイン」の福田麻貴が出演した。先月、自身のTwitterで「この数週間で容姿ネタに関してじっくり考える機会が何度かあって、私達は容姿に言及するネタを捨てることにしました!」と宣言し話題を呼んだ福田が、その真意について説明、芸能界の「コンプライアンス問題」について橋下氏と議論した。
・【映像】橋下徹×3時のヒロイン福田 "笑いのコンプライアンス"容姿ネタの是非
福田:私が“コンプライアンス女芸人“みたいになっていて、そんなことはないが、今後は“面白い”というのと、“傷つくからやめてほしい”というのが譲り合っていく時代になっていくのかなと思っている。
橋下:僕がテレビに出始めた20年前くらい前はバラエティ番組が全盛で、スタジオで何があってもそれは皆が了承、という雰囲気があった。しかし今はそういう時代ではないし、テレビの世界に限らず、個々人との“同意”が求められる時代になってきているということ。そして、その同意の“範囲”がどこまでなのか、ということも重要だ。
例えば格闘技の選手はある意味、命懸けでリングに上がっている。だから場合によってはそこで命を落としたとしても同意の範囲、ということも成り立つ世界だ。番組やイベントによっても、どこまでが同意の範囲なのか、それぞれのタレントさんがしっかり考えないといけないし、場合によっては番組制作者と出演者が約束をしておかないといけない時代だということだと思う。
福田:例えばテレビ番組で男女の芸人がキスをするみたいなノリがある。芸人である以上、それが面白いと思ってやっていると思うが、どちらかでも傷ついた、ということになればハラスメントになったり、訴訟になったりするのだろうか。でも、芸人同士って、“こういうノリがあるよ”ってこと自体が同意って感じもする。
橋下:昔だったら、それを断ったり、文句を言ったりすると、“めんどくさいタレント”ということになって、番組に呼ばれなくなってしまうこともあったと思う。でも番組制作者側の考え方も変わってきているので、“なんだ、これぐらいも応じないのか。こんなのいちいち文句を言うなら呼ばない”みたいなことになれば大問題。
“場合によっては、ちょっとカメラの前でキスしてもいいか”という事前の同意のないキスであれば、立派な強制わいせつになってしまう。ドッキリでも、暴行になってしまうこともあるだろう。そのことを窮屈に思う現場やタレントさんもいるかも知れないけれど、もうそういう芸風、お笑いは目指さない、という人だってたくさん出てきているわけだから。
福田:でも、本人たちは面白いし、このノリで行きたいよねと思ってるのにできない、という現場も生まれてきてしまう。私の場合も、“容姿ネタをやめる”と言ったことで“気難しい芸人”みたいになってしまっているが、そもそもNGは無い
橋下:福田さんのスタンスは、自分はいいんだけれども、それをテレビで見た視聴者や、波及的に傷つく人がいる場合があるから、自分は容姿いじりはやめる、ということだと思う。つまり、出演者同士がどうかという話と、それが電波に乗って伝わった時に、視聴者がどうか、という話に分けないといけない。
まず、出演者同士の話については、基本的には事前の同意がなければ侮辱的な言動やわいせつ的な言動も含め、相手が傷つくことはやってはいけない。そして、それが視聴者にどう映るかというところだが、特にテレビ業界に対して、限りある財産である公共の電波を借りてビジネスをしているんだから、という意識が国民の間に出てきた。そうである以上、視聴者が不快になることはやってはいけない、という話だ。一方で、劇場とか、お金を払って見に来てくれる場所ではそうではないと思う。
福田:私たちが“容姿ネタ、どうする?”という話になったきっかけは、ある番組のロケ。かなでちゃんが、自分でデブボケをやっているところにツッコむ場面があったが、終わった後、プロデューサーさんに“この番組は主婦層にも愛される番組だから、容姿いじりみたいなのはやめてくださいね”と言われた。その話し合いをしている時に、ちょうど新喜劇が流れていて、(浅香)あき恵さんが舞台に登場すると、“ブッサイクやなー”と。こんなタイムリーに、と思った。でも、昔も今も、吉本新喜劇はメチャメチャ愛されいるし、誰もクレームなんて入れない。むしろ私たち芸人にとっては高尚なものというくらいになっている。
橋下:吉本新喜劇が別格扱いされているところもあるかもしれないが、今の人たちは、容姿をいじったりバカにしたりするのはダメだという教育を受けているから。僕なんか、なで肩で首が長いから“ダチョウ”というあだ名を付けられていたし、そうやって平気で容姿に関するあだ名をつけていた。でも、それはダメだという教育が学校現場でも徹底されているからね。そこに対して、テレビなどがどう追いついていくかだと思う。
福田:元をたどれば、普通だったら言わないことを言っちゃうという、“失礼ボケ“というお笑いだった。芸人だって、プライベートでは“ブッサイクやなー”とは絶対に言わない。そういう倫理観を持っているからこそ、お笑いになるというところが、ベタ化してきちゃった。失礼だからこそやっているのに、視聴者の中でも、特に子どもたちが見ちゃうことでのギャップがあると思う。
その意味では、テレビの見方も変わってきているなと思う。昔から視聴者からクレームの電話がかかってくるということはあったと思う。それがSNSが発達したことで、そういう声がより見えやすくなって、コンプライアンスがどんどん厳しくなってきたんじゃないかと。
橋下:僕だって、テレビに出始めた頃は“暴言スタイル”だったから。でも、それって一番簡単。お笑いでネタを作るのは知的な作業だけれど、単にみんなが言えないことを言うというのは簡単なところがある。でも、今はそれはダメだということ。そして昔との決定的な違いは、そういうクレームが“見える化”されたことだと思う。Twitterでも、数で可視化されるから、スポンサーにも見えるし、それによってCMが引いてしまうことをテレビ局も恐れちゃってる。
そこで福田さんに聞きたいのは、ある番組で東国原(英夫)さんと議論になった問題。生放送中に出てきた東さんのイラストが、頭髪が薄いことを強調していて、それに笑いも起きていたので、“申し訳ないけど弁護士として言わせてもらう。容姿をこういうかたちで笑いにするのは、テレビではまずいんじゃないか?”と真面目に喋った。そしたら東さんが“橋下さん、そんなこと言ったら俺のビジネスが成り立たないじゃないか”と、タレントなので上手く切り返してきた。それでも、僕はやっぱりダメ派だ。
福田:だからこそ、私は容姿ネタをやめようというところに至った。私も“目が離れている”とかって、顔をいじってほしいし、相方の場合は体型をいじってほしい。でも、コンプレックスを武器にして、それがお笑いになって気持ちいい、という人の方が世の中では特殊だ。私たちはそれが仕事だから、コンプレックスがある方が得になることもあるが、それは一般の社会とは逆だ。
でも、これまでの笑いの歴史や、先輩芸人さんたちの考え方もあるので、自分たちの責任下にあるネタだけはやめようと。“3時のヒロインは容姿ネタをやめたらどんなネタをするの?”と言われているが、元から相方の体型をいじってるネタはやっていないし、むしろ、ゆめっちが歌って踊っている姿が生き生きと輝いていて、太っている方にとっては希望になるということもあると思う。不快なのは、おそらく“デブ”みたいな直接的な表現だと思う。
ちなみに、実は容姿ネタは2本しかなくて、いずれも私の顔をいじっているネタだ。それを面白いとは思わない人がSNSに増えていたので、面白くないんだと思ってやめることにした。だから容姿ネタを全て捨てるとか、容姿いじりは全てNGというわけではなくて、これで不快に思ったり、傷ついたりする人がいないかな、と考えながら毎回やっていかないといけないと思っている。本当にまだ迷っている感じだ。
橋下:僕自身、こうやって偉そうに話をしているけれど、自分の考えがまとまったのは最近のこと。本人が同意してたらいいんじゃないか、という思いもどこかにあった。渡辺直美さんの容姿を揶揄するオリンピックの演出が問題になった時、渡辺さん本人の対応に対して情報番組のコメンテーターたちは“大人だ”一斉に評価した。しかし、“大人の対応”というのは、“認めた”ということにもなってしまう。だから“私は認めていない”“私のところに依頼があっても絶対に断る”と。福田さんが言われたように、どこまでがいいのか、と悩みながらやっていくのがこれからの時代だと思う。(ABEMA/『NewsBAR橋下』より)