新型コロナウイルスの感染が急拡大するマレーシアで、1日から全面的なロックダウンが始まった。国が必要不可欠と認めたサービス以外は、すべての経済活動が2週間制限される。
商業施設は、食料品など生活必需品の売り場のみ午後8時までの営業が認められる。ANNバンコク支局の白川昌見支局長は「マレーシアのこれまでのロックダウンで最も強い部類に入るもの。一番大きいのがビジネスの停止で、電気や石油など生活にマストな13業種の産業については、出社率を6割に抑えることで操業してもいいとなっている。自動車や鉄鋼など5業種については、出社率を1割にすれば操業してもいいと言われている」と説明する。
10％の出社を認めている理由としては、前回のロックダウンで工場などを停止した際、再開までに時間がかかったことや経済的な混乱を招いたため。今回は稼働というよりも、最低限の保守やメンテナンスといった意味合いが強いという。
なぜマレーシアで感染が急拡大したのか。大きく2つの要因が考えられるといい、「ひとつはインド型の変異株。マレーシアでも見つかっているが、WHOも感染力が今までより強いと認めている。また、感染していても無症状の人がいて、自分が感染していることに気づかず人の中に入っていき、知らぬ間に広がってしまったのでは。もうひとつは、5月中旬にラマダン明けのハリラヤというお祭りがあった。マレーシアは人口の60％がイスラム教徒と言われているが、このハリラヤは一年の中でも最もおめでたい日のひとつとされていて、日本でいうお盆に近い。親戚一同が集まってご飯を食べたり近所にあいさつしたりと、人の行き来が至るところで行われたということだ」との見方を示した。
市民がルール違反をした場合は厳しい罰則があるという。「マスクの着用や商業施設に入る時にいろいろな登録をすることが義務化されている。これらのルールを守らなかった時の罰金が1万リンギット、日本円にして約26万円で、世界で最も高い罰金と言われている。もともとは1000リンギット（約2万6000円）だったが、守らない人が多いので値上げが繰り返され、3月の法改正で1万リンギットまで引き上げられた」。
ロックダウンに関して、企業や市民への補償はあるのか。国民に協力を求めるということから、マレーシアのムヒディン首相と閣僚らが自分たちの給料を6月から3カ月分返納し、この分の金額はコロナ対策の基金に振り向けられるという。企業への補償については検討が続いているということだ。
イギリスの研究グループによると、マレーシアの人口100万人あたりの新規感染者は、5月29日までの7日間平均で235人となり、インドの141人を上回るペースで感染が拡大している。
この点について白川支局長は、「マレーシアの人口は3250万人で、かたやインドは13億人を超えているので、絶対数でみればインドの方が多いが、人口割合ではインドを上回る非常に深刻な事態にある。5月29日には一日で過去最高となる9020人の感染者が確認された。9000人という数字がマレーシアの人にとってすごくショックで、こんなに広がってしまったのかと。これは経済がどうこう言っていられないということで、ロックダウン措置もやむなしとなった」と話す。
厳しい対策と経済活動での板挟みの格好だが、ワクチン接種はどれだけ進んでいるのか。高齢者や医療関係者を中心に進められ、一度目の接種を終えた人は200万人で人口の6％程度。白川支局長の知人によると、「予約はして登録もしているが、全然自分のところに順番が回ってこない。毎日チェックしているけど、健康な普通の人がいつになったら打てるのかはなかなか見通せない。今年中に打てるかなというぐらい」だという。
また、マレーシアに住んでいる日本人が置かれる状況として、「マレーシアには在留邦人が約2万6000人いる。友人に話を聞くと、比較的デリバリーが充実しているので、そこまで不安はないと。ただ、インドを超えるペースで感染が広がっているというニュースを耳にすると、やはりすごく怖い。医療事情がひっ迫してきているという話もあって、とにかくかかりたくないのでなるべく外出しないようにしていると話していた」と明かした。
