2021年4月から放送されているTVアニメ「スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました」。本作にて監督を務める木村延景氏にインタビューを実施した。後半の見どころや、シリーズ前半で意識した視聴者を惹きつけるためのポイント、本作を手がける上で心がけている監督としてのこだわりなどを伺った。
「スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました」は、SBクリエイティブのGAノベルより刊行されている森田季節氏の同名作品を原作としたTVアニメ。現世でハードワークの影響で過労死してしまい、女神の力によって不老不死の魔女として異世界へ転生した主人公・アズサは、スローライフを続けるうちにレベル99となっていた。その噂を聞きつけたドラゴン達が押し寄せて、アズサは不本意ながらドタバタに巻き込まれていく――というのが、ストーリーの導入となっている。
【6/12放送】キャスト出演の「スライム倒して300年」特番を視聴予約
「スライム倒して300年」が目指したのは、ゆるふわの優しい世界
――タイトルと導入が特徴的な本作ですが、シリーズ前半は個性的なキャラクターたちが次々と登場してくるドタバタ展開が印象的でした。
木村延景監督(以下、木村):わかりやすさ重視で、「スライム倒して300年」の魅力の1つであるアズサやライカといったキャラクターたちを出し惜しみなく登場させて、家族としてのやり取りを中心に物語を動かしていく構成になっています。前半は仲間集めの要素が多いですが、個性豊かな家族が増えた後半でもドタバタ劇が繰り広げられますよ。
――OPやEDには主要キャラがみんな出てきているので、毎回アズサの家に「今度はどんな娘が来るのかな」という楽しみがありました。
木村:そこは昔ながらのTVアニメのように、OPから全員登場させちゃおうと。「スライム倒して300年」というタイトルはもちろん、「娘が来た」といったサブタイトルにもネタバレがあるので、わかっていたとしても楽しめる展開を意識していますね。
――サブタイトルなどは原作通りですよね。原作ノベルを最初に読まれた時の印象はいかがでしたか?
木村:お話作りやキャラクターがバラエティに富んでいて、アニメ化に向いている作品だと思いました。あと文章がすごく読みやすい。森田先生もWEBで連載していた小説ということもあって、かなり意識的にそうされていたみたいです。
――原作ではアズサの一人称で物語が進みますが、社畜だったこともあり文章中の単語としてはちょっと重くなる部分もありますよね。それがTVアニメだと、アズサがライカに優しく語りかけるようにまとめられていたのが印象的でした。
木村:TVアニメ「スライム倒して300年」で目指しているのは、ゆるふわの優しい世界なんです。なるべく視聴者にストレスを与えないように、原作の言い回しでちょっと重いなと感じた部分は、明るくなるように表現しています。そこは森田先生も肯定的で、優しい世界だと視聴者が感じられるように表現しようと。
――たしかに感じられました。ちなみに原作で監督が好きなエピソードも描かれているのでしょうか?
木村:後半では原作からアニメにした時に美味しそうなエピソードを、シリーズ構成やシナリオライター、プロデューサー各位の助言をいただきつつ取捨選択していますが、わりと自分の中でも気に入っているエピソードを選んで表現させていただけたという感じですね。
第1話アバンのツッコミポイントとキャスティング
――キャスティングに関しても伺っていきたいのですが、まず第1話のアバン(冒頭パート)でアズサを転生させた女神さま(メガーメガ)役が井上喜久子さんだったことは、全国のアニメファンのツッコミポイントかなと(笑)。
木村:あれは音響チームが気を遣ってくれたもので、実は僕も知らなかったんです。個人的には「そうきたか!」という気持ちで、アフレコ現場でも楽しめました。
――そうだったんですね! 原作でも17歳に関する描写が描かれていたので、森田先生か木村監督の肝入りかと思いました。
木村:森田先生もビックリしていました(笑)。井上さんもアドリブをこなされて全部持っていってくれたので、こちらとしては何も言うことがなかったです。狙っていないところでいい結果が出ることがアニメにはありますが、これは嬉しかったですね。
――メインキャストではアズサ役の悠木 碧さんや、ライカ役の本渡 楓さん、ペコラ役の田村ゆかりさんなど、若手から中堅にベテランまでバランスよく起用されている印象です。
木村:オーディションを経て、最終的には音響チームがバランスを考えて配役してくれました。主役のアズサは原作ではツッコミ役で客観的な位置付けのキャラクターなので、ちょっとほかのキャラクターに比べて一歩引いたというか、浮いた感じになってしまう心配もあったんです。でも悠木 碧さんは芸達者な方なので、アズサを中心にした掛け合いによって活き活きとした展開が繰り広げられたと思います。
もっとキャラクターの過去話などができれば、真面目なライカだけどフラットルテとケンカをすることでその真面目さが崩れていくみたいな掘り下げができて、声優さんもよりキャラクターに入り込めるのかなとは感じました。1クールでは都合上難しかったのですが、もうちょっとそういうサブエピソードをやりたかったですね。
――ライカはふとしたときに見せる内面がとても可愛かったです。フラットルテもブレないキャラですが、やることが尖っていますよね。
木村:ファルファやシャルシャやロザリーもいて、賑やかですよね。ハルカラはトラブルメーカーとしてだいぶ活躍したので(笑)。
――ハルカラはもう、しょうがないやつだからって感じですよね(笑)。
木村:ああいうキャラクターなので、ヘイトが集まらないように気をつけつつ、視聴者が楽しんでくれればいいかなとギャグ要素を多く入れたりしています。お決まりの土下座も1回だけだと卑屈に見えてしまいますが、3回やることでちゃんとギャグとして受け取ってもらえるように……などと意図していました。
木村監督の経歴と「スライム倒して300年」という作品とは?
――木村監督の経歴についても伺えればと思います。「スライム倒して300年」が初監督作品とのことだったのですが、これまでのキャリアはどのような内容でしょうか?
木村:そうですね。もともとアニメ業界には制作進行で入って、演出になりたいと言って東映アニメーションの演出助手の仕事を紹介してもらいました。山内(重保)監督の「も~っと!おジャ魔女どれみ カエル石のひみつ」を東映に入る前に見て、入口は家族向けでわかりやすいけれど、どんどんキャラクターの感情が伝わってくるところに感動したのが、門を叩いたきっかけの1つですね。
そのあと「明日のナージャ」という作品に1年を通じて関わる中で、各話演出の方が見ている子どもたちにわかりやすくしつつも、キャラクターの物語や感情を情熱的に創り上げていくことに触れて、とても演出表現の勉強になりました。
――そこから細田守監督の「ONE PIECE ワンピース THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島」や出崎統さんの「AIR」の助監督をはじめ、山内重保さんの作品や中村健治さんといった方の作品に関わられていますね。その中で経験されてきたことが、「スライム倒して300年」にも活かされていますか?
木村:培ってきたものがどこまで「スライム倒して300年」で活かされているかはわかりませんが、とにかくわかりやすく楽しいものを作ろうと思って演出しています。「スライム倒して300年」でも感情的にウェットにやるときはウェットにやりたいところはありますが、今回は感情に入り込むよりは楽しめるところに比重を置いているんです。
たとえば物語を盛り上げるために、喧嘩をしてしまうなどの枷をキャラクターに与えてそれを解決することでカタルシスが得られて感動できるという作り方もあるのですが、最後までたどり着けないと枷が視聴者にとってストレスになってしまう。なので、1人のキャラクターに枷を与えて感動させるよりは、親しみやすくなるように演出していましたね。
――親しみやすさという部分は見ていてもすごく感じられました。
木村:ちょっとした台詞回しでキャラクターの深いところに入り込もうとして伏線を張ったとしても、視聴者に伝わらなかったら独りよがりになってしまうので、それよりは記号的な表現にも頼りつつ、本当にわかりやすいように作っていたという感じですね。
――そこが初めにおっしゃられた「ゆるふわの優しい世界」へつながるということですね。
木村:8割くらいは森田先生の力じゃないかなと思います。そのあたりのさじ加減がすごくうまかったので。あと、キャラクターデザインの後藤圭佑さんをはじめとした作画チームもしっかりしていたので、僕らは安心して映像にしていけました。コンテでどんなことをやっても、そこから感情の流れを汲んで可愛く面白い魅力的な表情にしてくれましたので。
――それでは最後に「スライム倒して300年」を見ている視聴者へメッセージをいただけますでしょうか。
木村:「スライム倒して300年」という作品は嗜好品なんです。チョコレートのように甘くて、ちょっと疲れたときに見るとリフレッシュできるような。
見て素直に思った、面白いとかつまらないといった感情を大事にしてほしいんです。面白いと思っていただけたなら、今後の人生で大変な時でも「スライム倒して300年」という作品を見て楽しんで、肩の力を抜いて、面白おかしく生きていただければいいなと思っております。
――本日はありがとうございました!
アニメ「スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました」概要
【CAST】
アズサ:悠木 碧
ライカ:本渡 楓
ファルファ:千本木彩花
シャルシャ:田中美海
ハルカラ:原田彩楓
ベルゼブブ:沼倉愛美
フラットルテ:和氣あず未
ロザリー:杉山里穂
ペコラ:田村ゆかり
【STAFF】
原作:森田季節(GAノベル/SBクリエイティブ刊)
キャラクター原案:紅緒
監督:木村延景
シリーズ構成:髙橋龍也
キャラクターデザイン:後藤圭佑
サブキャラクターデザイン:本多恵美
美術監督:内藤 健
色彩設計:竹澤 聡
撮影監督:三上颯太
音響監督:本山 哲
音響制作:スタジオマウス
音楽:井内啓二
音楽制作:日本コロムビア
アニメーション制作:REVOROOT
【公式HP】https://slime300-anime.com
【Twitter】https://twitter.com/slime300_PR
(C)森田季節・SBクリエイティブ/高原の魔女の家
取材・テキスト/miraitone.inc