女優の芳根京子には、デビュー当時から「笑顔が似合う明るい人」というイメージがある。中学時代は学校内での人脈の広さから「友達の輪が広い人」とのお墨付きを得たことも。その笑顔が人々を寄せ付けるのか、SNSでは作品共演者との2ショット写真がよく掲載されていて、「輪が広い人」ならではのコミュニケーション能力の高さを感じさせる。芳根も「確かにバラエティ番組に出演している時の自分を見たりすると、我ながら沢山笑っているなあと思う」と認めるところだが、「基本的に自信のない人間。緊張ももの凄くするタイプ」とイメージとは真逆の自己分析。芳根の飾らぬ素顔とは?
「客観的な言葉を欲しがります」自己満足しない性格
意外なことに、ファーストコンタクトが大の苦手。「心掛けているのは笑顔と、相手の目を見て話すこと。そしてこちらがウェルカムな状態でいること。自分が心を閉ざしているのに相手が受け入れてくれないと嘆くのは理不尽ですから」と芳根流初対面時コミュニケーションの心得を説くが「と言いつつも、私自身『初めまして!』は得意ではありません。ドラマや映画の初顔合わせの場の前日は、いまだに緊張して眠れません」と気恥ずかしそう。
苦手と自覚しながらも、それを感じさせないように自分を演出する。笑顔の似合う人は実は気遣いの人でもある。「日々の仕事で毎回思うのは“上手くいったのだろうか?”ということ。それが演技の仕事であっても取材の仕事であっても、帰りの車中で『大丈夫でしたか?』とマネジャーさんに必ず確認。周りから見て私の振る舞いはどうだったのか?など、客観的な言葉をよく欲しがります」と自己満足をよしとしない性格でもある。
自分自身を客観的に見た時に「笑顔」よりもまず「基本的に自信のない人間」「すぐに落ち込むタイプ」というワードが思い浮かぶようだ。女優としてキャリアは8年を迎え、ブレイク女優の登竜門である朝ドラヒロインもかつて務めた。約7年ぶりとなる主演映画『Arc アーク』(6月25日)の公開も控える。はたから見たら芳根の活躍ぶりは順風満帆。しかし本人としては五里霧中らしい。「どうしたらもっとお芝居が上手くなるのだろうか?とクヨクヨと考えたり、別の仕事の方が自分に合っているのでは?と漠然と思ったり」と打ち明ける。
「この作品を乗り越えたという実績が自信に」主演映画『Arc アーク』で感じた達成感
悩みのチリも積もれば山となる。しかしそのチリを一瞬にして吹き飛ばす風がタイミングよく吹くこともある。芳根にとっての追い風は、自らを鼓舞して成長を与えてくれる作品との出会い。『Arc アーク』はまさにそれだった。不老不死が現実となった少し先の未来を舞台に、芳根は17歳から100歳以上までを演じ切った。ときに笑顔封印でアグレッシブなコンテンポラリーダンスも披露。しかも監督の石川慶とは二度目のタッグ。「役者として誰かに必要とされるというのは凄く光栄でこの上ない幸せです。しかもかなりの大役。選んでいただいたからには前回よりも進化していると思われたい。そこは自分との戦いでした」とかなりの気合で挑んだ。
多忙を縫って特訓したダンスシーンの躍動感は圧巻。突き詰めすぎる芳根を見かねて、共演者の寺島しのぶがストップをかける一幕もあったという。「体にアザができるのが達成感みたいな、ちょっと異常な領域に入っていたのかもしれません(笑)。ダンス経験もないので何が正解かわからず、何かが違う!何かが違う!と没入するあまりに、私と石川監督二人の世界に。永遠に終わらないのではないか?という空気すら漂っていました」と熱演を振り返る。
永遠の命を生きるという正解のない役柄ゆえに「乗り越えなければいけない壁が毎日のように立ちはだかり、アワアワしている自分が毎日のようにいました。主演としてドン!と現場に立っていたいとは思いましたが、共演者の皆さんの支えを受けながら、演じながら作っていった作品という印象。悔し涙もあったりして、自分自身をさらけ出して挑んだ撮影でした」と肉体的にも精神的にも消耗。事実撮影後には「朝ドラ終了時以降、初めての長期休暇を事務所に申し込んだほど」燃え尽きたという。
女優としての自分に満足することはまだなさそうだが、7年ぶりの主演作を通して自信はちょっとだけついたような気がする。「どのお仕事もそうなのかもしれませんが、落ち込んで這い上がって、落ち込んで這い上がって…永遠にその繰り返し。辛く大変なこともあるのになぜ続けるのか?それは大変さや苦労を超える楽しさや達成感があるから。自分の演技に対しては相変わらず満足は出来ませんが、この作品を完走し乗り越えたという実績が自信としてプラスになった気がします」と充実を思わせる笑みをこぼす。やはり芳根は笑顔がよく似合う。
スタイリスト:藤本大輔(tas)
ヘアメイク:村上綾
取材・文:石井隼人
写真:You Ishii