LGBTなど性的少数者への理解を促進するための法案をめぐり連日激論を続けてきた自民党。しかし、野党との修正協議で加えられた「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されない」との表現に対し、差別を理由にした訴訟や政治運動が多発するなどの反対意見が続出、今国会への提出を断念することになった。
19日のABEMA『NewsBAR橋下』にゲスト出演した自民党の稲田朋美衆議院議員が、“先送り”になってしまった法案の中身や今後の見通しについて橋下氏と議論した。
■「むしろ自分のやり方に反省点もある」
稲田:息子の知り合いに当事者がいたということもあって、やはり保守政党である自民党も性的マイノリティの人権を守ることに取り組むべきだと、党の政調会長だった5年前、保守派の論客である古屋圭司先生に委員長になっていただいて特命委員会を作った。そして“差別禁止”ではなくて、理解を増進しよう”という法案を作ろうと議論をしてきた。
橋下:それにしても、今回はものすごい政治闘争があったと思う。潰した張本人は誰だったんですか。それは言えないでしょうが(笑)。橋下:でも、腹が立つ人はいるでしょ?
稲田:(笑)。むしろ自分のやり方に反省点もある。去年亡くなられたアメリカの最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグさんが「正しいことはおやりなさい。ただ、みんなが納得する方法でやりましょう」ということを仰っていたが、確かにそうだなと思う。私は「正しいことならみんなも理解してくれる」と思ってしまうタイプだが、説明の仕方、あるいは最後は“全会一致”でないとダメだという、“自民党らしさ”もある。
橋下:自民党はそこが上手いから、本当に対立している時には、反対している人はトイレに行く。そして、その間に採決してしまう。そうすれば、“俺は反対してたのに、トイレに行ってる間に採決しやがって…”と文句を言えるから。
稲田:そうなんですよ(笑)。
橋下:僕たちも日本維新の会で、原発について激論があった。その時に一緒だった石原慎太郎さんは「資源のない日本には原発が必要だ」という考え方で何十年もやってこられた方。でも、僕らはちょっと違う方向に行くことになった。採決の日、石原さんは出がけ玄関先で転倒されて、“今日は申し訳ないけれど、病院に行くので採決には行けない”と。僕たちももう“そうですか。お大事にしてください”と。これが自民党の政治家なんだなと。だだから石原さんは決してご自身の考えを曲げたわけではないということ。
■「二階幹事長は本当に応援して下さっている」
稲田:自民党には部会、政審、そして最後に総務会というのがあるが、今回の法案は政審までは案は通った。しかし総務会では「内容はいいけれど、いくつか確認したいことがあるので、国会で少し議論をしたい」ということになった。そして佐藤勉総務会長が両国対委員長に「国会の状況はどうか」と聞いたところ、「審議してあげたいのは山々だけど、日程が少し難しい」という回答が還ってきたため、“三役預かり”という不思議な終わり方になっている。
三役というのは佐藤総務会長と下村博文政調会長、二階俊博幹事長だ。幹事長は“要”だけれど、反対してもできることはないし、私からも二階先生に説明したが、法案の内容に関してあれこれおっしゃったことはない。むしろ「日程の問題だったら両国対委員長によく話しをして、行けるところまで頑張れ」と、本当に応援して下さっている。
橋下:二階さんは多分、中身については読んでいないと思う(笑)。「そういう細かい話はみんなでやれ分裂したところをまとめるのが俺の役割だ」という感じだからね。そういう役割の人が政党には必要だ。反対している方々にも配慮するような形の修正をやりながら、最後は両者をまとめるということを考えているんでしょう。
稲田:自民党は議論だけしてまとめない、ということはなくて、最後はまとまる。今回は“三役預かり”ということになったが、野党もいるので、また仕切り直してやる。このような人権の問題は与野党ともにしっかり理解をして、合意してもらった方が良い。
橋下:ただ、「このまんまではやっぱり出せないよ、修正が必要だろ」というようなことになっているという報道もある。
稲田:そこは私も混乱している。日程の話だけだったはずなのに、「修正が必要だ」と。終盤になって、“差別は許されないという認識の下”という箇所について、元々の総理答弁が“不当な差別はあってはならない”だったから、それに変えるんだったらOKだという意見が出てきた。ただ、「差別は許されない」と「不当な差別はあってはならない」は法的には一緒だと思うが…。
■「“不当な”を付けても問題ないと思う」
橋下:僕は「差別は許されない」というところに“不当”とか、“著しく”といった言葉をつけるべきと思っている。今回の法案で僕が気になったのは、体で区別しないといけない問題に関しても差別を許さない、みたいな捉え方をされるのではないかということ。“いやいや、心で男女を決める場合もあれば、体で決める分野もあるよ”ということをちゃんと示しているのだろうか。
稲田:今回の法案は“差別解消法”ではなく、あくまでも“施策を講ずるために努力をする”と書いてあるだけの“理解増進法”なので、何が差別かを定義をするというものではない。差別と書いてあるのも、目的と理念のところで「究極の目的は差別のない社会を目指すということを、差別は許されないという認識の下で理解を増進する」と書いているだけだ。もちろん心を大切にするとか、肉体でどうするかということにも全く触れてはない。
橋下:そこに「不当な差別」ないしは「合理的でない区別は許されない」といった言葉を入れるわけにはいかなかったのか。稲田さんも法律家だから、平等の問題についての判決では「不合理な」とか「不合理な区別はダメだ」というのが必ずロジックになることを知っていると思う。そうすれば、この法案に反対している人たち反対することができなくなるんじゃないか。何かこだわりを持ち過ぎているんじゃないか。
稲田:こだわってはいない。私としては“不当な区別”を“差別”と言うのであって、“不当な差別”と言ってしまうと、“不当な”が二重になるなと思っていた。また、今回は与野党が協議で激しく対立し、「差別解消法にしてください」といった野党からの要望を全て断った上で日程的にもギリギリの線でまとまっていたものだったので、これでお願いしたいということで通してきていた。しかし議員立法だし、憲法上の“差別”ではなくて一般的な“差別”だと思えば、「不当な」を付けても問題ないと思うし、次の国会でそういう修正を入れることも自民党的にも私的にも十分にあり得ると思う。
橋下:確かに、“差別”という言葉には“不当性”が含まれているので、よく法律のロジックでも“区別”にして「不合理な区別は許されない」と言うこともある。ただ、与野党で一致するのは画期的なことだし、そこの所で折り合いがつくんだったら、ぜひこの法案は成立させてほしい。(ABEMA/『NewsBAR橋下』より)