「議員連盟」、通称「議連」という言葉を聞いてどういうイメージを思い浮かべるだろうか。本来は、国会議員の有志がテーマ別に集まり政策の実現などを目指すもの。しかし、先週に閉会した通常国会の終盤では、この議連を舞台に、秋までに行われる解散総選挙や総裁選を見据えた自民党内の激しい主導権争いが繰り広げられた。
自民党の主導権争いの現状と今後の行方を、永田町で日々取材を続けているテレビ朝日政治部の澤井尚子記者が読み解く。
自民党で今起きているのは、秋までに行われる総選挙における内閣改造や党の役員人事を見据えてのつばぜり合い。国会終盤で特に目立ったのが、安倍前総理、麻生副総理、甘利税調会長のいわゆる“3A”の動きだという。この3Aがカメラの前で顔をそろえる場面が、一度ではなく何度もあり、存在感を示しているのだという。
「『半導体戦略推進議連』(甘利会長)、『新たな資本主義を創る議連』(岸田会長)、『日・オーストラリア友好議連』(逢沢会長)の3つの議連で、総裁経験者の安倍さんと麻生さんを2人そろって最高顧問に据えている。中でも注目されているのが、岸田文雄さんが会長を務める『新たな資本主義を創る議連』。コロナ禍でより明るみに出た資本主義による格差の拡大の是正を考える議連だが、岸田さんが自らの頭文字も用いて『3Aプラス1K』と言って、3人が揃ってくれたことに喜んでいると。さらに、甘利さんは3Aをもじって『トリプルAの格付けがついた』と岸田さんを持ち上げた」(澤井記者、以下同)
去年の総裁選で、菅総理に惨敗した岸田氏。今はポストがなく冬の時代を過ごしているが、次の総裁選への出馬意欲は持ち続けているという。そこで期待しているのが、3Aからの支持。安倍前総理は当選同期の岸田氏を「誠実な人柄」と評価し、麻生派は宏池会(岸田派)の流れを汲んでいて、合流を目指す動きもあるという。
一方で、突然の辞任となった安倍前総理は「菅総理には立派に後を継いでいただいた」と評価し、麻生副総理との間でも菅支持の認識を共有していて、3Aとして秋以降も菅総理を支えていくスタンスには変わりがない。むしろ、今3Aが照準を合わせているのは“幹事長ポスト”だとされている。
「党内第一派閥で100人に迫る勢いの細田派を、衆院選が終わった後からは率いていくとされている安倍さん。そして、第二派閥を率いている麻生さん。この2つの派閥からすると、第四派閥の二階さんが約5年にわたって幹事長ポストを牛耳っていることが面白くない。幹事長の権力というのは絶大で、選挙での公認権と党のお金をすべて握っている。個別の選挙区でも二階派への優遇が見られていて、実際にどんどん派閥に加入する数も増えている。二階さんは年齢でいうと82歳。閣僚経験者からは『党幹部はもっと清新にすべき』と刷新を求める意見や、若手からも『世論受けが悪い』として副総裁に祭り上げるべきという声も出ている。ただ、誰を幹事長にするかを決めるのは総裁である菅さんで、やはり自分をいち早く総理にするという流れを作ってくれた二階さんへの恩義を感じていて、自ら交代を申し出るのは難しいんじゃないかという見方が大勢ではある」
3Aの動きに対して、二階幹事長も黙っていない。突如として「自由で開かれたインド太平洋議連」を立ち上げ、自らが会長に就任し、安倍前総理を最高顧問に据えた。これには永田町でかなりの動揺が広がったという。
「この『自由で開かれたインド太平洋』というのは、安倍政権下で2016年に打ち出された構想。要するに中国の台頭をにらんで提唱したものだが、対中国を前面に出した議連のトップに二階さん。二階さんというのは、選挙区の和歌山県白浜町にはジャイアントパンダが7頭もいて、親中派の代名詞ともされているが、その二階さんがこの議連を立ち上げることに違和感をもった人は少なくなかった。甘利さんもテレビ出演で『二階さんが会長で大丈夫かね?』と疑問を呈していて、実際この議連に麻生さん、甘利さんが加入したとは聞いていない」
それでも、15日に開かれた1回目の会合は大盛況。「公認がもらえなかったら大変だ」などと慌てて参加する議員もいて、国会の最終盤で参議院からは誰も参加できなかったはずだったが、会場はすし詰め状態。席が足りずに立ち見する議員もいた。
「自由で開かれたインド太平洋構想」ということで誘い水を向けられたら断れないだろうという、安倍前総理を重視しての二階幹事長の政治手法には「さすがだ」という称賛の声も。一方で、麻生派の関係者は「安倍さんだけを引き抜いて、3Aを分断しようという思惑に違いない」と警戒を強めている。
二階議連の決起集会が行われたのが午後5時からだったが、その30分後に3A議連である「半導体戦略推進議連」の勉強会が、党本部の1つ下のフロアで開かれていた。元々は同じ午後5時に設定されていたが、前日になって3A勉強会の方が30分後ろ倒しにしたのだという。
「半導体議連の事務局は『全く知らなかった。本当に偶然だった』と説明しているが、予定は1週間前ぐらいに各事務所に通知するので、ちょっと疑問が残る。参加している議員たちからは『踏み絵だ』などの声も出ていて、階段で移動して両方の議連に顔を出している議員も数多くいた。こうした状況に、選挙が厳しい若手議員からは『選挙の前にコップの中の争いをやること自体がマイナスだ』という悲鳴も聞こえてきた。政局の報道が過熱したこともあり、甘利さんが自らの半導体議連に二階さんの最側近である林幹事長代理をナンバー2の会長代理として入ってもらうということをお願いして、最終的に手打ちを行った」
議連とは有志の議員たちによる任意団体で、澤井記者は「大学でいうサークル活動のようなもの」と例えるが、一方で「しがらみがかなりある」とも説明。では、今後の主導権争いの行方はどうなっていくのか。
「25日に都議会議員選挙も始まるし、永田町はもう選挙モードに突入している。衆議院の解散総選挙は、オリパラが終わり、ワクチン接種も広まった『秋』に行われるという公算が高まっている。ただ、菅総裁の任期も9月末までで、ちょうど時期が重なっている。衆院選挙の前に自民党の総裁選をやるのか、総裁任期を延ばして選挙の後に行うのか。はたまた、選挙で民意を得たとして総裁選を省略してしまうのか。このあたりの自民党内での駆け引きが焦点となる」
(ABEMA NEWS)