本年度の賞レースを席巻し、アカデミー賞脚本賞受賞、主要5部門のノミネートを果たした7月16日(金)公開の映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』の作中の衣装や装飾などにフォーカス!場面写真・スケッチ画と共にその魅力を紹介する。
(c)2020 Focus Features, LLC.
30歳を目前にしたキャシー(キャリー・マリガン)は、ある事件によって医大を中退し、今やカフェの店員として平凡な毎日を送っている。その一方、夜ごとバーで泥酔したフリをして、お持ち帰りオトコたちに裁きを下していた。ある日、大学時代のクラスメートで現在は小児科医となったライアン(ボー・バーナム)がカフェを訪れる。この偶然の再会こそが、キャシーに恋ごころを目覚めさせ、同時に地獄のような悪夢へと連れ戻すことになる……。
監督は、ロマンティック・コメディと復讐劇を融合させた独創的な自身の脚本で、長編デビューを飾ったエメラルド・フェネル。監督&脚本賞のダブルノミネートを果たし、脚本賞を見事に受賞した。主人公を演じたキャリー・マリガンは、批評家たちから「キャリア最高の演技」と絶賛を浴び、多くの賞を獲得している。
ブラックでセンシティブなテーマと相反する ポップでカラフルなビジュアルを構築した意図とは?
本作ではキャシーのファッションや、彼女が働くカフェ、ライアンとのロマンスシーンなど多くの場面において色彩豊かなカラーが取り入れられている。“復讐劇”という暗いテーマとは対照的なポップなビジュアルも、話題のひとつとなっている。
フェネル監督が緻密に練った装飾
(c)2020 Focus Features
フェネルは「“女の子が好きなのも”を再利用して恐ろしいものを作りたかった」と話し、この作品をあえて鮮やかな色彩で彩った。また「女性はうまくいっていないときほど 自分を奇麗に着飾るの」と昼間のキャシーにはリボンやギンガムチェックをたくさん着せ“私は元気”という雰囲気を醸し出したとも言う。
観る人にある種の違和感を抱かせ、キャシーの人生の何かが酷くゆがんでいることを示唆いるのだ。
主人公の表情と共に変わる色彩
(c)2020 Focus Features, LLC.
ポップな彩り以外にも、キャシーの心情を表現するビジュアルにも注目してほしい。
キャシーの両親が暮らす家は、ゴージャスな家具を用いて80年代を感じさせる幻想的な空間である。しかし家具たちはどこか色あせ、長年手入れをされていないような状態となっている。これは、ある事件から時が止まり、現実の世界に直面しないキャシーの生活=心と結びついているようにも感じられる。
一方、夜な夜な出歩くキャシーには特定の男性に魅力的に見られるための武装ともいえるさ様々なスタイルがデザインされた。ある晩は華やかなヒップスター、ある晩は仕事帰りの女、そしてボディコンシャスのドレスに身を包む。
(c) Focus Features
ナンシー・スタイナーのこだわり抜いた衣裳
(c)Nancy Steiner/Universal Pictures
衣裳を担当したナンシー・スタイナーは、ソフィア・コッポラ監督の『ヴァージン・スーサイズ』(99)、『ロスト・イン・
トランスレーション』(03)、ヨルゴス・ランティモス監督の『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』
(17)など、個性派映画監督とのコラボレーションで知られる。
本作において、テレビと画で幅広く活躍していある全米衣裳デザイナー組合賞(CDGA) で衣裳デザイン賞(現代映画部門)を受賞。そんな彼女が描いたデッサン画は、コスチュームだけでなく背景も色彩を取り入れ、映画の世界観そのものを描く。
(c)Nancy Steiner/Universal Pictures
カフェでのスケッチ画を見ると、パステルカラーを使ったトップスで防御感はなく、ラフでありつつもカフェ自体が彼女の空間としてマッチしている。ナースのコスプレのスケッチ画を見ると、木目の背景に派手な髪色にポーズを決め、勝負服といった印象。彼女は医大を退いていながら、なぜこのユニフォームを着なければいけなかったのか、興味をそそるビジュアルだ。
スリリングなテーマながら、ポップな絵からも引き立つ甘いキャンディに包まれた猛毒に、全身が痺れること間違いない。