コロナ禍で“過去最高”の税収も…素直に喜べない要因 “3つのキーワード”が示す格差
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 2020年度の国の税収は、新型コロナウイルスの影響を受けながらも60兆8216億円となり、過去最高を更新した。

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 これを受け、麻生財務大臣は「(国の税収が)60.8兆円、史上空前ということになっちゃうんでしょうけど。これからどうなっていくかよくわかりませんけど、いずれにしても景気としては悪い方向ではない」と述べた。また、「輸送や航空、宿泊、飲食だけの話を聞くから悪くなる」とした上で、ソニーグループや任天堂を例にあげ、巣ごもり需要などで業績を伸ばした企業によって税収の増加につながったという認識を示した。

 しかし、この過去最高の税収は素直に喜べる状況ではないという。テレビ朝日経済部・財務省担当の梶川幸司記者が解説する。

■去年12月時点では、税収は大幅に減る見込みだった

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 2020年度は、4月に最初の緊急事態宣言が出され、7月に「GoToトラベル」、10月に「GoToイート」などの経済対策が取られたものの、秋頃から感染が再拡大し、年明け2度目の緊急事態宣言が3月まで出されるといった“コロナ漬け”の1年だった。

 経済の成長度合いを示す代表的な指標「GDP(国内総生産)」を見ると、2020年度は-4.6%で、リーマン・ショックに見舞われた2008年度の-3.6%を抜き“戦後最悪”となった。外出の自粛や外食の手控えなどによって個人消費は冷え込み、企業の設備投資も振るわなかった。

 そもそも、2020年度の税収も大幅に減る見込みだった。麻生財務大臣は去年12月の会見で、「経済ならびに企業業績が大幅に下振れいたしました。税収は8兆4000億円減少して、55兆1000億円と見込んでいます」と述べている。

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 しかし、蓋を開けてみれば過去最高の税収。梶川記者は「コロナの前(去年3月)に掲げた、この時も強気すぎたが63兆円という見込みがあった。そこから8兆円減るというものすごい話だが、その分国債を発行して穴埋めをさせてほしいというのが、去年12月の麻生財務大臣の会見。その時点で財務省は“景気は悪い、税収は大幅に減る”という認識で、私もそうだろうと思っていた」と話す。

■日本経済は「K字回復」 上向きと下向きで二極化

 去年12月に見込んでいた55兆円からなぜ5兆円も増えたのか。梶川記者は「K字回復」「中小企業」「消費税」の3つのキーワードから分析する。

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 「『K字回復』というのは、Kの字の右側を見て、業績をぐんぐん伸ばす企業と悪化の一途をたどる企業が上向きと下向きに分かれて、経済が二極化している様子を意味する。これが日本の現状。

 2020年度に業績を伸ばした企業がたくさんあって、代表格がソニー。コロナによる巣ごもり需要で、家庭用ゲーム機の『PlayStation 5』が売れに売れて、ゲームや音楽といったエンタメ事業によって、2021年3月期のグループの純利益は1兆1717億円(前期比2倍)となった。同じように、任天堂も『Nintendo Switch』や『あつまれ どうぶつの森』が売れ、純利益は過去最高の4803億円(前期比86%増)。

 コロナで在宅勤務を強いられた人がたくさんいたと思うが、エアコンや空気清浄機などの売れ行きが好調で、白物家電は24年ぶりの高水準だった。この結果、ヤマダ電機のヤマダホールディングスやケーズ電気、ノジマといった量販店も過去最高益を叩き出す業績をあげている。テレワークでパソコンも売れたので、パソコン部品を手掛ける村田製作所やTDKも過去最高の売上高、営業利益を叩き出している。コロナで景気が悪いといいつつも、こういう実態もあった。

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 去年後半から世界で何が起きていたかというと、いち早くコロナからの危機を脱した中国と、ワクチン接種が進み始めたアメリカという世界の二大市場で、景気が回復を見せる。そこに乗ずる形で、特に自動車は輸出が増え、トヨタは売上高こそ減ったものの純利益は前年を超える2.2兆円を確保した。4月から6月は世界中で工場すら止まっていたことを考えると、海外の好調なマーケットを背景に業績を急回復した企業、特に輸出産業でどんどん出てきた。

 そうすると、企業が納める法人税が増えてくる。2020年度は11兆2346億円だったが、去年12月の見込みから約4割増えた。財務省の担当者も『想定外だった。6月に入ってはじめて3兆円もの上振れを認識した』と話していた」

■中小企業の6割は法人税を納めていない? コロナ禍の影響が限定的な理由

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 「K字というからには、悪くなったところも当然ある。代表的なところは運輸、観光、百貨店、外食で、JRや全日空といった大企業でも過去最悪の赤字を出している。先行きも予断を許さない状況にあるが、法人税というのは企業の利益や所得に対して課税されるものなので、赤字の企業は法人税を納める必要はない。ここで出てくるのが『中小企業』。

 飲食や宿泊などコロナで本当に大きな打撃を受けた企業のほとんどが中小企業。コロナで赤字の中小企業が増えると、国の税収は減りそうな印象を受けるが、2019年度の国税庁『会社標本調査結果』を見ると、247万法人のうち税金を納めている法人は38%で、納めていない法人は62%。税金を納めていない企業はそれなりに多くて、コロナで打撃を受けた中小企業はもともと赤字の企業が多いので、税収への影響は限定的だったと財務省はみている。

 例えば、飲食業は競争が厳しくて利益率が低く、新しくお店ができたら2年経った後も継続しているのは半分だと言われるぐらいだ。コロナで赤字が膨らんでも、以前から赤字で税金を納めていない中小企業が多いわけで、私たちが“コロナで厳しい”とイメージするほどには、税の世界での影響は限定的だったということ。

 逆に言うと、税収が過去最高になったということは、先ほど紹介したような大企業のK字回復組の業績がいかにすごかったかということも言える」

■消費税率8%→10%の効果が如実に

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 「もう1つ大きなポイントが、『消費税』。2020年度の消費税は20兆9714億円で、前年よりも2.6兆円増えて初めて20兆円の大台に乗った。所得税・法人税・消費税で“基幹三税”と言うが、消費税が初めてトップに立った。

 からくりはけっこう簡単で、2019年10月に消費税率を8%から10%に引き上げた効果が如実に出ている。例えば、100円のものが108円から110円になって『たった2円じゃないか』と思うかもしれないが、8円→10円は25%増えていて、税収の規模全体で見ると大きな効果を与えることになる。

 また、消費税は不況に強いと言われる。景気が悪くても最低限必要な消費は誰もがしなければならず、一定の税収を得ることができたということになる。

 一方で、消費税がここまであって財政には貢献しているが、弱い立場の方々にとっては『取りすぎなのではないか』という声が出てくるのも確かだ。ここは今後の大きな論点の1つになる可能性があると思う。

 2020年度の所得税は19兆円で、前年とトントンだった。何が増えているかというと、金融資産。コロナで景気は悪いけど株高になったというプラスの効果、つまり格差が言えるので、過去最高の税収になった背景には経済、あるいは個々の格差が表れているということも当然言えると思う」

■「格差が強く出てしまった1年」

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 つまり、景気は「良い」と言えるのか、それとも「悪い」のか。内閣府は、GDPは今年中にコロナ前の水準に戻る見通しだと発表している。

 梶川記者は「私たちの周りを見ると、実際にそれほど景気がいいとは決して言えないと思う。K字回復という言葉に見られるような、良いところと悪いところの差、株を持っている人と持っていない人の差、こうした格差というものがこの1年を通して非常に強く出てしまった。こうしたところを今後どう改善していくかは大きな課題になると思う」との見方を示した。

ABEMA/『倍速ニュース』より)

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