7月11日(日)、新宿バルト9での『シン・エヴァンゲリオン劇場版』フィナーレ舞台挨拶にて、緒方恵美(碇シンジ役) 、 三石琴乃(葛城ミサト役)、山口由里子(赤木リツコ役)、 立木文彦(碇ゲンドウ役)ら声優4名と、庵野秀明総監督が登壇した。
登壇後の挨拶では、緒方から「ここの(声優)4人は、(テレビ版『エヴァ』第1話冒頭で)最初に出会う4人」と語り、その4人がフィナーレの場に集まったということへの感慨を見せた。
続くトークパートではまずテレビ版についての思い出が語られた。1話の時点では完成していた映像でアフレコをしていたが、「だんだんホワイティになってきて……」と三石が吐露すると、緒方がヒートアップ。最終回付近のアフレコでは「タイムコードもない」「白と黒だけ」という状況だったと語り、「(収録スタジオに入ってから)2時間くらい待って、印刷所からホヤホヤの台本が届いて」という状況だったことを暴露した。切迫した制作状況だったことを受けて庵野総監督は「絵コンテは収録のあとに切りました」「ラジオドラマみたいなものだと(思って収録してもらった)」と当時を述懐するとともに、「本当に大事なシーンでは絵を見せない、背中のカットだったりオフにしたり」と、声優の演技を重視する演出論についても言及していた。
その後にはMCからいくつかの問いかけが続いた。「やり切ったという達成感は?」という質問に、「今ある技術でやれることはだいたいやった」と答えた庵野総監督。碇シンジへの思いを聞かれた緒方は、「始めた当時は自分とシンジは違うと思っていたが、今は自分はシンジだったと感じている」と、年月の積み重ねを経て感覚が変わっていったことを答えた。
続いてSNSでファンから募集された質問に、各登壇者が答えていくコーナーに。「時間があるなら足したかったシーンは?」という質問に、庵野総監督は「最初は2時間を切りたかったが、どうしても無理だとなって、気付いたら2時間半になっていた。入れたいシーンは入れられたので”今は”ないです」と回答。”今は”という部分の強調が、登壇者一同の笑いを誘っていた。
「一番印象にに残っているシーンは?」という質問には、緒方は悩みながら「全部という答えにさせてください」と回答。作品への思い入れの深さを垣間見せた。
「ある人の名前を呼ぶシーン」という、作品の中核となる部分について聞かれた立木は、「ストレートに、自分の中で出てきたものが正解だ、と思ってやっていた」「あの人の名前を言うのが一番大好きなので頑張らせて頂きました」と回答。続く「三石さんはリツコの、山口さんはミサトの好きなところを教えてください」という質問に三石は「リツコの声が好きです」と答え、山口が「強い、大きな包容力を持っていると感じました」と続いた。
最後に投げられた「あなたにとってエヴァはなんですか?」という質問には全員が回答。立木は「26年間やってきたリアル人生ゲームという感覚もあり」「作品と言うか、自分の中でも何かわからないような存在ですね」と心中を語る。続く山口は、「自分の運命を本当に変えられた作品です」「ある時から(『エヴァ』を)使命のように感じていて」「最後まで庵野さんの作品の中に生きるというのが今生の使命の1つだと思っていて……その使命が終わるという感覚です」と、自身にとって『エヴァ』が大きい存在であることを話した。
三石は「ザ・マウンテンて感じですね」と「山登り」に例えて回答。仲間と登って、下りてきてまた登って……というこれまでの年月を語り、「またあったらすぐ登りたい」と作品愛をにじませた。緒方は「もう一つの14歳の記憶だと思ってます」と、簡潔ながら強い思いを表現。庵野総監督は「スカした言い方だと、僕自身の最新作です」という諧謔で笑いを誘いながらも、「30年近くやっている作品なので、自分の人生の半分近く」「それが終わるというのは感無量で……」「感無量な作品です」と、長い年月への思いを口にした。
最後のコーナーでは、登壇者からファンへのメッセージが披露された。まず立木が「みなさんがエヴァを楽しんでくれているというのが本当に嬉しい。一役者がその感謝を伝えたいという気持ちになるような、唯一無二の作品だと思います」と語ると、山口が「私、6回劇場に見にいっておりまして(笑)」「感激してる皆さんと同じ気持ちになっていて、庵野さんすごいって思っちゃったり。世界に『エヴァ』が公開されたら、また皆さんと一緒に感動をもらえると思います」と、ファンと同じ目線で作品を楽しんでいる心境を口にし、「海外で公開されるなら、私たち行ってもいいですよね?(笑)」と、これからの展開にも期待を寄せていた。
「劇場に足を運んでくださっている皆さんに心から感謝します、ありがとうございます」と語り始めた三石は、その後感極まって言葉を詰まらせるも、葛城ミサトを演じて過ごした時間を「愛おしく思ってます」と振り返り、「楽しかったです。本当に皆さんありがとうございました」と声を震わせた。
緒方は「運がなければ役者として生きていくことはできないと思っています。そういう意味で、私は本当にあり得ない運をいただいて」「ここまで来ることができたのはエヴァのおかげだと思いますし、出会いを本当に感謝しています」と感慨深く語り始め、「26年の間、みなさんと同じ気持ちを感じられたのは本当に幸せでした」と、ファンと歩んだ歴史に触れた。そして「この先またシンジに会えるのか、会えないのかはわかりませんが、いつ呼んでいただいても14歳に戻れるように、努力を続けていきたいと思います」と、『エヴァ』や碇シンジが、緒方の中で生き続けることを感じさせた。
最後にマイクを持った庵野総監督が、「今日は本当に、みなさんにお礼を申し上げたく、(そのために)来ました。ありがとうございました」と深く頭を下げ、舞台挨拶は締めくくられた。