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 品川ヒロシ監督作品『リスタート』が7月16日(金)より全国公開する。舞台は、豊かな自然に恵まれた北海道下川町。シンガーソングライターとして成功することを夢見て、東京に上京した28歳の未央が、夢破れて地元に戻り、家族や仲間に支えられて「リスタート」する姿を描く物語だ。2019年に実施したクラウドファンディングにより、目標金額を大幅に上回った本作。多くの支援者の期待が向けられた作品の制作秘話、思いを、品川監督、そして今回の主人公に大抜擢された男女フォークデュオ・HONEBONE(ホネボーン)のEMILYに聞いた。

きっかけは『家、ついて行ってイイですか?』 EMILYのシンデレラストーリー

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――本日はよろしくお願いいたします。まずは、EMILYさんを主演にキャスティングした理由を品川監督に聞きたいです。

品川ヒロシ(以下、品川):吉本興業から「下川町で映画を撮ってほしい」という話をいただいたので、脚本を書くために下川町にシナリオハンティングに行きました。そこで、挫折して田舎に帰る主人公の物語を思いついて、主人公は、ミュージシャンがいいな、女の子がいいな、などと考えました。東京に戻ってたまたま毎週録画していた『家、ついて行ってイイですか?』を見たら、EMILYが出ていて。彼女、面白いなと思ったのがきっかけです。

――EMILYさんのどんなところに魅力を感じましたか。

品川:どっこいしょアーティストって呼んでるんですけど(笑)。

――どっこいしょアーティスト?

品川:洗練されてないというか、泥臭いというか。

EMILY:(笑)。才能感じたとか、この娘しかいない、とか思わなかったんですか?

品川:こういうノリもいいですよね(笑)。番組の中で歌っていた歌声もめちゃくちゃうめえって思って、ミュージックビデオを見てみたらカッコいいなって。

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――ミュージシャンとしてはどんなところに惹かれましたか。

品川:悔しさとか、もっと売れたいっていう思いとか、世の中にムカついていることとかを歌に乗せてストレートに表現しているところかな。それで、「HONEBONEカッコいい」ってツイートしたら、まんまとEMILYがリツイートしてくれました(笑)。

EMILY:そのツイートを見て、これはチャンスかも! と思って「ありがとうございます! なんでもいいから仕事ください!」って監督にダイレクトメールを送りました。そしたら監督から「芝居興味ない?」って。 え? 芝居? と戸惑いましたし、正直「芝居、経験ないんですが」とか言いたかった。でも、すぐに「なんでもやります!」と返信しました。

――超シンデレラストーリーですね。実際に初めてのお芝居はいかがでしたか。

EMILY:本当に贅沢すぎる時間でした。みんなと本読みをする前の段階から監督がマンツーマンで指導してくれたんです。監督が未央以外のすべての役を読んでくれて、未央の台詞も、監督が実際に演じてお手本を見せてくれました。演技論を語るというよりは、目で見させてくれて、耳で聞こえるようにやってくれたので、安心して現場に挑むことができました。

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――手取り足取りという感じですね。監督は、EMILYさんのどんな部分を引き出したいと思っていましたか。

品川:ポジティブとネガティブな部分が同居しているじゃないですか。歌を聴くとネガティブ。でも喋るとすごく明るかったりして。僕もそういうタイプなんですよね。撮影当時、EMILY は28歳、未央も28歳、そして僕が28歳のときと重ねて。30歳が見えてきて、夢の限界と向き合わないといけない時期に、絶対に勝ちたい気持ちと、もしかしたらダメかもしれないという気持ちが同居しながら、この世界と戦っている思いが映画に反映されたらいいなと思っていました。

品川監督は先生のようであり父のようでもあり、時には友人のように寄り添ってくれた

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――初対面でありながら、濃密な時間を過ごされたんですね。撮影を経て、お互いに尊敬する部分、ギャップや驚きなどありましたら教えてください。

EMILY:会う前は怖い人だと思っていたんですよ。いつキレるんだろうと不安だったのですが、全然違いました。怖いどころか温厚ですごく優しい。「質問があったら昼夜問わずいつでも連絡してきて」って言ってくれたので、私はそれを鵜呑みにしてわからないことがあるたびに連絡しました。それでも「わかった、教えるよ」って。いつも100%で向き合ってくれました。

品川:でもさ、クランクアップときのインタビューであんまり俺の話してなかったよな。実はこいつなんだよって思ってました(笑)。

EMILY:監督に感謝しているのって当たり前のことだと思っていたんですよ。だからあえて監督の名前は出さなかったんです。後から監督に「俺のこと話さないよね」って言われて、確かにって思いました。言葉にしないと伝わらないことがあるなって。本当に感謝しているんですよ。あの時間は、学校みたいだったし、監督は先生のようで、父のようでも、友人のように寄り添ってくれた日もありました。私は声を大にして「めっちゃいい人だぞー!!」って言いたいですね。

――きっと読者に伝わると思います(笑)。品川監督は、EMILYさんに対してのギャップはありましたか。

品川:ギャップはなかったかな。未央そのものですね。カナブンみたいな。ただただ光に向かってバチバチぶつかっていくって感じで。

EMILY:カナブンって…表現が…(笑)

品川:(笑)。驚いたのは、人を動かす力かな。チケットの手売りもやっているんですが、自分で会場を抑えて、自腹でアクリル板を買って、チケットを手売りしてくれたんです。EMILYが動くと、ほかの共演者も一緒に動き出す。そういう力はすげえなって思いましたね。

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――主題歌の『リスタート』も、映画のストーリーにリンクしてとても胸に響きました。EMILYさんは、どんな思いで曲を作られたんでしょうか。

EMILY:未央の本音、みんなの本音を代弁……。というと大げさかもしれないけど、今回の作品には無名な人もいっぱい出演していて、「なにやっちゃってんの」と思う人もいるかもしれないですよね。それに対して「勝手に笑ってろよ」「みんなで上に行くぜ」って気持ちはどうにか入れたかった。私は上手な歌詞が書けないので、本音のメモ書きですね。

――監督は曲を聴いたときはどんな感想をお持ちになりましたか。

品川:映画の物語とリンクしているだけじゃなくて、実際に売れてないミュージシャンと売れてない芸人がクラウドファンディングで映画を撮っている。笑いたければ笑えばいいじゃん。でも、俺らは好きなことしてるんだよっていう思いと重なって、編集しているときには何度も聴いて、歌詞がしみましたね。

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――タイトルにもなっている「リスタート」という言葉は、どの世代の人にも当てはまる言葉だと思います。おふたりは、リスタートに必要なものって何だと思いますか。

品川:やっぱり周りの人じゃないですか。キレイごとだと思うかもしれないけど、映画作りも同じ。今回、安いギャラで撮影期間が短くて、不眠不休で。無名のアーティストがたまたまテレビに出て、監督がそれを見て映画になる。僕も人に支えられてこの映画が出来上がっているので、人の協力は本当に大切だと思います。

EMILY:私はやる気だと思います。確固たるやる気かな。うまく言えないですが、やる気でお願いします。

品川:コメントが薄いな(笑)。

――(笑)。大切ですよね。周囲の人が手を差し伸べてくれたとき、本人にやる気がなかったら成立しないですもんね。

EMILY:そうですよね。プライドを一回捨てて、素直に人を信じて……。

品川:顔、真っ赤だぞ。

EMILY:すみません。やる気で(笑)。

――やる気で行きましょう(笑)。最後に、コロナ渦で2年間公開が延期になりましたが、改めてこの夏、映画館に足を運ぶ人たちにメッセージをお願いします。

EMILY:早く公開してほしいなという思いもありましたが、今、公開することに意味があると感じています。2019年に撮影した当時よりも、コロナの影響で落ち込んでいる人が多い状況ですよね。劇場で下川町の景色を観て癒されて、未央の姿を見て前向きな気持ちになってもらえたらうれしいです。

品川:俺の周りもそうだけど、仕事がなくなってバイトに戻る人とかいっぱいいるんですよ。バイトに戻ったと思ったら、そのバイトの確保さえも難しいような状況もあります。不安な毎日を過ごしていても、一歩ずつ、頑張っていきたいなって思えるような映画になっていると思います。ぜひ、映画館でご覧になってください。

――ありがとうございます!

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品川ヒロシ監督

スタイリスト:渡邊浩司 ヘアメイク:三浦真澄

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EMILY 

スタイリスト:村井素良 ヘアメイク:杉野加奈

取材・文:氏家裕子

写真:You Ishii

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