政府は今年の防衛白書を閣議で報告し、台湾について「情勢の安定は日本の安全保障に重要」などと初めて明記した。
白書では、中国の軍用機や艦艇が台湾海峡周辺で軍事活動を一層活発化させていると記した。その上で、「台湾情勢の安定はわが国の安全保障や国際社会の安定にとって重要」と初めて明記され、緊張感をもって注視するとしている。
また、尖閣諸島周辺で武器使用が可能になった中国の海警局の船が過去最多の活動を行っていることに、「わが国の領海で独自の主張をする活動はそもそも国際法違反」と記載し、「緊張を高めることになることは全く受け入れられない」と強い懸念を示している。
台湾に関する表現が初めて明記された背景について、テレビ朝日・政治部の車田慶介記者は2つの理由があると説明する。
「1つ目は、中国による台湾周辺での軍事活動の活発化,。ここ最近、中国軍機による台湾空域への侵入が増加していて、台湾の国防部によると、2020年の1年間で約380機もの中国軍機が台湾南西の空域に侵入しているという。また、中国軍艦が台湾周辺を通過して訓練を行うなど、台湾と中国の間の軍事的緊張が高まっていることが背景にある。
もう1つ、台湾周辺地域におけるアメリカと中国の競争の激化も背景にある。アメリカは中国のこうした軍事活動を非難するとともに、台湾への武器売却など軍事面で支援する姿勢を鮮明にしている。米中という大国間の競争の激化は、台湾だけでなくてその周辺地域、それには当然日本も含まれるわけだが、その周辺地域の平和や安定に重大な影響を及ぼすということで今回明記されることになった」
そもそも、防衛白書に明記することでどのような効果があるのか。防衛白書は、防衛省や自衛隊の活動、国際情勢、日本の安全保障政策の現状と課題を国内外に周知するために毎年発行しているもの。昨年で発行50周年を迎えるが、日本の防衛について、国内だけでなくて海外にも周知しようということで発行されている。そのため、日本語だけでなくて英語や中国語、韓国語などにも訳され、海外からもネットで簡単に見ることができる。
つまり、こうした台湾などをめぐる情勢の緊張の高まりを広く周知することで、中国に対するけん制の効果があるとみられる。昨年の防衛白書では、尖閣諸島周辺での中国船の活動に強い懸念を示したが、それに対して中国政府は「日本の防衛白書は偏見と偽情報に満ちている」と反発しており、今年も何かしらの反発があることが予測される。
今後の台湾情勢は、米中の対立がより顕在化する見通しだという。車田記者は「今回の白書では、中国メディアの台湾に関する指摘を紹介しているが、そこには『中国軍機による台湾周辺の飛行はすでに常態化している』『台湾上空に中国軍機が出現することもそう遠くない』と書かれている。それに対して、アメリカのバイデン政権はトランプ政権と同様に台湾を軍事面で支援する姿勢を鮮明にしている中で、『中国がそれに妥協する可能性は低い』として、台湾をめぐる米中の対立はより顕在化するとの見通しが書かれている」とした。
(ABEMA NEWSより)