「まさしく“自由の日”、最高だ!」19日の午前0時をもって、新型コロナウイルス対策の規制がほぼ解除されたイギリス。パブやレストランの屋内営業の制限もなくなり、大規模イベントの開催も可能になった。ナイトクラブに詰めかけた人々は、“マスクなし”で喜びの声を上げていた。
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■街を歩いている人は“政府は賭けに出たよね”
市中心部の様子を取材したANNロンドン支局の寺尾拓人特派員は「BBCでも“自由の日”を体現するかのように踊っている人の映像を報じていて、潮目が変わったのかな、という印象を受けた。ただ、昨日と今日で何かが大きく違うかと言えば、違いはない。見たところ9割5分の人はマスクを着けていないが、昨日もマスクをしていなかった人の方が多かった。やはり高齢者を中心に成人の9割近くが1回目、7割近くが2回目のワクチン接種を終えていることで安心感が広がり、マスクをしないということにも繋がっているのではないか」と話す。
一方、スナク財務相とともに濃厚接触者として自主隔離することになったジョンソン首相は「いま経済活動を再開しなければ、いつになるのか。今がその時期だ。しかし慎重に進めなければならない」と指摘している。事実、デルタ株も拡大、1日で5万人以上の新規感染者が確認されてもいるのだ。寺尾特派員は次のように指摘する。
「タイムズ紙が調査会社と行った世論調査によれば、55%の人が“規制の解除は間違っている”と回答しているのを見ると、今回の政府の大きな決断を国民みんなが喜んでいるわけではないということだろう。去年の1回目のロックダウン解除の際には飲食店の利用を推奨したことで感染が再拡大し、再びロックダウンすることに繋がってしまった。政府の諮問機関の委員の中には、そのことを踏まえて“過ちを繰り返すな”と警鐘を鳴らしている人もいるし、街を歩いている人も“政府は賭けに出たよね。今回はワクチンがあるから、吉と出るか凶と出るかを見てみよう”と話していた。
同時にタイムズ紙の世論調査で面白かったのは、“再び感染が拡大してしまった場合、誰の責任だと思うか”という質問への回答で、“政府”と“個人”が42%ずつで拮抗していた。ジョンソン首相が会見で語っていたように、これからは自己責任で感染を防ごうという意識が国民にも浸透してきているということではないか。ただし、ワクチンについては反対デモが行われるなど、国民全員が賛成しているわけではない。政府としては感染が拡大しやすい冬を前に、賛成する人にはワクチン接種、反対する人にはあえて感染させる“ハイブリッド方式”によって集団免疫を獲得しようとしていて保険大臣も10万人以上の新規感染者数を折り込んでいることを会見で語っている。
その前提は、入院患者数と志望者数が低く抑えられていること。日本のメディアは感染者数を毎日報じているが、イギリスのメディアは入院患者数や死者数に重きを置いている。グラフを見てもらえば一目瞭然だが、イギリスでは6月から新規感染者が右肩上がりだが、入院患者数と死亡者数はこれに比例せず、低い数字に留まっている。若者の間では変異株が広がっていて、ワクチンを2回打ったのに感染してしまったという例もある。日本の半分の人口のイギリスで、これまでに約13万人が亡くなっている。全てのイギリス人がこの“自由”を手放しで喜んでいるわけではないし、日本はいつ同じ状況になるのだろうという、単純な論調で報じてはいけないと思う」。
■ロンドン在住医師「正直なところ、びっくりしている」
今回の規制解除について、去年、厚労省クラスター対策班でも活動したロンドン大学衛生熱帯医学大学院の遠藤彰客員研究員は「正直なところ、びっくりしている」と話す。
「今年の初め頃からアルファ株による流行が起きたのでロックダウンをしたところ、感染者数が下がってきた。そこから規制を順次撤廃していくという計画だったが、デルタの出現によって状況が再び変わってきた。規制の解除の決定に当たってはイギリスの非常時科学諮問委員会(SAGE)の下部組織が数理モデルを使って予測したが、専門家の中でも意見が割れている。ある予測では、最大で2倍くらいの規模の感染が起きるかもしれないという予測も出ている。その一方で、入院者数や死亡者数は少なくとも前回のピークは超えないだろうという予測が出ている。そうしたことを基に、なんとか耐えられるということで今回の決断になった。
確かに高齢者の死亡者数はワクチンで抑えられているが、感染者数、入院患者数はかなり増えてきているし、死者数は3週間くらい遅れて増えてくる。現状が続くというのは楽観的な見方だと思う。また、ワクチン接種率についても、あくまで18歳以上の成人なので、一切接種を受けていない18歳未満を含めると、人口全体の接種率は1回目が7割、2回目は5割程度になる。集団免疫を達成しているというわけではない中、以前のものよりも感染性が高まっているデルタ株が拡大しているということを考えなければならない」。
マスクを外し、レジャーを楽しむ人々の映像とともに“日常を取り戻した”と報じられがちな欧米の状況。“規制全面解除”という選択を、日本も取れるのか。取るべきなのか。一つの判断材料としたい。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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