目尻の下がった柔和な顔立ちが、良さそうな人柄を思わせる。持ち前の優しいビジュアルからいい人イメージの強い俳優・前野朋哉が、ABEMAオリジナルの連続ドラマ『酒癖50』で人格崩壊酒乱営業マンを熱演。昼は羊、夜は狼という人格180度真逆のアルコール版「ジキル博士とハイド氏」を体現する。
前野が演じるのは、「仕方ないよ…」が口癖の頭を下げてばかりの営業マン・下野。争いを好まない気弱な性格につけ込まれ、会社では謝罪案件ばかりを押し付けられ、罵詈雑言を浴びる日々を送っている。唯一のストレスのはけ口はお酒だが、抑圧された負の感情がアルコールの注入によって一気に噴出。無意味な暴力や逸脱した行動を繰り返して警察沙汰になってしまう。酒乱特有の記憶障害もあり、シラフ時に自らの痴態映像を見せられて落ち込み反省はするが、アルコールが入ると別人格になったかのようにまた大暴れ。
独り者の下野の心の拠り所は、兄夫婦とその幼い娘。断酒を決意し、酒に代わる新たな趣味として運転免許取得に励むも、仕事のストレスが軽減することはなく、最悪なことに部下たちが大人しい下野をおもちゃにしていることも判明。「尊敬する上司!」などとおだてて酒を飲ませ、下野が酔っぱらって人格を崩壊させていく姿を小バカにして楽しんでいたのだ。
現実逃避とばかりにお酒に逃げ道を求める下野も悪い。しかし下野を取り巻く環境もあまりにも悪すぎる。兄夫婦に励まされて断酒を決意するも、ミスを庇ってやったはずの部下が自分をバカにしているというショッキングな事実が露呈。煽り酒で会社での孤立無援感を紛らわすしかない。禁を破って再び酒に手を伸ばしてしまう下野の姿は悲しく、自力での更生の難しさも読み取れる。
その葛藤とジレンマ、そして変貌を前野が上手い具合に表出。無気力・無表情で流されるままに生きる昼間の静の姿から一転、アルコール注入後のアグレッシブな動の姿の凄まじいコントラスト。抑圧と解放の表現にメリハリが生まれたのは、前野とは連続ドラマ『スカム』『ホームルーム』でも組んでいる小林勇貴監督が演出を手掛けていることも大きい。
アルコールの力を借りて部下にブチ切れ、相手かまわずに居酒屋で大立ち回りを演じる約2分間の長回しシーン。そこでの前野のぶっ壊れ具合には、小林監督との阿吽の呼吸がある。女性店員を担ぎ上げてテーブルに叩きつけ、女性客の頭をビール瓶で殴打。蟹の脚で店員をボコボコにし、部下の顔面にハルク並みのパンチを一撃。抜群のテンポで映し出される横スクロールアクションでのアグレッシブな前野は、小林監督の完全なるおもちゃと化している。マーティン・スコセッシ監督でいうところの、ジョー・ペシ。石井隆監督でいうところの、竹中直人。小林監督と前野の息ピッタリなケミストリーも、第2話の見どころだ。