アーティストデビュー16年目となるSKY-HIが、マネジメントレーベル「BMSG」を立ち上げました。 個人資産1億円以上を投じて主催したボーイズグループオーディション「THE FIRST BMSG Audition 2021 -THE FIRST-」(以下、THE FIRST)は、Huluでの完全版配信のほか、YouTubeでも無料公開。日本テレビ系『スッキリ』でも大きく取り上げられ、話題になっています。 自身のキャリアで得た知見をフルに活かし、それぞれの参加者に向き合った本オーディションの展望について聞きました。
■「才能が世に出ることなく潰れてしまわないように」
オーディションでは、「才能を潰さない」ということを強く意識しています。10代で才能がある子でも、日本の芸能界の育成システムにハマらず、成長できずに「元天才」になってしまう場合もあります。
なにより、10歳くらいの段階で自分の将来を決められる子なら別だけど、そうでない子にとっては、どの事務所に入っていいかわからないんですよね。信頼できる大人と出会えないことでつまずき、夢を諦めてしまうんです。今は、韓国の練習生になるケースも増えています。海の向こうで大成するなら、本当に素晴らしいことですし、僕は「人材流出だ」とは捉えていません。けど、10代から韓国で暮らすって大変なことですよね。親御さんのご理解も必要だし、韓国語も勉強しなければいけない。つまり、本当に限られた環境の子しか挑戦できないんです。
海外で挑戦する子が増えるのはいいことですが、みんながみんなそうはなれない。才能が世に出ることなく潰れてしまわないように、このオーディションを主催しました。
■ステージに立つ上では、どんなジャンルでも音楽の適正が不可欠
オーディションは、応募の時点で、才能のある子、技術が高い子が多かったです。集まってくる子たちを見て、僕も一人ひとりに向き合う責任を強く感じました。
「アイドルは実力を重視されなくて、アーティストにはビジュアルが関係ない」みたいな風潮に、ずっと違和感があるんです。アイドルでも音楽を仕事にしている以上、楽曲制作が出来るレベルで聴き込むことが必要だと思っていますし、アーティストもステージに立つ以上、ルックスに気をつけなければいけない部分があります。
2000年代前半から、K-POPはどんなに可愛らしいアイドルでも、楽曲制作に対して深く携わっているのは当たり前ですし、バックストリート・ボーイズもそうだし、イン・シンクのジャスティン・ティンバーレイクだって、10代からアルバムのプロデュースをやっていましたから。ドラムでもギターでもないけれど、歌ったり踊ったりするのも音楽の適正が必要なんです。今回は音楽の素質がある子たちが集まってくれたので良かったですね。
■求めるのは、個々のキャラクターが光るグループ
今回、オーディションを通して「5人グループ」を組もうと話しているのは、個々のキャラクターが表に出てくること、またそれを念頭に練習に励んでくれる事を重視したかったからです。 大所帯だと、チームのカラーに自分を寄せる人が生まれてしまう。 もちろんそれが良い部分もありますが、今回は自分が「Be Myself」を謳って立ち上げるグループなので、まずはそれぞれ「自分」を大事にしてほしいんですよね。
強く意識しているのは、「音楽ファースト」。音楽を軸に考えると、自ずとすべての答えが出ます。このオーディションの本選に残っている時点で、全員なにかしらの秀でた武器がある人たちなんです。自分が輝く部分をもっと理解して、言語化することができたら、強みを伝えることができるし、必要な時に自分の意思で武器を出せる。それこそが、楽曲のアクセントになるんです。
■順位はパフォーマンスの優劣ではない
技術的に高いレベルの人が集まっているのは、間違いありません。でも、今の段階ではまだプロではなく、「アマチュアでここまでできるなんて凄い」というレベルなんですね。まだ要求したい事はたくさんあります。精神コントロールや表現、身体能力などそれぞれの良さがあるんですが、「活躍しているプロと自分が何を違うのかを考えて、逆算して、練習や行動ができるかどうか」が、鍵になると思っています。
今後、番組が進むにつれて、順位づけもどんどん顕著になっていきます。でも、単純に「順位が高い人=優れている」というわけではありません。僕が見極めているのは現段階でのパフォーマンスのレベルではなく、「デビューに向けて、今やっている努力の方向性が合っているかどうか」。順位が上の人は「そのまま頑張ってほしい」し、順位が下の人は「もっと違うことがやれそうだから頑張ってほしい」と言い換えてもいいですし、あくまでもひとつの課題のなかでの順位なので、トータルの評価とイコールではありません。育成プログラムとしての側面も強いので、現段階の順位が上ならデビューが近いとは必ずしも限りません。
既存の枠にハマれなくてもがいたり、傷や葛藤を背負って応募してきている人があまりにも多いので、THE FIRSTは台本もないし、オーディション番組というよりはドキュメンタリーに近いですがリアルであることを大事にしています。 理不尽なバラエテイー要素がなく、純粋に音楽を仲間と作ってチームを築き上げていきたいと考えています。
■「勝機しか感じない」
よく話題にしていただいている「1億円」は、すでに番組制作費で消えましたし、デビューに向けてさらに大きなお金をかけなくてはならないので、本当にカツカツでやっています(笑)番組のメインは、15人プラス僕で実施した合宿。共同生活をしながら伸びていくところを、視聴者の方にもたくさん観てもらいたかったんです。1カ月みっちり育成さえすれば、絶対に全員の能力を伸ばせる自信があったので。僕も日本の芸能界の枠組みでやっているうちに「これで合っているのかな?」と違和感を覚えることがたくさんあったんですよ。
自分で外のトレーナーを探して、音楽の視野や知識を広げていきました。「10代のときに知りたかった」と感じることもたくさんありましたし、それを若い人たちに言語化して伝えていけば、みんなの才能も一気に伸ばせると思っています。プロデューサーとしては一年目なので、「さっきの言い方違ったかな?」と思ったら後で宿舎でまた話したりして、自分も成長させてもらってます。本当にクオリティが高いボーイズグループを見たい人は、確実にいる。今は、勝機しか感じないですね。
<取材・文=小沢あや/編集=Ameba編集部/撮影=山口真由子>