ざらっとした男らしさと艶っぽさで独特な存在感を放つ俳優・村上虹郎が『孤狼の血 LEVEL2』(8月20日より公開)に参戦。前作『孤狼の血』(2018)から3年、さらに過激さを増したオリジナルストーリーで新たな興奮を届ける本作にて、男の哀愁をもって村上が演じるのは “チンタ”こと近田幸太役。マル暴刑事・日岡(松坂桃李)のスパイとして五十子会上林組にスパイとして送り込まれるも、次第に組長の上林(鈴木亮平)から疑いの目を向けられ渦中の人物になっていくという重要な役所だ。村上はチンタ、そして『孤狼』の世界とどのように向き合ったのか。撮影を振り返ってもらった。
「キャラクターが生きている」脚本の段階で感じた面白さ
参戦のきっかけは前作が公開された3年前に遡る。第31回東京国際映画祭のパーティーで村上は白石監督に初対面。そこで村上が『孤狼』の続編について尋ねたことからだという。
「白石監督は沖田修一監督と一緒にいらっしゃって、そこで僕が『続きやるんですか?』って話しかけたら、『やるよ?出る?』(白石監督)『え!まじっすか!?』(村上)みたいな感じでした(笑)。ただ、当時僕20歳だったので、『孤狼』に出るには男としてのシワが足りなすぎないかなと思って、『僕若すぎないですか?』って聞いたら、『いやいや、それくらいの歳のやつもその世界にはたくさんいるから』と。それで待っていたら、この役がきたんです!」
「普段小説よりも映像派で、活字慣れしている人に比べたら文章を読むテンポが遅い」と語る村上。しかし、『孤狼の血 LEVEL2』の脚本はスムーズに読み進められたといい、「それぞれのキャラクターが生きているというのをすごく感じて、こんなに動くんだなと思いました。不思議な感覚でした」と、その面白さに感動。
また、想像以上に「いい役」だったというチンタというキャラクターにも痺れた。
「チンタはわかる人にはわかる奴。親がいなくて姉と二人で生きているチンタ。人種の話もありますし、彼がどういう生い立ちで、ああなっていくのか。そういう面を考える時間がたくさんありましたし、細かい部分も監督と話しました。意外と、最初に受けたイメージと遠くなくて、現場でも思う通りに演れました。脚本を読んで最初に得た直感に近かった」
圧倒的カオスな現場…ホステス役にアドリブ演技で食われる「役負けです」
『孤狼』の現場について村上は「圧倒的カオス」と表現。「殴り合いに戦地に行っているような現場でした。圧倒的にカオス。大変だったはずなんですけど、大変だと思う暇もない。あっという間に終わってしまった。後から、とんでもない人たちとやり合ってたんだなと気づきました」と楽しそうに振り返る。
その中でも想定外な衝撃を受けたのは「スタンド華」でのシーンだ。
「ムショから出てきて、姉ちゃんの店で焼きそばを頼むシーンがあるんです。結局『焼きそばはない』って言われてジャージャー麺を食べるんですけど。そこで僕はエチュードをしていて、お店の女の子役の地元(広島)の劇団の女優さんと絡んでるんですけど、その人にめっちゃ食われるっていう事件が起きました(笑)。僕もがんばったんですけど、役負けです(笑)。彼女に『どこ行っとったん?』って聞かれて、『ムショじゃ、ムショ』って答えたら『何したん?』(ホステス)『人殺しじゃ』(チンタ)『へー』(ホステス)みたいな。全部聞いてるのに、何も心が動いてない。『お前本当聞いてるんか?』みたいな演技(笑)。女の子は最初からチンタに興味なんかないんですよ!そのリアルなやりとりは面白かったんです。でも『ムショじゃ』以降はカットされてました(笑)」
“生暖かい”上林の不気味さ「食べられる前のその感じ」
チンタが潜入する上林組の組長・上林(鈴木亮平)は、自身の生い立ちと亡き会長・五十子正平(石橋蓮司)への忠誠心から、猟奇的なまでの暴力性をもつ日本映画史上最凶といっていいほどのヒール。作中では、チンタが上林にジリジリと追い詰められていく姿が印象的だが、目の前にした上林の印象はどのようなものだったのか。
村上は、普段の鈴木の人柄について「すごく優しくて人間味あふれる方でした」と絶賛。その上で「上林には妙な生暖かい不気味な感じがあるんです。ただ冷たいとか熱いとかそんな簡単なものじゃない。キングクルール(『ドンキーコング』のキャラ)のような存在でした」と、実際に対峙した際の恐ろしさを表現。「怪物にくるまれてるチンタ。怪物はお腹が空いてなかったら食べないんです。獲物を転がしたり遊ばせる。逆に食べさせて大きくなってから食べるみたいな、そんな感覚です。もう捕まってるんですけど、食べられる前のその感じ」と説明した。
「みなさん、感じてますよね。これは観ないわけにはいかないというのを。その通りです」
最後に村上に『孤狼』ファンに向けてのメッセージを求めると「みなさん、感じてますよね。これは観ないわけにはいかないというのを。その通りです」とニヤリ。自身にとっては“一つの勝負作”だと語り「2ってどのシリーズでも大事。どうしても比べられるので1と違った重圧がある。だからこそ、そこに呼んでいただけたというのは自信になります」と誇らしげ。「前作のファンが多いと思うのですが、『LEVEL2』は圧倒的にクオリティが上がっています!」と胸をはった。
取材・文:堤茜子
写真:You Ishii
(c)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会