実は似た者同士。恩師と生徒という関係性を超えた絆を感じさせる理由はそこにある。映画『浜の朝日の嘘つきどもと』(9月10日全国公開/8月27日より福島県先行公開)で、映画愛を原動力に生きるキャラクターに扮した高畑充希と大久保佳代子。異なる業種とはいえども、二人は同じ芸能界というフィールドで長年活躍している。ともに堅調な活躍ぶりで実力も知名度も高く、夢や目標も叶えてきた。しかし厄介なことに一つの仕事を長く続ければ続けるほど、立ちはだかるものがある。それは“モチベーション問題”。キャリアを重ねれば重ねるほどにぼやけて見えなくなる原動力。それを高めて維持する方法はあるのか。芸歴15年の高畑と芸歴29年を誇る大久保が“モチベーション問題”を語る。
舞台は福島県南相馬市に実在する映画館、朝日座。東京からやってきた茂木莉子と名乗る女性(高畑)が高校時代の恩師・田中茉莉子(大久保)との約束を果たすため、“小さなウソ”をついて映画館復興に奮闘していく。茉莉子の生き様と映画愛に触れ人生観をガラリと変えていく二人の関係性は、状況も世代も飛び越えた親友のように映る。
高畑が「大久保さんとはパーソナルスペースの大きさが近いような気がしています。私は一人で勝手に自分のペースで進む時間も好きなのですが、それはきっと大久保さんも同じなのかな、って。撮影中は無理に近くに行こうとすることなく、各々が自分の線で進んでいる感覚がありました。それが心地よかった」というと、大久保も「すでに仲良くなっているシーンが撮影初日に行われましたが、自然といい雰囲気になりました。それはお互いに距離の掴み方が似ていたからかも。実は私も一人でいる時間が嫌いではないから」と同じ属性同士のバディ感に胸を張る。
自分にとって恩師だと思う対象も似ている。恩師は常に仕事場にいるという。高畑は「撮影現場でキャリアを積み重ねているスタッフさんに会うたびに刺激と影響を受けます。どの世界もそうかもしれませんが、一線で活躍されている方は人間力がスゴイ。価値観やモチベーションの保ち方、突き進み方、アンテナの張り方など、恩師のように尊敬できる方は常に現場にいる」と職人気質のスタッフの姿勢をリスペクト。
大久保は「女性芸人と呼ばれる人たちには影響を受けますね。バラエティ番組収録の場で彼女たちの姿を見て学ぶところも多い。特に年齢も近いいとうあさこさんには刺激を受けます。気力だけで全力でぶつかるあさこさんの姿には教えられることも多い」と同志たちの奮闘に力を得ているようだ。
モチベーション問題についても、同じように感じるところがある。芸歴15年の高畑は「長くやっていると、夢や希望が叶っていくのが嬉しい反面、次に何を目指そうか?と思い悩むことがあります。最近はコロナ禍もあったりして、ここ1年くらい『みんなはどうしているのだろうか?』と考えたりして…」と打ち明ける。大久保も「この年齢になると『なぜこの仕事をしているのか?』と考えることも増えます。長くやっているとそれなりに目標も叶ったりするので、ふと『この後は?』と立ち止まりそうになる」とモチベーションの壁の存在を自覚している。
刺激を与えてくれる恩師が仕事場にいるように、仕事を通して摩耗したモチベーションを取り戻すのも、やはり仕事でしかなさそうだ。大久保は「現場に行くと、面白い人たちが沢山いて、バラエティの場でも芝居の場でもカッコいいと思える人が必ずいる。そんなときに『こんな人たちと一緒に仕事ができるんだ!』と喜びが大きくなり、『これからもカッコいい人たちと一緒に仕事をしていきたい!』とモチベーションが上がる。そのためには怠けてはいけないと自分の尻を叩いています」と明かす。
高畑はコロナ禍での仕事を通して、新しい感慨を得たそうだ。『浜の朝日の嘘つきどもと』撮影中は「自分がやりたいこと、大事なことは何なのか?とぼんやり考えていた」と自分自身との対話があったというが「改めて気付けたのは、私はエンターテインメントが大好きであるのと同時に、それを渡す側でもいられるということ。自粛中は私も映画やドラマなどのエンターテインメントを通して元気や勇気をもらって『エンタメって凄い!』と改めて実感した一人なんです」と目覚めがあった。
高畑は続ける。「これまでの15年は『自分が楽しければいい!』という考えで、受け取り手のことを意識することが抜けていました。今回の映画の撮影や今年有観客で行われた主演ミュージカル『ウェイトレス』を通して、みんなが元気になってくださるのを肌で感じて。自分だけではなく、みんなのために。それが新たなモチベーションになりました」。『浜の朝日の嘘つきどもと』も誰かを勇気づけて、モチベーションを高める一作になるはずだ。
取材・文:石井隼人
写真:You Ishii