2021年7月より放送されているTVアニメ「ぼくたちのリメイク(ぼくリメ)」は、ゲームディレクターの主人公・橋場恭也が28歳の記憶を持ったまま10年前の世界に戻り、自らの人生を作り直すべく芸大への道を選ぶというストーリー。恭也は映像学科に身を置きつつも、仲間の問題を解決するために同人ゲーム制作に挑むなど、ゲーム作りの大変さや面白さが描かれている。
そんなゲーム作りという共通点を持つ人物として、2021年4月にNintendo Switch用ソフト「スーパー野田ゲーPARTY」を手がけてスマッシュヒットを記録した、マヂカルラブリーの野田クリスタルにインタビューを実施。
お笑い芸人でありながらゲームクリエイターである二足の草鞋だからこそ生み出せた「野田ゲー」の秘訣や、自身のゲーム原体験について話を伺った。
「まったく新しいゲームを作ろうとは思ってないんです」
――「ぼくリメ」という作品では、主人公・恭也が2006年の世界に戻って人生をやり直しているのですが、野田さんは2006年頃だと元々組まれていた役満というコンビを解消して、マヂカルラブリーを結成される直前になりますよね。
野田:ちょうどその節目にあたる頃になりますね。まだ地下芸人時代だったので、尖りが抜けていない時期だったと思います。
――もし恭也と同じように野田さんが今の状態で2006年に巻き戻ったとしたら、どのような道を歩むと思いますか?
野田:今の知識を持ったままだとしたら、何をやるにしても最短ルートを辿って1年間で――2007年に今と同じような状況になれるよう頑張っているかもしれないですね。何がダメなのかがわかっている状態なので、同じ人生にはならなくて単純に時短になると思います。
――お笑い芸人ではなくて、ゲームクリエイターに専念する道もありえる、ということでしょうか?
野田:僕がゲームクリエイターだけをやってしまうと、ただの弱いゲームクリエイターになってしまうんですよ。あくまでお笑い芸人がやっているという価値がないと意味がないと思うので。ただ、2006年の頃もゲームは好きでしたし、ゲームを作るという選択肢は選んでいるのかなと。
――個人でもゲームを作られていた野田さんが、面白法人カヤックさんとタッグを組んで生み出したのが「スーパー野田ゲーPARTY」ですが、お笑いファン以外からの反響もありましたか?
野田:マヂカルラブリーを知らなくても、「スーパー野田ゲーPARTY」を知っている人が多くいて、割ともう僕の手を離れていると感じますね。YouTubeで検索しても、野田クリスタルを知らない人が紹介してくれていたりするので。
――「ぼくリメ」では集団でのゲーム制作が描かれているのですが、野田さんは個人でも集団でもゲーム制作をされてきて、どちらが楽しかったと感じましたか?
野田:集団の方ですね。「スーパー野田ゲーPARTY」ではカヤックさんが僕に合わせて制作してくれたんですが、ゲームアイデアを出している時が楽しくて。個人と集団の大きな違いは、単純に僕がプログラミングをするかしないかなんですが、個人で作っている時はプログラミングが楽しいと感じます。
――なるほど。「スーパー野田ゲーPARTY」ではクリエイティブディレクターを務められていますが、アイデアを出したあとはチェックすることがメインの業務だったのですか?
野田:そうです。こういうゲームを作ってほしいとオーダーして、でき上がったものをチェックしていました。
――制作していく上で、いちばん大変だったことはどんなことでしたか?
野田:クラウドファンディングで資金とゲーム用素材を集めたのですが、その素材が集まりすぎてしまったことですね。そもそも何も考えずにクラウドファンディングをしてしまったものですから、素材を全部使い切らないといけないという状況でゲームを作らなくてはいけなくて(笑)。
――そんな制約があったんですね(笑)。プレイしてみると、どれも操作性をはじめ初見でのインパクトが強かったのですが、既存のゲームの常識をぶち破ろうという意識があったのでしょうか?
野田:ぶち破るというよりはリスペクトですね。自分が小学生時代にやっていたゲームが好きで、当時のゲームのオマージュと言いますか。まったく新しいゲームを作ろうとは思っていないんです。
「100%お笑い芸人が作っていたらネタだけで終わっていた」
――「スーパー野田ゲーPARTY」には全16本のゲームが収録されていますが、その中からイチオシを挙げるとしたらどのゲームになりますか?
野田:1本というのは難しいですが、僕個人としては「オニオンクエスト」ですね。あれは子どもの頃からやってきたRPGの思い出が詰まっているんです。ずっと「ファイナルファンタジーIII(FF3)」をやっていたんですが、その頃はストーリーも読まなかったですし、街の人に話しかけることもしていなくて。
――ずっとレベル上げをされていたんですね。
野田:「FF3」には、たまねぎ剣士という一番弱い初期のジョブがあるんですが、レベル99になるとどのジョブより強くなるんですよ。それを聞いてひたすらレベルを上げて99にしたら、猛烈に寂しくなって。ずっとレベルを上げていたかったという想いが、「オニオンクエスト」には入っていますね。
――レベルをひたすら上げる楽しさはありますよね。
野田:結局、ふた通りの楽しみ方があると思うんですよ。RPGでひたすらレベル上げをすることや「Minecraft(マインクラフト)」みたいに時間をかけてプレイする楽しみ方と、レベル上げをなるべくしないでひたすら効率的に最短で攻略していくような楽しみ方。
大人になってくると、どうしても攻略とか効率よく進めるようになっちゃうんですけど、それでも時間があったらレベル上げをやりたいなと思います。
――ちなみに、野田さんが作るゲームは「野田ゲー」と呼ばれていますが、共通のコンセプトなどはあるのでしょうか?
野田:人に見せるもの。そこが全てですね。たとえば長いプロローグがあると、実況プレイではそこを読まないといけないんですよ。もういきなりゲームが始まってしまってもいいし、説明不足ぐらいがちょうどよかったりするんです。
説明不足の状態でプレイしてもらって、「なんだこのゲームは?」と思ってもう一度プレイしてもらう。そういうのが、人に見せるゲームだと思っているので、最初から最後までそこがこだわりとしてこびりついています。
――人に見てもらう前提があるんですね。
野田:僕個人としてはRPGとか1人で黙々とやるゲームも好きなんですけど、それはなかなか人に見せづらいとは思うので。「オニオンクエスト」は無限にレベルを上げられるゲームですが、ここまでレベルが上がったというのを人に見せるためのゲームでもあるので、基本1人では完結しないゲームが多いです。
――ゲームをプレイしている人と見ている人の相互関係が大事なんですね。
野田:たとえば「桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!」は3年モードでプレイすると毎月何かが起こるシステムになっていて、それはゲーム実況に目線を合わせた作り方だと思うんです。僕もまったく同じ考えで、実況をすると考えた時に画面上に文字が出るということはそれを読まないといけない。だから読ませないようにする。遊び方も何ページも開かせるわけにはいかないので、1ページに収めています。
いまさら「こっちの矢印を押したら右に進む」みたいな説明も必要ないと思うので、開始して数秒で何かが起こるゲームが多いですね。だから難易度が低いゲームが少なくて、はじめは「なんだこれ?」って思って終わるものが多くなります。
――その驚きがプレイヤー側と見ている人で共感できるところになると。
野田:ネタゲーといえばネタゲーなんですが、いちおう攻略があると言いますか。「こんなネタでした」で終わらせる気はなくて、全部のゲームに何かしらの攻略があるようにはしています。
――ネタゲーとしてのインパクトがありつつも、プレイしていくとだんだん攻略法がわかってくるバランス感覚がすごいですよね。
野田:100%お笑い芸人が作っていたらネタだけで終わっていましたし、逆に100%ゲームクリエイターだったらネタにならずにゲーム性だけ突き詰めてしまう。なので、どっちもあったのが強かったのかなと思いますね。そこが「野田ゲー」というジャンルになるのかな。
――腑に落ちました。本日はありがとうございました!
芸人ならではの視点とゲームクリエイターとしての視点を合わせ持ち、ゲーム作りをされている野田さんのバランス感覚。「ぼくリメ」にて理想と現実の間でできるベストを尽くす恭也とも、近いものを感じられた。
取材・テキスト/miraitone.inc
TVアニメ「ぼくたちのリメイク」概要
主人公・橋場恭也が28歳の記憶を持ったまま10年前の世界に巻き戻り、憧れのもの作りに関わる人生を作り直すべく芸大への道を選ぶ。映像学科でシノアキやナナコをはじめとした才能ある仲間たちと作品を作っていく中で、もの作りの楽しさはもちろん、苦しみや葛藤もリアルに描かれる。
【公式HP】https://bokurema.com/
【Twitter】https://twitter.com/bokurema_anime
(C)木緒なち・KADOKAWA/ぼくたちのリメイク製作委員会
「スーパー野田ゲーPARTY」概要
ダウンロード版のみ
プレイ人数:1~2人
対応ハード:Nintendo Switch
配信日:2021年4月29日
メーカー:吉本興業