財務省は7日、国の2022年度の予算案の概算要求について、総額で111兆円を超え、4年連続で過去最大になったと発表した。
概算要求とは、各省庁が来年度に必要な経費を積み上げたもので、8月末を期限として財務省に提出される。財務省の集計によると、国の一般会計の要求総額は111兆6559億円(前年度比4.1%増)となった。高齢化の進展で医療や介護などの社会保障費が膨らんだことや、国債の償還、利払いに充てる国債費が増えたことが背景にある。
また、コロナ対策など概算要求の段階では金額が示されていないものもあり、年末に編成される予算の規模はさらに膨らむ可能性もある。この概算要求の中身について、テレビ朝日経済部の梶川幸司記者が解説する。
概算要求の約3分の1を占めるのが厚生労働省で、33兆9450億円(前年度比2.4%増)。このうち、年金・医療・介護の社会保障費が31兆円とほとんどだが、2022年は社会保障にとって特別な意味を持つ1年だという。
「1947年からの3年間に約800万人、1年間に250~260万人の方が生まれた。2020年は84万人なので、圧倒的なボリュームの差がある。そうした『団塊の世代』が2022年から、75歳以上の後期高齢者に入っていくことになる。そうなると、仕方のないことだが医療や介護は増えていくので、これから社会保障費がものすごい勢いで年々増えていくことになる。この高齢化による増加が6600億円あったということで、いよいよ現役世代の負担は大きくなっていく。ずっと先送りにされてきた問題に直面しなければいけない年になる」
概算要求はそのほか、防衛省が5兆4797億円(前年度比2.6%増)、国土交通省が6兆9349億円(同18%増)、新設のデジタル庁が5426億円など。国土交通省が大幅に増えているのは、気候変動で水害が多発していることへの新しい治水のあり方、「流域治水」に5000億円以上がつけられたことによる。一方、国土強靭化への費用は、要求はしているものの金額は載せておらず、年末にかけて調整していくということだ。
現政権がアピールしたいのが、「特別枠」の4分野。「グリーン(脱炭素)」「デジタル」「地方活性化」「子育て支援」で約4兆円が概算要求に出されている。各省庁はこれらに関連する品目を出してきたが、この特別枠は“曲者”だという。
「予算獲得の“打出の小槌”というか、グリーンやデジタルと何の関係があるのかというものをあてがってみたり、毎回ある政策なのに看板を付け替えて『これはグリーンだ』と言ってみたり、予算増額の常套手段となっている。これは年末に向けての予算編成の中で、大いにバトルの舞台となってくることは想像に難くない」
目下の課題は新型コロナウイルス対策だ。関連する省庁は様々あるが、厚生労働省のコロナ対策予算を見てみると、ワクチン治療薬の開発支援に7億円、PCR検査など検査体制の確保に2.3億円、ワクチン接種体制の構築に3.6億円、病床確保の支援と雇用調整助成金の特例措置は事項要求となっている。この「事項要求」とは、概算要求の時点では金額を示さず、年末までに調整するということを意味する。
「病床確保はいちばん大事なことだが、来年度にコロナの感染がどう収束するか、新しい変異株が出てくるのかなど、現段階ではわからない。先行きが見通せないので、要求はするが、金額は年末に向けて待ってほしいという意味がある。雇用調整助成金は、企業が雇用を守ることを前提に、休業手当のお金を国が肩代わりするものだが、去年2月から4兆円以上の莫大なお金が使われている。コロナの長期化で雇用がこの後どうなるかが見えてこないので、今の段階で数千億円というような計上はできない。コロナに関するかなりの部分が事項要求であるとすると、今回の111兆円というのはさらに増える可能性がある。もちろん、必要な予算はつけなければいけないが、今出てきてる数字がすべてではなく、事項要求はコロナ以外のいろんなものに埋め込まれているので、これらをどうやって査定していくかが大きなポイントになってくる」
コロナ対策に多くの金をつぎ込んだことで、国の借金は今年6月末時点で1220兆円を超えている。概算要求では、国債費は30兆2362億円(前年度比27%増)と、初めて30兆円の大台に乗せた。
「これは国債の償還や利払いに使うお金。財政の危機というのはかねがね言われているが、今年はそういった意味でも、大台に乗ったということでひとつ節目の年になったと思う」
自民党総裁選で経済対策は大きなポイントになると思われるが、梶川記者はコロナ禍で経済対策を打つことには2つの課題があると指摘した。
「1つは、景気をよくしようと思って消費を刺激すると、感染者が増えてしまって、かえって経済にマイナスを与えてしまう。去年のGoToキャンペーンなどがそうだ。ワクチンを打った人などを中心に、行動制限の緩和をどうやっていくかということを政府は考えているところだが、(さらに経済対策を打つことで)景気をよくしようと思ってやることがかえって悪くなる、このジレンマをこれからどう考えていくか。
もう1つは、去年たくさんのお金を積んだが、30兆円のお金を使い切ることができずに翌年度に回している。例えば、協力金の支払いが遅いと飲食店が怒っているが、自治体が配りきれていない。たくさんのお金を積んだのにそれができていないということになると、これから新しくお金を積むというよりは、すでに立てたお金をちゃんと困っている人に、迅速に配ることを考えていくことも大切だと思う。そうした視点もぜひ持って、総裁選の公約を考えていくべきだと思うし、近く総選挙もあるので、野党の政策も含めて見ていくべきだと思う」