河野太郎行政改革担当大臣は10日、自民党総裁選に出馬することを正式に表明した。
今回の総裁選で“影のキーマン”として影響を及ぼしているのが、安倍前総理だ。安倍前総理から支持を取り付けている高市早苗前総務大臣は、メディア出演で「安倍路線継承」を前面に。一報、河野大臣はこれまで掲げてきた「脱・原発」「女性天皇容認」の持論を封じ、現実路線を打ち出した。
河野大臣に対しては菅総理が過去、路線変更も時には必要だと諭すような言葉をかけていたという。テレビ朝日政治部の今野忍記者が伝える。
Q.河野大臣の出馬会見から受けた印象は?
カラーで印刷された政策パンフレットを配布して、中では「保守」という言葉が多用されていたのが印象的だった。あとは、「ぬくもりの政治」とか「ぬくもり」というキーワード。河野さんはどちらかというと猪突猛進というか、異端児という印象が強いと思うが、この会見では、「皆さんと一緒に」とか「共感」を求めるような表現もあって、イメージチェンジを図ろうとしているような、「いろんな人の話を聞いていきますよ」というスタンスを示した冒頭発言だった。
質問に移ったところでは、最初に原発の再稼働をどうするかを聞かれたが、パンフレットにも「産業界も安心できる現実的なエネルギー政策を進める」と明記されているように、持論であった「脱・原発」を事実上、封印したようなかたちになった。総理を目指すわけなので、自民党のバックにある経団連や経済界、ベテラン議員に配慮したような会見だと考えている。
Q.なぜ「脱・原発」から方針転換?
河野さんといえばひと昔前まで、「脱・原発」がキーワードみたいな政治家だった。菅総理が官房長官だった時に直接ご本人から聞いた話があって、2012年に第2次安倍内閣ができた時から2014年ぐらいまでの間は河野さんを非常にかわいがっていたと。「閣僚にならないか」と声をかけていたが、河野さんは「脱・原発を取ったら河野太郎じゃなくなる」というニュアンスのことを言って、あまり乗り気ではなかった。
今度2015年に内閣改造をする際に、菅官房長官が河野さんを口説く時に言ったのが、「大人になれ」という言葉。要は、「やりたいこともいろいろあるんだろうけど、大人になれば俺がいずれ総理にしてやる」と、こうやって口説いた。それで、河野さんは「脱・原発」と書いてあった当時のブログを閉鎖して、当時の国家公安委員会委員長と行政改革担当などで初入閣した。なので、本人としてはあの時点で「脱・原発」はいったん閉じている。
Q.河野大臣はポストのために自身のポリシーを曲げるような人?
そこを記者なども厳しくつくが、本人はあんまり意に介さないところがある。内心、おそらくは「脱・原発」なのだろう。パンフレットでは「現実的なエネルギー政策」と書いているが、よくよく話を聞くと「将来的には原発はなくなる」とも言っている。
どういうことかというと、改革のスピードの問題。自分が総理になったらすぐ全国にある原発を廃炉にする、といった過激なことをすると、原子力関係で働いている人も多くいるわけで、大変な混乱になってしまい、経済界もついてこない。これからクリーンエネルギーや自然エネルギーをやっていけば、原発は最低限は使っていくけれども、原発をメインにするわけでもないし、河野さんは新しい原発をつくるとも言っていない。スパンの違いで、ひょっとしたら10年後か50年後かもしれないけど、自分のスタンスは変わってないと。
ただ、総理にならなければ、偉くならなければ自分のやりたいこともできないので、封印でも曲げたわけでもなくて、「妥協」というのが適切だと思っている。小泉(純一郎)さんが郵政民営化をやったのもかなり最後のほうで、安倍前総理が憲法改正を具体的に自分の政権の達成目標として掲げたのも2017年ぐらい。そうやってまず実績をつくりながら、「脱・原発」への工程表を将来的にはつくるかもしれない。そこが菅総理に言われた「大人になれ」ということだと思う。
Q.安倍前総理が支持を表明している高市前総務大臣への意識もある?
安倍さんが高市さんを支持する理由には、菅さん(が総理)になってから、自民党の強い保守層、安倍さんにとっての岩盤支持層の人たちが離れている懸念もある。来月には衆議院の総選挙もあるので、もう一度岩盤支持層の人たちに自民党の中に保守的なものを示すために、安倍さんは高市さんを支援している。
河野さんはある程度、決選投票とかも見据えてこういった保守を掲げて、安倍さんもしくはベテランの人たちに「安心してください。私は異端児とか変人みたいに言われているけど、ちゃんと現実的な形でやっていきますから」というメッセージを送っているという感じだ。党内のベテランたちはかなり河野さんに抵抗感があると思うので、「私が総理になったからといっていきなり全部、あなたたちが守ってきたものを変えるわけじゃない」というアピールだと思う。