「一つの時代が終わった」という紋切りの表現があるが、ボン・ジョヴィにとって2015年は、まさに「一つの時代」の終焉ともいえる年だった。
夏にひっそりとリリースされた『バーニング・ブリッジズ』は、彼らにとって通算13作目のアルバムにして、32年間在籍したマーキュリー・レコード(ポリグラム~現アイランドなど途中名称変更あり)からの最後のリリースとなった。理由は色々あるが、全世界でのアルバム・トータルセールス1億2000万枚を誇る天下のボン・ジョヴィはリストラされたのだ。
ジョン・ボン・ジョヴィの言葉からも「両者の決裂」明らかで「我々(レーベルとバンド)は別々の道を歩むことになった。「バーニングブリッジズ」を聴けば、何が起こったか全て書いてある」と。
最新アルバム最後のタイトル曲(日本盤はボーナストラックが収録されている)「バーニング・ブリッジズ」の歌詞はざっくりとこのような内容だ。
「さよなら、アディオス、アウフ・ヴィーダゼーエン、フェアウェル、アデュー、グッドナイト、グーテン・アーベント、これがキミ達が売ることの出来る最後の曲だ。この曲をバーニング・ブリッジズと呼ぼう、皆んなでシングアロングする曲だ」
「30年の忠誠の果てに、お前たちはオレに墓を掘らせた、売上の半分はくれてやる」
と、ジョンのベビーフェイスなイメージとはかけ離れたレーベル批判の塊のような曲。
そもそも曲のタイトルが「二度と戻らない」「縁が切れた」という意味だから、これは驚く程攻撃的な決別ソングなのだ。こんなレコード会社の悪口が延々と綴られた楽曲がリリースされたことにも驚きだが、本作でアイランドはボン・ジョヴィのアルバム・プロモーション用にPVは一切作らず、リリース直後に全曲のリリックビデオをYouTubeで公開し、その冷えきった関係を態度で示した。
かつて栄華を極めた人気アーティストが静かにレーベルを去るということは、人気商売である以上日常的にある話ではあるが、ボン・ジョヴィに関しても例に漏れず、2000年の大復活作『クラッシュ』が全世界1100万枚セールスに対して、13年後の『ホワット・アバウト・ナウ』は7分の1までセールスが落ち込んでいたのだから、ビジネス側の理屈も理解できない訳ではない。
暗い話ばかりになってしまったがこの話には続きがある。2016年5月25日ボン・ジョヴィは3月に録音を終了していたことを報告していたニューアルバムが「ディス・ハウス・イズ・ノット・セール」になることを発表。しかも罵声を曲に込めて去ったはずのアイランド/ユニバーサル・ミュージック・グループとの新契約を発表と、ファンにとっては肩透かしのようなオチが待っていた。
THE ALBUM IS DONE Photo by @DavidBergman pic.twitter.com/KsJjQCJHWO
— Bon Jovi (@BonJovi) May 25, 2016
デビューから僅か3年でメガバンドとなり全世界を制覇。キャリア10年を超えた90年代半ばあたりに、ハードロック/ヘヴィ・メタルブームの終焉、メンバーのケガを発端に俳優やソロ活動などでバンドがバラバラになり大きな停滞期を迎えたが、5年のブランクから「イッツ・マイ・ライフ=これが俺の生き様」と高らかに宣言して大復活を遂げたボン・ジョヴィ。
2013年のリッチー・サンボラの脱退から、前述のレーベルとの契約騒動までの流れが彼らバンドにとって2度目の危機だと考えると、シナリオが上手く進むと2016年は大復活となる「第3章の始まり」という位置づけになる。
今となっては、あの喧嘩騒動自体がアルバムプロモーションの壮大な仕掛けだったとも取れなくないが、彼らがファンを騙すようなことをするとも思えないし、双方が歩み寄るような進展があったのは確か。何よりメンバー6人でアルバム完成を報告した集合写真で微笑むジョンの胸にあの「マーキュリー・レコード」のロゴが輝いているのがその証拠である。
秋にはニューアルバム「ディス・ハウス・イズ・ノット・セール」が届けられ2017年のワールド・ツアーも決定した「ボン・ジョヴィ第3章」が、まもなく始まろうとしている。