LIBRO。ラップ/トラック・メイクの両輪を自身で手がけるスタイルで、97年「軌跡」でデビュー、98年には現在においてもクラシックと名高いアルバム「胎動」をリリースし、その名前をシーンに轟せた。00年台はソロとして「三昧」や、Keycoとのユニット:Fuuriでの活動、インスト盤「night canoe」などをリリースするが、一方で非常に寡作なアーティストとして、散発的なリリースを展開するに留まった。

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しかし、2014年に自身のレーベル「Amped Music」より「COMPLETED TUNING」をリリースし、15年には9sari/Black Swanともレーベル契約を結び「GEAR」を制作。その後も自身のレーベルより「拓く人」、嶋野百恵とのコラボ作となる「オトアワセ」、そして、楽曲提供や客演参加など、活発なリリースを展開するに至っている。

その彼が、5月25日に新作となるアルバム「風光る」をリリースした。

「これまでの作品にも当然手応えがあったけど、今回はより強い手応えがありますね。自分自身、00年台は過去の自分の作品に囚われてて、先に進めなかった部分があると思うんです。だけど、2014年の「COMPLETED TUNING」を皮切りに、2015年は、トラックメイカーとしての「GEAR」、ラッパー/トラックメイカーとしての「拓く人」、コラボとしての「オトアワセ」と、構成の違うアルバムを三枚出すことで、今までのキャリアに対して、落とし前じゃないですけど、答えを出したって意識があったんですね。その三枚で今までにやってなかった、今までに出来なかった事が表現出来たと思うんで、そこで答えが纏まったから、最早そこに掴まってる場合じゃないし、次の段階に進めたというか。だから、今回は「その先の意識」みたいなものを形にしたいなって」

やはり、今作でもまず耳に飛び込んでくるのは、LIBROの手掛ける、柔らかな表情のあるエモーショナルなビート感。サンプリングを基調にした美学のあるサウンドは、やはりLIBRO印を感じさせる。

「D.Lさん(ILLMATTIC BUDDHA MC’S)の昔のインタビューを読むと、『自分は90年中盤しか興味が無い』みたいな事を仰ってて。その視点がスゴく格好いいな思ったんですよね。自分も90年代のヒップホップの質感に影響されて音楽活動を始めたんですけど、そのアプローチを極めないまま、単に最近の音や流行を取り入れてもしょうがないなって。でも一方で、時が止まったままのサウンド作りをしても、それも懐古主義になってしまう。だから、『積み上げながら進化していく』って事をやっていきたいんですよね。90年代後半ぐらいの僕の作品は、ビギナーなりの新しさ提示してたと思うんだけど、そこでもっと新しいモノを求めたり、考えすぎてしまって、一旦活動を弱める事になって。だから今は『それとは違うベクトルに進んだ未来』の音をやってるって感じがあるんですよね」

同時に、抽象的だがリスナーのイマジネーションを刺激するようなリリシズムも、今回は際立っている。

「今回の作品は音だけでは成立しないから、ラップ/リリックを肝にしましたね。僕は「ラップとトラック」でシーンにエントリーしてたのに、これまでラップの成長は少しストップしてたかなって思うし、だから、ラップとリリックの精度を上げていきたいんですよね」

今作にはポチョムキンや漢 a.k.a.GAMI、DJ BAKUといったベテラン勢から、小林勝行、仙人掌、そして5lackと新たなシーンを切り拓くアーティストまで幅広く参加し、作品の彩りを倍加させている。その意味では、制作に対する意識や内容、客演も含めて、「風光る」は原点回帰しつつ、その先を見据える作品となっている。

「僕のキャリアを知らない、新しいリスナーにもちゃんと刺さるものを作りたいし、そうじゃないとダメかなって。昔は『携帯の電源は切っといて正解』ってラップしたけど、今はスマホじゃないですか(笑)。そういう意味でも変化してるし、新しい世代にも刺さるモノを作って、ここからもう一歩進みたいんですよね。そういキッカケの作品になれば嬉しいですね」

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