1998年からスタートし大ヒットを記録し続ける『リング』シリーズ、そしてそれを追いかけるように翌年の1999年にオリジナルビデオが発売され、昨年『呪怨 -ザ・ファイナル-』でその歴史に幕を閉じた『呪怨』シリーズ。『リング』の貞子と『呪怨』の伽椰子というホラー映画界の2大ヒロイン。絶対に出会ってはいけないこの2人が同じ画面に登場する映画『貞子vs伽椰子』が6月18日から公開している。

「ジャパニーズホラー史上、最も恐ろしいバトルを描いた」とも言われる同作品で、貞子と伽椰子を始めとする全出演者のヘアメイクを手掛けたメイクアップアーティストの村木アケミさんに、怨霊たちのメイクの秘話を聞いた。

——今回のメイク、よくあそこまでできましたね……。

村木:監督からお話をいただいたときに、人間役の出演者に加えて、怨霊の貞子、伽椰子、俊雄のメイクを発注されました。私はこれまで、ちょっとした血のりや傷は作ったことがありますが、ホラー映画でのガッツリ特殊メイクというのは経験がなかったので「えっ?!今回幽霊は3人ですよ!? メイク部の人数(2人)で時間的にも絶対にムリ」と思ったのが最初の正直な感想です。

「これまでのシリーズもメイク部がやっていたから」とプロデューサーに言われ、腹をくくって、全出演者のメイクを引き受けることになりました。こだわった点は3人の白塗りが撮影中に簡単に落ちないことと、なおかつすぐに落とせるようにすること。長い時間の撮影後にメイクオフの環境が整っていなくても、時間をかけすぎず素早く落とせるようにすることで、演者さんの負担を減らしたかったんです。

試行錯誤しましたね。結果、クラシックバレエなどで使うリキッドファンデをベースに色を作ったものを下地に塗ってから、特殊な塗料でコーティングするという方法を取りました。こうするとちょっと温めればすぐに落とせるので、メイクオフの時間を短縮することができました。

——監督からはどんな指示がありましたか?

村木:遠目にも分かる貞子と伽椰子の差をつけて、なおかつ過去作品とも少し違うものにしたいと言われました。俊雄に関しては、目の周りの黒を違和感なくして欲しいというお話がありました。

——具体的にどんなメイクを施しましたか?

村木:貞子と伽椰子は肌の色合いによる違いを出しました。今回の貞子は井戸と直結させたくないと言われていたのですが、湿気のある場所にいると苔やカビが生えるので、すこし黄緑っぽい白塗りで、伽椰子は心霊スポット独特の冷たい空気を出したかったので、水色っぽい白塗り。

あと貞子は顔が見えなくてあまり動きがないので、見えている部分から恐怖心をあおれるように、指の間の部分を黒く塗って、手が骨ばって見えるようにしました。井戸はでてこないのですが、井戸に閉じ込められよじ登ろうとした時爪につくであろう水苔のメイクも施しています。

伽椰子は、死因を明確にしたくないと監督から言われていたので、身体中に色々な傷を作りました。よく見ると打撲痕もあるんですよ。あとは、過去に殺した方の血飛沫もあります。俊雄は、目の囲みが不自然に感じたので、怖さを強調したく今回は目の下を広めに黒くするという提案をしました。俊雄は、今までのシリーズの違いがかなり分かりやすいと思います。

——村木さんならではのテクニックを使った部分はありますか?

村木:私は普段ファッションや音楽広告などのヘアメイクの仕事が多く、特殊メイク専門ではないので、特殊メイクに普段女性たちが使用するような普通のメイク用品を使うことが多いです。例えば、今回の貞子の手のグラデーションはパウダーシャドウ・クリームシャドウ・アイライナーで作っています。その方がナチュラルなグラデーションが作れるので。そこがホラー映画の特殊メイクさんとは違うところかもしれませんね。

——完成作品を見ていかがでしたか?


村木:普段なら、完成した作品はメイクの視点で見てしまい、あれをこうすればよかったなどの反省点が出てくるのですが、今回は監督ならではのスピード感が印象的で、視聴者としてもすごく楽しむことができました。メイクに関しては、こだわって作った貞子の手元をしっかり見てくれている人がいて「今回の貞子って指の長い人を起用してるの?」という問い合わせが結構ありました。見る人にこちらの狙いが伝わったことはうれしかったですね。

※映画『貞子vs伽椰子』より