6月17日付けイギリス・アルバム・チャートで大異変が起きた。80年代後半ユーロビートナンバー「ネヴァ・ゴナ・キヴ・ユー・アップ」で英米1位を獲得したリック・アストリーの最新作『50』がチャート1位を獲得したのである。

日本でも往年の2発屋として洋楽ファンの記憶に刻まれているリック・アストリー、一時期は三ツ矢サイダーのCMキャラクターを務めるなど大人気だった彼だが、今や「過去の人」という印象だろう。海外でも「何故今頃リック・アストリーが?」「え?まだやってたの?」という驚きの声が世界中から聞こえて来るのも無理は無い。本作リックにとってはデビュー作以来29年ぶりの全英1位、さらに本作は自身11年ぶりのアルバムという大復活作なのだ。

1987年に当時ヒットチャートを牽引していたプロデュース集団、ストック・エイトキン・ウォーターマンのプロデュースで鳴り物入りでデビューしたリックだが、全米、全英を制覇した「ネヴァ・ゴナ・キヴ・ユー・アップ」と「トウギャザー・フォーエヴァー」のヒット以降は徐々に人気は下降線を辿り多くの作品が長い間泣かず飛ばず。元々実力派のソウル・シンガーで「童顔なのに渋い声」がインパクトを呼んでいたが、90年代からセルフプロデュースで精魂込めて制作した骨のある作品は全く売れなかった。

低迷期から00年代にリリースした作品がヨーロッパで評価されその才能は瞬間的に認められることもあったが、それ以降で話題になったのは「リックロール」というネット上での現象。

ネット掲示板で、ポルノ映像や映画や音楽リークのリンクとして貼られる先がリック・アストリーの「ネヴァ・ゴナ・キヴ・ユー・アップ」というイタズラ、いわゆる吊りで、さらにMTVの「ヨーロッパミュージックアワード」で「史上最高のアーティスト」にブッチ切りで投票1位を獲得するなどリックは馬鹿にされる対象として長らく不遇の日々を過ごしていた。(ちなみにリンク先となった「ギヴ・ユー・アップ」は2億回というとてつもない再生数を誇るが、自身の作曲ではないため印税がたったの12ドルだったという、笑えない話もある)。

そんなリック・アストリーだったが、これらのネットでの絶大な知名度が今回の最新作では大きな助けになったのも確かだ。11年という大きなブランクを経てリリースした最新作『50』は、円熟味に磨きがかかったシンガーの本領が存分に発揮された傑作で、4月に先行配信されたゴスペルチックなパワフル・バラード「Keep Singing」のミュージックビデオは瞬く間に200万再生、さらに先週アルバムリリースに合わせて発表した「エンジェル・オン・マイ・サイド」も50万再生目前と好調だ。

アルバム『50』発売当日にイギリスのレコード店で行ったインストアイベントには80年代を懐かしむファンに混じってスマートフォンを片手に熱狂する若いファンたちの姿も映し出されている。歌っているのはあの「ネヴァ・ゴナ・キヴ・ユー・アップ」だ。

2発屋と揶揄されながらも、29年間地道に歌い続けてきたリック・アストリー。本人にとって「呪縛」ともいえるヒット曲も時の流れと共にスタンダードとなり、今回の復活劇に一役買ったのかと思うと感慨深いものがある。

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