この記事の写真をみる(10枚)

 昨年公開した『孤狼の血』は第43回報知映画賞 邦画作品賞を筆頭に、第61回 ブルーリボン賞 監督賞、第42回日本アカデミー賞 最優秀主演男優賞(役所広司)など映画賞を総なめ。現代社会に刃を突き立てるような作風で、日本映画界で異彩を放つ白石和彌監督の最新作『麻雀放浪記2020』が4月5日(金)より公開される。

 本作は、阿佐田哲也の250万部を超えるベストセラー小説「麻雀放浪記」を、和田誠監督の映画化以来35年ぶりに再び映画化したもの。原作では1945年、戦後の日本を舞台としているが、本作では第三次世界大戦が勃発したため“東京オリンピック”が中止となった2020年の“戦後”の世界を描く。主人公の“坊や哲”を演じるのは、前作『麻雀放浪記』を生涯ベスト映画のひとつだと語る斎藤工だ。

 『孤狼の血』をはじめ『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』など、数多くスパイシーな作品を生み出してきた白石監督だが、本作は監督史上1番の激辛作品だと宣言。「辛いのに慣れていない人はお腹をくだす」とまで語っているが、果たしてどんな物語なのか。

(※本インタビューは2月に実施)

オリンピック中止…過激なイメージで誤解されがちな『麻雀放浪記2020』のストーリーは?

拡大する

ーー今回、マスコミ試写なしでの公開ということで、こちらもイメージが膨らんでいるのですが、『麻雀放浪記2020』は、ずばりどんなお話なんですか?

白石監督:逆にどんなイメージを持っていますか?

ーー特報映像を見た感じだと、バイオレンス色が強いのかなと。『孤狼の血』並みの……。

白石監督:バイオレンスはあまりない。コメディ色がすごく強いんです。「オリンピック中止」という設定が話題になっているけど、単純に面白い映画を作りたいと思って作りました。和田誠版では、(老練の博徒である)出目徳が“九連宝灯”というめちゃくちゃレアな役満を出して上がって死ぬんですけど、今回、坊や哲もそれで上がったがためにタイムスリップしてしまうんです。そして、タイムスリップし直して元の世界に帰るためにはもう一回上がらなきゃいけない。昔の麻雀は、サイコロをうまく回せば手摘みで牌を自分のところに来るように並べられるんです。でも、今は全自動麻雀だからできない。牌の並びをコントロールできないから。だから、坊や哲は上がれなくなってしまうんです。

ーーなかなか未来から帰れなくなってしまうんですね。

白石監督:昭和の麻雀はちょっとでも高い手で上がれそうになったら、そっちを待ったりする。でも現代麻雀だと、点数少なくても確率論であがった方がトータルいいから、少なくても上がっちゃう。

だからフラッと雀荘行っても、今まではみんな大きい手で上がるような戦い方をしていたのに、今は急に1000点とかで上がっちゃう。だから「くそみてえな上がり方しやがって!」って坊や哲は生きづらくなってしまうんです。それまでは博打をするのが当たり前だったのに、現代はスポーツ麻雀で健全で、賭けごとで使われていたというのは負の歴史。坊や哲は雀荘行ってお金を稼ぎたくても稼げないんです。で、しまいには賭博法違反で捕まったりします。

ーー賭け麻雀を2020年の世の中でガンガンするっていうイメージだったんですけど違うんですね!

白石監督:しようと思ったんだけどできない。する人がいないから。

ーー「賭け麻雀を促進するのでは」と不安視するような声も上がっていましたが、真逆ですね。

白石監督:でも、「賭け麻雀の方が楽しくない?」みたいな雰囲気はあります(笑)。

オリンピックが中止になった2020年の東京が舞台なんですけど、実は形を変えてもう一度やるんです。坊や哲はそのオリンピックに出ることになる。だけどそのとき賭博法違反で捕まっているんですよね……。

ーー(笑)すごい設定ですね!

白石監督:この話を思いついて、佐藤佐吉さんに脚本をお願いしたら、佐吉さんが斜め上をいく設定をたくさん考えてきて、それが頭おかしい映画になった根源なんです(笑)。

ーー例えばどんな設定を?

白石監督:ももちゃん(チャラン・ポ・ランタン)が売れないアイドルのドテ子って役を演じているんですけど、彼女は哲のことを好きになるんです。なんとなくそういう雰囲気になったりもするんだけど、ドテ子には人間と恋する上でトラウマがあるんです。

ーーえ!人間と?じゃあ人間以外とも!?

白石監督:シマウマなら。

ーー(笑)

白石監督:それを聞いたとき、頭おかしいなと思って(笑)。でも、シマウマとって難しいじゃないですか。(シマウマは)連れても来れないし。

ーー(シマウマとは)なかなか出会えないですね。

白石監督:出会えないでしょ?だから「やめる?」ってプロデューサーはなったんですけど、「でもこれ他の動物じゃダメだし、シマウマじゃないとダメだから、これやめるなら俺降ります」と言いました。

拡大する

ーー(笑)ちょっとファンタジーな感じで描いているんですね。でも監督は以前、国会議員試写で「スパイス具合でいうと、(これまでの作品の中でも)一番辛口なので、大真面目に作ったのですけど、辛いのに慣れていない人は絶対お腹をくだすだろなと思いました」とおっしゃっていました。どのシーンが一番辛口ですか?

白石監督:今回、ベッキーや的場(浩司)さん、小松の親分(小松政夫)、過去パートに出ている人にタイムスリップした先にも出てもらって、一人二役演じてもらっているんです。哲が最後の戦いに行くシーンがあるんですけど、雀荘のママ以外のベッキーのもう一役というのがAIなんです。その登場シーンが、辛口というか、ショッキングなところがあります。

「最初は絶対に断ろうと思った」白石監督が本作を手がけた理由

拡大する

ーー最初、監督のオファーが来たとき、戸惑いがあったと伺いました。

白石監督:絶対に断ろうと思いました。和田誠版の『麻雀放浪記』が傑作すぎて、どんなことやってもあれに勝てる映画は作れないし、作る意味がない。最初、「麻雀打てますか?」って聞かれて「打てます」と答えたら「会いたいです」と言われて、何か麻雀の企画なのかなと思って会いに行ったら、普通に「麻雀放浪記」が出てきたので、馬鹿なんだなと思いました(笑)。だめでしょ作っちゃって。

ーー(笑)でも、オファーした側も想定外の話ができていって驚いたんじゃないですか。

白石監督:ずっと断ろうと思っていたら、逆にプロデューサーから「タイムスリップするってどう?」って言われたんです。ますます「頭悪いな」って思ったんですけど(笑)。でもブレストしていったら、昭和のゴリゴリの男が現代に来て、現代社会でうまく生きられなくて……といろんな要素が見えてくると、もしかすると描くべきものがあるのかもしれないと思ったんです。

拡大する

ーー白石監督は以前、松坂桃李さんに対して「僕はイケメンが嫌いだけど、松坂くんはイケメンというだけではなく、人生をかけて俳優をやっている感じがする」というようなことをおっしゃっていましたね。今回、主演の斎藤工さんもかなりのイケメンですが、いかがでしたか?

白石監督:本人はイケメンだと思っていない。最初はどうなんだろうと思ったんですけど、会うと「そういう風に言われていますけど、まあ……いいんですけどね」感がありました(笑)。映画の中でふんどし姿になっているんですけど、その体のつくりというか佇まいが、かっこいいんですけど“大和男児”って感じで、イケメンというよりも男前な感じがしました。昭和臭がありました。

白石作品に滲み出てしまう昭和感…iPhone撮影にした理由

拡大する

ーー今回、iPhoneで撮影されたとのことですが、何かきっかけはあったのでしょうか?

白石監督:僕の悩みでもあったんですけど、どんなにPOPなシーンにしようと思っても、カメラマンもその都度変えてみてあの手この手をやってみても、なぜか昭和感が出るんです。

ーー(笑)

白石監督:平成ゴリゴリの『チワワちゃん』(二宮健監督)みたいなPOPな映像を撮ろうとしても、「お前の映画ってなんか昭和感あるんだよな~」って(笑)。あと、狙っているわけじゃないんですけど、画に不気味さというか妙な緊張感が生まれてしまう。これ、スタッフとよく話すんですけど謎の特性なんです。自己分析できてない(笑)。

今回はコメディなんですけど、普通の映画のカメラで撮っちゃうと、題材も思い切り昭和の話だったりするので、妙な食い合わせになってしまうんじゃないかなと思いました。それを少しでも緩和、コメディ寄りにするためにiPhoneで撮影させていただきました。

拡大する

ーー白石監督の「フルーツ宅配便」も1話を見たときは、重くて。だんだんコメディだなって思うようになったんですけど、それは出ちゃってるんでしょうか?

白石監督:(笑)だだ漏れちゃってるんだと思います。沖田修一回になるとコメディ感が強まったでしょう

ーーファンとしてはみなぎる緊張感もいいんですけど……。

白石監督:その緊張感というのも何度か見て見慣れてくると、コメディ、滑稽な感じと変わってくる。多分自分はそういう人なんです。狙っているわけではないんですけど。

ーー実際にiPhoneで撮影されたら、昭和感は軽減されました?

白石監督:多分ちょっとなくなっていると思います。

フイルム時代からそうなんですけど、大きい重いカメラで撮ると、重い画になるんです。大きいカメラだと、それを設置するためにいろいろどけたりセッティングしなければいけない。その苦労が画に出るんです。iPhoneだとそういう苦労もない。向こうから「それ(iPhone)俺に渡して~」って撮るみたいな。なんなら「斎藤くん撮って」みたいな。

ーーでは映画の中で、斎藤さんや演者が撮ったシーンが使われていたり?

白石監督:あるんです。それが多分この映画に必要だったんだなと。斎藤さん、上手でしたよ。

ーー思わぬ不便さやアクシンデントはありましたか?

白石監督:人が持っている分にはいいんですけど、固定するのに時間がかかったりしました。あと、ずっと撮っていると指が乾燥して、録画ボタンを押してると思っていたら押せてなくて「すみません!」とか。ヒューマンあるあるですね(笑)。

現代と戦後、幸せなのはどちらか 鑑賞後にピリリと残る後味

拡大する

ーー白石監督は以前、権力側からものを見ない、弱いもの、市井の人からの目線を大事にしているとおっしゃっていましたね。今回はどのような目線で作ったのでしょうか。

白石監督:今回はそんなに重くは考えていないんです。オリンピックがどうだとか、そういうことが一人歩きして話題になっているんですけど、普通に娯楽作品として作ったので単純に楽しんでもらいたいです。ただ、見終わったあとに少しだけ現代社会ってどうなの?と感じていただけるかもしれません。現代と昭和の戦後、どっちが本当に幸せなんですか?というのは多少あるかもしれないです。それは受け取り手の自由です。

ーーますます観たくなりました!公開を楽しみにしています!

拡大する
拡大する

ストーリー

 主人公・坊や哲がいるのは、2020年の“未来”。なぜ?人口は減少し、労働 はAI(人口知能)に取って代わられ、街には失業者と老人があふれている…。そしてそこは“東京オリンピック”が中止となった未来だった…嘘か?真か!?1945年の“戦後”からやってきたという坊や哲が見る、驚愕の世界。その時、思わぬ状況で立ちはだかるゲーム“麻雀”での死闘とは!?

テキスト:堤茜子

写真:You Ishii

(C)2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

麻雀チャンネル | 無料のインターネットテレビは【AbemaTV(アベマTV)】
麻雀チャンネル | 無料のインターネットテレビは【AbemaTV(アベマTV)】
AbemaTVの麻雀チャンネルで現在放送中の番組が無料で視聴できます。
この記事の写真をみる(10枚)