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 俳優・渡邊圭祐の振り幅がすごい。今年1月期のドラマ「直ちゃんは小学三年生」(テレビ東京系)ではまさかの小学生役に挑戦。仲間たちの前では「死んだらただの肉の塊」と大人ぶった発言をするも、ペットのハムスター・ステファニーが亡くなると顔色は一変。「ステファニー、天国に行けたかな」と涙ながらに追悼する心優しく純粋な小三男児・きんべを演じた。そんな姿で多くの大人の胸を温めてから1ヶ月、渡邊が次に見せたのは不気味な高校生の横顔だった。

 映画『ブレイブ -群青戦記-』が3月12日より公開される。今度の渡邊は、天下泰平など糞食らえ!と言わんばかりに戦国の世を攪乱、歴史操作を目論む高校生・不破瑠衣を演じる。自らも「きんべの10年後があんな感じになっちゃって…我ながら今年は役の振り幅がすごい」と驚くキャラクターの差だが、不敵な笑みを浮かべるその男に渡邊はどのように挑んだのか。

新人俳優ながらの大抜擢 本広克行監督が熱望した渡邊のキャスティング

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 原作は、「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で連載された笠原真樹の人気漫画。スポーツ名門校で活躍していた高校生たちが、「桶狭間の戦い」の直前の日本に、学校まるごとタイムスリップ。“部活で培った身体能力”と“未来を知る現代人の知識”を活かして、生き残るための戦いに挑むという物語だ。この中で渡邊は、歴史を変え現代の世界を変えることを望み、主人公の西野蒼(新田真剣佑)らと敵対する高校生・不破瑠衣を演じている。

 2018年、「仮面ライダージオウ」のウォズ役で役者デビューを果たした渡邊。『ブレイブ』が撮影されたのは実はその直後だ。新人俳優ながらに物語のキーマンとなる不破役を得たことに、自身も「僕がこの役やっていいんですか?」と驚き。「台本にもたくさん名前がありましたし、最後まで出てくるので嬉しかったです。気合が入りました。“若手俳優の登竜門”と呼ばれる『仮面ライダー』という作品でデビューさせていただいて、その次の作品はすごく大事だと思っていたので、このお話をいただいて、「恋はつづくよどこまでも」(TBS系)と同時期に撮影して、もう十二分!これほど僕が求めていたものはないのではないかと湧き立ちました」と、当時の心境を振り返った。

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 渡邊を不破にと推したのは、誰であろう本広克行監督だった。元々、本広監督の兄弟が経営するうどん屋でバイトしていたという渡邊。そのことで興味を持ったのか、預言者・ウォズのミステリアスな演技を見てか、本広克行監督は渡邊を猛プッシュ。

「終わってから聞いたのですが、このお話をいただいたとき、(渡邊のキャリアが浅いことから)周りは止めたらしいんです。『この役はもっとちゃんとできる人で』というように。でも、そこで本広監督は『監督としてキャスティングしたい俳優がいるのに、これをはめられないなら監督を降りる!』みたいな話をしてくださったらしいんです」

不気味な殺陣のシーンは「僕元来の動きだと思います(笑)」

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 そんな本広監督の期待に応え、不安視していた声を跳ね除けるように、堂々とした佇まいで演じ切った渡邊。不破という男については「あらゆることに不信感を抱き、くだらないと上から見ている。戦国でも現代でも浮いた存在」と分析。キャラクターの持つ不気味な引っ掛かりは、面頬や甲冑、羽織など、こだわり抜かれた衣裳によって作られた部分も大きいと語るが、間の取り方やセリフ回しで、彼の極端な人間性を表現したという。

「不破が思っていることは特別なものではなく、社会で生きていたら誰もが感じるであろう不条理や不満だったりするのに、彼はそこに対してストレートに答えを出しすぎている。蒼たちに対峙したときに、いかに彼らの思いを踏みにじって、気を逆撫でるかということは意識しました。そこを目指してとことん悪になろうと思いました」

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 中でも、じりじりとにじみ寄る槍を使った殺陣は奇怪で不気味そのものだ。それを伝えると「あれは多分なんですけど、僕元来の動きだと思います…じわーっと歩み寄っていくとかイメージを持って一歩一歩歩こうとすると、ああなるんだと思います(笑)」とまさかの告白。

「普段歩いているときは普通に見えるんですけど、ゆっくり何かこうビビらせようかと圧をかけようとすると、自然とあの動きになるんだと思います(笑)。だから『ここで首を動かしてやろう』『指先をどうの』とかは考えていませんでした」

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 撮影は概ね順調に進んだそうだが、不破が校舎から飛び降りタイムスリップする序盤のシーンでは何度もリテイクを重ねた。

「屋上から飛び降りるシーンは苦労しました。飛ぶところからは合成なんですけど、その直前までは全力で走って、縁(へり)でブレーキをかけなければいけない。しかもその日は雨が降っていて、靴はローファーで、下も濡れていて、めちゃくちゃ滑りました。ドローンでも撮影をしていたので、その映像用にもタイミング合わせなければいけないし、何か引っ掛かりのあるシーンにしたいと思っていたので、屋上の入り口や時計を見てみたりと、自分でも考えてテイクを重ねました」

 さらに、慣れない乗馬シーンでは馬に遊ばれるというハプニングも。

「だいぶ乗れるようになったつもりだったんですけど、いざ本番になると、僕も周りも甲冑を着て武器を持っている。そうするとカチャカチャ音がするし、キャストの声も聞こえるしで、馬が反応しちゃうんです。なので僕が結構馬に遊ばれる時間というのがありました(笑)。すごく上手に撮影・編集してもらえたなと、映像を見て思いました。裏ではだいぶ遊ばれています。面頬をつけているので気づかれていませんが、あのとき僕は多分ニヤニヤしていたと思います(笑)」

後輩に恐れられた“暴君”な学生時代 現在は「優しさのみ」

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 今回、渡邊は甲冑や学ランといった衣装にも初挑戦。モデル出身ということもあり「洋服を着こなすことに無駄に自信があった」そうだ。面頬をつけた横顔の場面カットは、映画公開前からファンや関係者からも大好評。しかし、学ラン姿を見た本広監督は「似合わないな」とポツリ。ショックを受けた渡邊は、自分のせいではないと言わんばかりに「でも、あれだけ髪を伸ばして校則違反してるのに、上までしっかりボタンを止めて着ている人はいないと思うんですよね。もっと開けた方がいいんじゃないかな…あんな着方だと危ない人みたい(笑)」と不破の着こなしにダメ出しする。

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 自身の学生時代について尋ねると、「活発な男の子でした。行事ごとにも部活にも全力で取り組んでいました。バスケ部に入っていたのですが、中高と部長をやっていました」と回答。さぞかしリーダーシップのある人気者の先輩だったのだろう、そう頷くと「いえいえ、ただの暴君ですよ(笑)」とにやり。

「後輩に異常に怖がられていました。指導が厳しかったんだと思います。引退のときに寄せ書き入りのバスケットボールをくれたんですけど、ほとんどの後輩が『プレイ(バスケ)はもちろんですけど、オンとオフの切り替えがものすごい』と書いていました。『練習中めちゃくちゃ厳しいのに、終わると気さくに話しかけてくる。そこがすごいと思っていました』と」

 切り替えが上手く普段は親しみやすいというのであれば、理想の部長といえるのではないのかと思われるが、差がありすぎて普段の優しさも逆効果だったとのこと。

「これだけ聞くと、いい先輩っぽいんですけど、オンのときが怖過ぎたんでしょうね。歩いていたら、他の部活の後輩からも挨拶されていました。多分一年生の間で回っちゃったんでしょう、『あの人怖いから』って(笑)。大学に入ってからも言われました。バスケ部時代の元後輩の双子の片割れと大学で話す機会があって、『僕の双子が後輩だったんですけど、めちゃくちゃ怖いって聞いていました』って。大学に入っても言われるんだと思いました(笑)」

 インタビューの受け答えや会見イベントで軽快にトークする姿からはかけ離れたイメージ。大人になった現在はオンオフの差がなくなったようで「今はオフの優しさのみ。オンすらオフなので、直さなきゃなと思っているところです(笑)」と冗談めかす。

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 しかし、最後には真面目な表情で、同作の見所を「終盤にかけてどんどん儚くて切ないのですが、温かい物語です。新田真剣佑さんが演じた蒼という役は、すごく僕らに近い感覚を持った男の子なので、その姿を見て背中を押される方もいるはず。目の前のことに全力でぶつかっていくことの大切さ、生き方を学べる映画になっています」としっかりPR。オンすらオフモードと言いつつも、その仕事に全く抜かりはない。芝居でもトークでも、俳優・渡邊圭祐の振り幅を今後も味わっていきたい。

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写真:You Ishii

テキスト:堤茜子

(c)2021「ブレイブ -群青戦記-」製作委員会 (c)笠原真樹/集英社

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