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 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズの最新作にして完結編となる『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が3月8日から公開された。新型コロナウイルス感染拡大の情勢を鑑み、公開は2度延期。待望の劇場公開ということで、初日から多くのファンが集大成となる本作を堪能、その結末を見届けた。テレビシリーズ『新世紀エヴァンゲリオン』から数えて25年半に渡り、主人公・碇シンジ役を務めてきた声優・緒方恵美は「何かを達成したとか、何がなくなったというのとも少し異なり、今は淡々とした気持ちです」と、公開から1週間経った際の心境を明かした。さらに作品への思いについては「この先はみなさまの中にある『エヴァンゲリオン』が全て。みなさま次第です」とも語った。まさに世紀をまたいだ作品の行く先は、ファン一人一人に託された。

【動画】ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

 3月8日。全国公開の初回となる午前7時の回が終わる10時過ぎから、緒方のもとには次々とアニメ業界関係者からメッセージが届き始めた。

 緒方恵美(以下、緒方) 「アニメーターの方やクリエイターの方から、LINEで『観た』というメッセージをたくさんいただいて。ただ、みなさん『観た』としか言ってくれないので反響、反応はよくわからないというのが本当のところです。何回か観たら話したい!と直接的な表現をしてくださる方もいるのですが(笑)。でも、なんとなくですが、みなさん喜んでくださっていると思っています。」

 公開初日が月曜日という異例のスタートの中、興行収入は初日だけで8億円超、観客動員53万人超を記録。初めての週末を含めた公開から7日間では興行収入33億円超え、観客動員219万人を突破。ネット上では、1週目から2回目、3回目と映画館に足を運んだファンも多く見られ、どれだけ待望の作品だったかがうかがえる。

  『新劇場版』シリーズの3作目、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の公開から約8年半。ラストの作品を待ちわびるファンの作品の架け橋の一つになったのはスタジオカラーや緒方のTwitterからの発信。「自分の中ではそういう役割を意識していたわけではないのですが、何かやることがあった時には投稿をさせて頂いていました」と語るが、完結編を楽しみにしているファンたちにとっては重要な情報源だったことは間違いない。

 緒方 「是非投稿してくださいとスタジオカラーさんにも言っていただいていたので。最初に打ち合わせをした時も、それをつぶやいてほしいと言っていただきました。」

 ただし、演じている本人たちでも、いつ完成を迎えるのかわからなかった。それは作品に全キャストのうち最後まで声を入れ続けた緒方でも変わらない。

 緒方 「いつリテイクが来るか油断のならない作品なので、収録が終わったと言ってもその後に何か変更となる可能性はありました。だから安心して気を抜くこともなかったです。初号試写があると聞いて『これで一区切りかな』と思いました。」

 初めて見る完成形。新型コロナの影響で2度も延期になった本作だが、試写でも影響は出ていた。新型コロナウイルス感染防止の観点から、試写会には人数制限が設けられ、キャストについては各回1人だけというルールも設けられた。

 キャスト1人で過ごした時間は、試写だけではない。収録も同じだった。作品の制作工程スケジュールが他の作品とは異なるため、キャスト複数人による収録ではなく「別録り」で行われたパートも多い。そして、新型コロナウイルス感染拡大が起きてからは、「別録り」が余儀なくされることとなった。

 緒方 「時間をかけて、ちょっとずつ録っていました。飛び飛びで録っていたので、無事に終わってよかったです。ほとんど1人で録っていたので、他の方と一緒に収録を行ったシーンはほとんどないです。」

 芝居は掛け合いがあってこそのもの。それができない。プロフェッショナルゆえに、それでも最高のパフォーマンスを心掛けるが、隣にいるキャストの声だけでなく、息遣い、体温、気配までを感じてこそ、という思いもあっただけに、これまでの関連作品とは違う難易度もあった。

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 緒方 「お芝居というものは、人と掛け合って初めて生まれるものなので、単独でやっていいものなんて、たぶん一つもないんですよね。でも、それができなかった。(収録の)最初のころは違ったんですが、みなさんが収録をした後に自分が答えていくというパターンが主になりました。収録も『エヴァ』はアフレコというよりも、セミプレスコで録ることが多かったです。前までは原画もあったので『こういう表情で』というのもわかったんですが、今回はそれもあまりない状態で。なので、ただひたすら、その時点での、シンジとしてそこに立ち、想像の翼を伸ばして、他のキャラクターに言われることを彼として返し続けていく作業に終始しました。」

 収録開始から公開に至るまで、いくつもの苦難を乗り越えて、無事に公開された『シン・エヴァンゲリオン劇場版』。テレビシリーズから数えて25年半の集大成でもあり、胸中にあるものを語り尽くせばきりがなく、どのシーンやセリフにも思い入れがある。ただし、これと一つ決めることはしない。公開された作品は、既にファンのものだからだ。

 緒方 「『エヴァンゲリオン』という作品に限らず、全ての作品はお客様にお渡ししたら、もうその先はお客様の中にある世界。我々がどう思った、こう受け取ってほしいと言うことは、とても傲慢なことだと。長い作品でもありますから、みなさまの中にも百人百様の『エヴァンゲリオン』が在る。それでいいのでは。それぞれの方の中にあるものが、一つの終着点としてよいものであることを祈りつつ、楽しんでいただければと思います。」

 1995年10月のテレビシリーズ『新世紀エヴァンゲリオン』放送から25年半。庵野秀明監督をはじめとするスタッフ、緒方らキャストはもちろん、ファンたちも同じだけ年月を過ごした。テレビシリーズ放送当時、シンジの思いに共感した同世代の少年たちも、今では大人になっている。また『新劇場版』シリーズから『エヴァ』に触れた次世代ファンにとっては、また違ったものに見えているかもしれない。

 緒方 「この作品は心に置く位置が、人によって違うと思うんです。ただでさえ違うところに年代が経っているので、もともとはシンジの気持ちで観ていた人が、今はゲンドウの気持ちに近いとか、逆に話題になっているからと、最近触れてくれた現役の小学生・中学生のリアルシンジ世代の方もいる。これが大事とか、こういう風に観てほしいというのもなく、みなさんの中で重要と思うシーンが、心に引っかかるシーンが全て。みなさまそれぞれの琴線に触れた部分を大事にしていただければと思いますし、少し年月が経った時には、また違ったところに反応していただける。そういうポテンシャルを持った作品だと思います。楽しんでください。」

 緒方が言うように、作品は見る人の思いによっていかようにでも変化する。人それぞれの「終着点」が異なり続ける限り、作品の進化はいつまでも終わらない。

◆「エヴァンゲリオン」シリーズ作品

 1995年にテレビシリーズ『新世紀エヴァンゲリオン』がスタート。汎用人型決戦兵器・人造人間「エヴァンゲリオン」と、そのパイロットとなる14歳の少年少女、謎の敵生命体「使徒」との闘いを中心に描かれると、その斬新な設定やストーリーから全26話放送後にも社会現象になるほど注目された。1997年には、テレビシリーズとは異なる結末を描いた『劇場版』が公開に。それから10年後、設定・ストーリーをベースに再構築した『新劇場版』シリーズの公開がスタート。2007年に第1作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』、2009年に第2作『:破』、2012年に第3作『:Q』、そして2021年に最新作にして完結編の第4作『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開された。

(C)カラー

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破
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ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q
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