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 客として乗車した女優の菊池桃子さんに好意を募らせ、自宅のインターホンを押すなどのストーカー行為をしたとして、今月20日、56歳の元タクシー運転手の男が略式起訴された。男は罰金30万円を命じられ、即日納付している。5日に特殊詐欺の撲滅を呼びかけるイベントで一日警察署長を務めた菊池さんは「この怖さが逮捕されたからここで終わったということではなくて、今後のことがまた不安」とコメントしている。

 警察庁によると、2017年に寄せられたストーカーの相談件数は2万3079件と2年連続で増加し、過去最悪を更新している。また近年はSNSやアプリ、スマホなどの存在がストーカー被害をより深刻にしているともいわれている。

 20日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、加害者の視点で課題を浮き彫りにした。

■警察関係者の認識が甘すぎる

 「妻と娘が戻ってくるという部分が完全に捨てきれなかったので、なんとかして自分を許してもらおうということでストーキング行為が始まった」。

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 匿名を条件に取材に応じた田中さん(仮名)は、"もう2度と家には戻らない"というメールを何通も受け取ったが、"半分冗談だろう"、"いつか戻ってきてくれるだろう"、そんな思いが捨てきれず、「妻の実家にFAX、電話、手紙を送る」「夫人の所在を突き止めるため義姉妹につきまとう」「娘の学校や塾周辺をうろつく」などの行為に及んでいった。

 「元妻が私を懲らしめているのではという憎しみの感情もあった。この2つがストーカー行為をやめられなかった理由になると思う」。

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 自らも元ストーカーで、現在は「ストーカー・リカバリー・サポート」代表として加害者の回復支援に取り組んでいる守屋秀勝氏は、「最初は好きでとにかく戻ってきてほしい、という愛情だけ。しかしそれが叶わないとなると、"俺がここまでしているのに、なんで俺の気持ちがわからないんだ、ふざけるな"という憎しみに変わる。ここが怖いところだ」と指摘する。

 実際、静岡県警が加害者の心理についてアンケート調査(複数回答)を行なったところ、「元の関係に戻りたい」が41.3%、「自分を理解してほしい」が30.8%、「憎しみや怒りがある」が26.9%だった。

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 「ある意味で対人関係が下手とも言える。これ以上やったら相手は嫌がるかもしれないというのは把握できている。しかし、やめられない。もっともっとかまってと。極端な話、"お前なんか2度と来るな"と言われることが"ご褒美"になってしまう。最終的には警察が入るが、それでも自分の手中におさめようとした人によって、凶悪事件が発生している。平野ストーカー殺人事件や逗子ストーカー殺人事件もその一つだ」(守屋氏)。

 その上で守屋氏は「いくらストーカー規制法を厳罰化しても、被害者を守ることはできない」と断言する。

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 「警察関係の方に言いたいのは、禁止命令を出せば収まるだろうというのは認識が甘すぎる。菊池桃子さんの事件の加害者は初犯だが、それでも執行猶予と保護観察をつけてもおかしくない。一旦ストーカーになってしまうと、自分の感情をコントロールできなくなるので、3~4割くらいは何らかの行動を起こしてしまう。第三者が寄り添い、更生支援をしていく必要がある。被害者を守るためにも、加害者が回復することが絶対的に必要だ。私が訴えているのは、まず口頭警告以上を受けた加害者に関しては、治療の義務化と、違反の場合は逮捕もあり得るということ。アメリカでは性犯罪者に対してGPSの装着を義務付けている。加害者の人権も大事だが、被害者の命を守ることが優先だと思う。加えて、加害者が24時間相談できる窓口を各都道府県に2か所ずつくらい儲ける必要もある」。

 ストーカーの再発率は11.0%で、単身者の場合は14.8%になる。一方、2016年から行われている警察庁の追跡調査によれば、回復治療を終えた加害者はつきまとい行為がおさまり、再発もなかったという。しかし現状では加害者522人に受診を勧めたところ7割が拒否。受診に至ったのは全体の20%ほどにとどまっている。

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 「ストーカーは非物質依存という依存症と言ってよく、治療が必要だ。しかし行政側はどうしても被害者の方に目がいく。また、今の日本の精神医療では確実に自信を持ってストーカーなどの依存症を治せるという医療機関は皆無に等しいと思っている。これが現状」(守屋氏)。

■ストーカー行為をやらない1日を積み重ねること

 ストーカー加害者の更生プログラムを実施するNPO法人 女性・人権支援センター「ステップ」の栗原加代美理事長も、「加害者を更生しない限り、ストーカー問題の解決には至らないと思う」と話す。

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 これまで「ステップ」では、家庭内暴力、DVの加害者を対象にしたプログラムを実施していたが、これがストーカー加害者に対しても一定の効果がみられるという。「特徴はグループワーク。1クラス10名前後のストーカー・DV加害者が一緒に行う。自分の悩みに対していろんな意見を聞ける。考えの選択肢が広がる」。

 加害者同士が自身の行為を告白し、互いに意見を出し合って、偏った価値観や考え方を変えるきっかけを作っていく。しかし期間が1年間と長期にわたるため、更生を望む強い気持ちと根気が求められる。そのため、自主的に参加する加害者はまだまだ少ないのが現状だ。

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 先述の田中さんも、「ステップ」で1年間の更生プログラムを受講した。自身で病気だと認識できてきたのは、参加して5回目以降のことだったという。「現実を受け止めるのは難しかった。適応障害ということで4年以上も心療内科に通ってはいたが、医師や周りからストーカー行為についての指摘は一切なかったので、自分がストーカーであるという認識もなかった」(田中さん)。

 その上で「まずは過去の自分の過ちを認めてそれを自己受容していく。最終的には相手の感情の背景を想像する。その延長で相手は私以上に苦しんだ、悲しかったんだ、そういう風に想像を尽くしたところで、相手に思いやりを持てるようになった。そのことがストーカーから回復できた要因だったと思う」と振り返った。

 守屋氏は「相手を尊敬し、信頼して相手に共感する。要するに相手の目で見て、耳で聞いて、相手の心で感じろと心理学者のアドラーは言っている。これをできなければストーカーから解放はできない。相手の立場になって考え、ストーカー行為をやらない1日を積み重ねること。そして、今日は一日、よくできたなと自分を褒めてあげる。この繰り返しがやがてストーカーから脱却することに繋がると思う」と語った。

 ストーカー加害者への視線と対応を、社会全体で見直すべき時期に来ているといえそうだ。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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