香港住民300万人に英国市民権を付与したら「ゲームが大きく変わる可能性」 国家安全法を米英が批判
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 先月28日、中国の全人代で可決された、香港の取り締まりを強化する「国家安全法」。中国政府が国家の安全を脅かす行為とみなせば、香港でのデモや抗議集会を取り締まることが可能になる。

【映像】デモ参加者を拘束する香港警官

 この国家安全法をめぐり、香港では抗議のデモが続いている。アメリカのトランプ大統領は、中国政府の決定を「一国二制度を一国一制度に変えた。香港の自治は失われた」と厳しく批判。さらに、香港に認めてきた貿易や渡航における優遇措置の撤廃を指示したことを明らかにした。この優遇措置にはビザの発給や、カーボンファイバーなど軍事利用可能な物資の輸出などが含まれている。

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 これに対し、中国は猛反発。「アメリカの指導者による中国への批判は、完全に事実を顧みず、これらの措置は中国の内政問題に著しく干渉し米中関係を損なった。中国は断固反対する」としている。その上で、「中国の利益を損なう言動は断固たる反対を招く」と対抗措置を示唆したほか、「中国の発展を阻止するアメリカの企みは成功しない」と牽制している。

 米中関係の対立が激しさを増す中、イギリスのジョンソン首相は国家安全法について1984年の中英共同宣言に矛盾していると指摘。「イギリスが香港市民を見捨てることはない」と述べ、英国海外市民パスポートを持つ香港の住民に対し、イギリスの市民権を与えイギリスでの定住を認める方針を改めて表明したとロイター通信は報じた。現在、香港住民の約35万人が英国海外市民パスポートを保持しているが、さらに250万人に申請資格の付与を検討しているという。

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 各国が様々な措置を打ち出す中、香港政府のトップ・林鄭月娥行政長官は3日、北京で中国共産党最高指導部で香港政策を担当する韓正副首相らと会談。反政府デモを取り締まる香港警察のトップも参加したとみられている。3時間に及んだ会談では、韓正副首相が「香港の人々の権利に影響しない」とし、林鄭長官は「中国政府の方針に全面協力する」と支持を表明した。

 一方で、香港の民主活動家の黄之鋒さんと周庭さんらはオンラインで会見し、国家安全法制について、一国二制度に対する妨害であり、香港市民の自由と政治的権利をはく奪するものだと強く反発した。また、今日で31年目となる天安門事件の追悼集会が新型コロナウイルスを理由に禁止されたことについて、感染予防という口実を使った民主化運動の抑圧だと訴えている。香港ではこれに対抗し、集まる限度として認められている8人までのグループを作り、天安門事件を追悼する計画も立てられている。

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 香港をめぐる情勢について、政治学者で東京都立大学法学部准教授の佐藤信氏は「ジョンソン首相の『300万人の市民権取得に道を開く』という発言が極めて重要だ」との見方を示す。

 「香港は1997年にイギリスから中国に返還され、両国の取り決めで50年間は一国二制度だが、2047年には完全に中国の一部になる。香港の民主派のリーダーたちもそれをわかっているので、以前のデモで出した“5条件”が通らないと実感したころから、外国政府に対してアピールするようになった。特にイギリスに対しては、元々イギリス市民だった人たちが守られないのはどういうことだと、市民権付与を求めるなど圧力をかけてきた。それに応えて、イギリス政府も踏み切ったということ」

 香港の人口は約740万人で、300万人はその4割にあたる。実際に市民権が付与されるとしたら、どれだけの人が動くのか。

 「もちろん香港にいる全ての人がイギリスに行きたいと思うわけではないので、事実上は希望するほとんどの人に道が開かれる計算になる。イギリス以外にも、台湾など受け入れる可能性があり、これからもイギリスに続く動きがあると、香港の中で民主や自由を求める人たちが難民のように他の国に逃れるという、これまで考えられなかった出口が見えてきたのかもしれない」

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 中国政府から逃れられる未来が見えてきたことで、今後“ゲーム”が大きく変わる可能性が出てきたと佐藤氏は話す。

 「ヨーロッパからの移民さえ嫌ってブレグジットをしており、受け入れの詳細はまだよくわからない。だが、イギリス政府が本格的にこの方針でいくとなれば、中国のビジョンは大きく変更せざるをえない。一方では香港の若年層や知識人層が中国政府に反発しているので、こういう人たちの流出を嫌って圧力を緩める可能性はありうる。他方、反発する人たちが海外に出ていくなら強行に進めてもいいと強硬策を急ぐ可能性もあり、どちらに出るかは今のところはわからない。いずれにせよ、新しいオプションが生じたことで“ゲーム”のルールが変わった。中国ももう一度情勢判断をし、判断することになるし、日本を含めた海外の国も対中関係を犠牲にしてまで市民権付与を検討するかなど、香港問題への対応を考え直さなければならない」

ABEMA/『けやきヒルズ』より)

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