現役最多となる三冠保持者として活躍中の藤井聡太三冠(王位、叡王、棋聖、19)。10月から始まる竜王戦七番勝負では、豊島将之竜王(31)に挑戦し、最年少での四冠達成を目指す。この藤井三冠の活躍を支えているものの一つが将棋ソフト(AI)での研究だが、今やこの将棋ソフトに関する知識も、将棋界ではトップクラスになっているというから驚きだ。
【動画】「将棋日本シリーズ」JTプロ公式戦 藤井聡太三冠VS千田翔太七段
「今、ソフトのことを、特にディープラーニング(DL)系のものについては、藤井さんに聞いた方が詳しいですよ」。そう語ったのは、将棋界でもAI研究を早くから取り入れたことで知られる千田翔太七段(27)だ。この1、2年の間に、急速に入り始めたと言われるのが、ディープラーニング系のソフト。従来のものとは違う評価を下すことで、棋士たちから注目されることも増えてきた。この最新ソフトに藤井三冠が詳しいと聞けば、鬼に金棒という感想を持つ人も少なくないだろう。
実際、藤井三冠はどのような研究をしているのか。従来のソフトとDL系の違いについて問われると「難しいですね」と苦笑い。ただ少し時間をかけてから「評価値、読み筋に結構違いが出ますね。特にDL系だと序盤の細かな違いが評価値にしっかり表れることが多いので、そのあたりを特に参考にして見ています」と、少しずつ説明し始めた。
お~いお茶杯王位戦七番勝負、叡王戦五番勝負と、いずれも豊島竜王と戦ったが、その際にも序盤の攻防は注目され、また対局後の感想でも、藤井三冠はこの序盤について課題だと語ることも多かった。課題と思うからこそ、今までのソフトとは異なる提案をしてくるDL系について、強い興味を持つのかもしれない。
それでも新たに出てきたDL系を全面的に支持しているわけでもない。「局面による、という感じですね。終盤の詰む、詰まないはNNUE系の方が正確な場合が多いですし、局面を進めると評価値が変わってくることも多いです。どちらかを一方的に信じるというわけではないので、そのあたりを見ながら判断しています」と、2つのソフトの意見をそれぞれ見聞きしながら、最終的にどちらを取り込むかを決めている。長所と長所をうまく融合できているなら、強い棋士が育つというのもうなずける。
タイトル戦で各地を飛び回り、自宅でゆっくりする機会も少ない中、日々の研究はどうしているのか。「移動先でも、自宅のパソコンの電源がついていれば使えるような状態にはしていますので、時間がある時はそれを使っています。スマホから操作するので、使いづらいんですが(苦笑)。電源だけは(外出先から)自力でつけられないので、家族に協力してもらいます」。新型コロナウイルス感染拡大もあり、対局以外では他の棋士と面と向かって話したり、盤を挟んで指したりということは「現状、全くない」という中、手元にあるスマホと自宅のパソコンとのつながりが、日々の成長を支えている。
史上最年少での三冠などで、日本中の将棋ファンを沸かせた藤井三冠だが、この秋も竜王戦七番勝負、王将戦の挑戦者決定リーグなど、タイトルに絡む戦いがいくつもある。激しい夏の戦いで「得られたものはもちろんあります。それを活かせるように、成長につなげられるようにしていきたいです。課題が見つかることはいいことです」と、またヒントを得た。将棋ソフトを活用して、課題を克服する研究がうまく進むほど、令和の天才棋士はもっとスケールの大きい棋士になる。
(ABEMA/将棋チャンネルより)