「将来もらえなくなる」「貯金していた方がマシ」は誤り? “振込通知書の誤送付”で再び注目の年金、基礎知識を学ぶ
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 年金受給者のうち約97万人に送られた10月分の「年金振込通知書」について日本年金機構は6日、記載されていた年金額や基礎年金番号、年金コードなどが別の受給者のものだったことを公表。就任早々の後藤茂之厚生労働大臣は国民にお詫び、野党は合同ヒアリングを開き、厚労省など担当省庁に原因や影響について質した。

「将来もらえなくなる」「貯金していた方がマシ」は誤り? “振込通知書の誤送付”で再び注目の年金、基礎知識を学ぶ

 国民年金をめぐっては、少子高齢化に伴う現役世代の負担増加についての不安な声があがる中、2007年に発覚した、納付記録などのデータ紛失“消えた年金問題”など、ネガティブな話題も後を絶たない。将来、本当に年金をもらえるの?そんな疑問を抱く若い世代も多いのではないだろうか。

 こうした現状に対し「昔の知識のまま“年金はもらえないよね”と煽る人たちがいるので、若い人たちが“年金なんて払わなくていいじゃん”となっちゃっている部分があると思う。だから正しい知識で上書きしていかなければならない」と訴えるのが書籍やYouTubeを通してお金に関する知識をわかりやすく解説している税理士の大河内薫氏だ。

【映像】大河内氏による解説

■「貯金した方が良い」は間違っている?

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 まず、年金の仕組みとモデルケースについて。国内に住む20歳以上〜60歳未満の人は全員が国民年金に加入することになっており、高齢になった際や病気・ケガにより障害を負った場合、さらに死亡した場合などに「基礎年金」が支給されることになっている。また、会社員や公務員の場合、厚生年金にも同時に加入することになっている。

 例えば20歳から40年間にわたり国民年金の保険料を納付する自営業者の場合、月々の支払い額が1万6610円なのに対し受給額は6万5075円、40年にわたり厚生年金に加入、その期間の平均月収が約44万円だった会社員の場合、月々の支払い額が4万260円(勤務先がさらに同額を納付)なのに対し、受給額は15万5000円となる。つまり、保険料を納付せずに貯金したほうがお得だ、という考え方が正しいわけではないのだ。

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 「国民年金はけっこう元が取れる。満額1万6000円くらいを40年間払った場合、10年間以上受け取ればプラスになる計算なので、利回りという観点では、すごくいい仕組みだ。だから世間の“制度としてもうダメ。払わなくていいや”というのは、現実と乖離している意見だと思う。また、口数を増やすことはできないが、付加年金といって、月々400円多く納めることで、2年間ぐらい受け取るとプラスになる制度も用意されている。

 ただし厚生年金の部分に関して言えば、月の支払いが4万円(会社が納めている額も合わせれば8万円)払って、月に15万円もらえるので12、13年で元が取れる計算だが、男性の平均寿命まで生きても元が取れないことになる。自己負担分については元が取れているという意見もあるが、雇う側はその負担分を給与に反映させているはずなので、実際は20年くらい受け取らなければ元は取れないということだ」。

■「2000万円問題」はどうなった?

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 また、受け取りを開始する年齢を繰り上げたり、繰り下げたりすることも可能だ。現行の65歳よりも早く受給を始めた場合、最大で30%減額(5年先行して60歳から受け取りを始める場合)されるが、逆に遅らせて受給を始める場合は最大で42%増額されることになっている(5年が経過した後の70歳から受け取りを始める場合)。ここで問題になるのは、“自分がいつまで生きているのか”だ。

 「放っておけば65歳から支給が始まるが、自分の寿命は長いはずだ、という人は遅らせた方が得になる。ある意味で“賭け”だ。とはいえ、元々の基準が60歳だったのが65歳に後ろ倒しになり、さらに70歳に後ろ倒しになる方向で動き出している。このまま行けば定年も平均寿命は延びていくはずなので、生活資金に余裕のある人は後でもらうことを考えおいた方が良いと思う」。

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 2019年には金融庁が“老後の生活資金は2000万円が必要”だとする報告書を発表、大きな議論を巻き起こした。

 「あれは2017年の総務省の家計調査をベースに、30年間、夫婦のうち片方は専業主婦(夫)で、老後の生活費が月に約25万円かかるという前提で計算して出されたモデルケースだ。今はそういう世帯はあまりないのではないかと思うし、生活費を約20万円で計算すれば“2000万円問題”ではなく“0円問題”になる。また、2020年の調査をベースにすれば、また別の金額が出てくるはずだ。結局、生活費がどのぐらいになるのかは人それぞれだし、それが月5万円であれば月6万5000円の年金だけでも悠々自適の暮らしが遅れることになる。2000万円という数字が独り歩きしてしまったのは良くなかったが、みんなが年金に目を向けるきっかけになったのは良かったと思う」。

■やっぱり将来、制度が破綻する?

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 国民年金の保険料納付率は9年連続で上昇、危機が囁かれている中国の恒大集団にも投資しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の昨年度の運用成績は約37兆8000億円と過去最高の黒字を記録、今年も第1四半期の累積の収益は100兆円を超えている。それでもこのまま少子高齢化が進めば、制度として危うくなるという意見は後を絶たない。

 「高齢者に渡っている老齢年金の財源には大きく3つあり、1つ目が僕たちの払う保険料、2つ目に税金、そしてGPIFによる運用益だ。“このままでは危ないよね”ということで、年金積立金による運用を始めたという背景があるが、僕たちが払ったものを貯めているだけでは20年間で100兆円も増えるということはなかったわけで、ちゃんと運用できているということになるし、これらはまだ年金の支給に使われていないので、まだ大丈夫だ、というのが国の主張だ。

 もちろん、人々が予想以上に長生きをするようになれば、破綻する未来も近づく。極端なことを言えば、日本人の死亡原因の上位3つが全て無くなれば大変なことになるだろう。政府は100年持つと言っているが、そう簡単なものじゃないよねとは思う。それでも簡単に破綻することはないだろうし、僕たちももらうことができるはずだ」。

■iDeCoやNISA、始めるべき?

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 そうした危機感もあってか、近年加入者を増やしているのがiDeCo(個人型確定拠出年金)、そしてNISA(少額投資非課税制度)だ。

 「まさに“2000万円問題”の時、“国としてはこれを用意している”という話になったのがiDeCo、つみたてNISAだった。年金を自分で作っていこうという形で国が推奨している投資なので、税金の面で非常に優遇されている。証券口座を作って登録するだけだし、クレジットカードが使える証券会社もあるので、始めるのは簡単だ。iDeCoは年金でもあるので原則として解約ができないが、つみたてNISAに関しては売却もできるし、パッとやめられる。国としてはこうして年金の足りない部分を補填しようと考えているということだ。

 投資なので当然リスクは伴うが、利回り5%くらいを狙い、手堅いとされる投資信託を毎月積み立てていく。例えば経済の中心である米国の株式市場は過去50年間、どのポイントで買っても15年以上持っていれば全体平均で見て必ず値上がりしている。だから長期勝負で米国株式市場全体の平均を反映した投資信託を買い続けて15年後、20年後どうなるか、といえばおそらく負けないよねというのが多くの投資家の意見だ」。

■「働き方」が年金問題の突破口だ

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 最後に大河内氏は、改めて自分の現状を把握し、将来の生活設計を真剣に考えるよう訴えた。
  
 「まず、自分は国民年金を払っているのか、それともサラリーマンで厚生年金を払っているのかなどは分かるはずだ。『ねんきんネット』を使えば、将来どれぐらい年金をもらえるかも分かる。まずはそうしたことを知っておく。そして、例えば持ち家なら家賃はあまり考えなくていいなとか、家を買うなら家賃はあまり考えなくていいなといった生活設計を考えるべきだ。また、働き方もポイントになってくると思う。今後、定年はあってないようなものになり、国としても70、80歳ぐらいまで働ける環境を整備していきたいと考えているだろう。それが年金問題の突破口になることは間違いない」。(『ABEMA Prime』より)
 

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