2001年9月11日に起きた、アメリカ同時多発テロ。アメリカはテロの再発を恐れ、テロの首謀者であるオサマ・ビン・ラディンにつながる容疑者を次々に連行。アメリカの法律を適用する必要がない、キューバのグアンタナモ収容所に収監した。
【映像】実際の「グアンタナモ収容所」檻の向こうに囚人が見える(1分30秒ごろ〜)
裁判も開かれず、テロに関与したという確かな証拠もないまま長期にわたって拘束される容疑者たち。そこで行われていたのは「拷問と虐待」だった。国際テロ組織アルカイダや旧タリバン政権との関係を無理やり認めさせるため、容疑者たちを追い詰めていくアメリカ軍。騒音を流し続ける、水責めをする、眠らせない……こうした拷問は、ブッシュ政権のラムズフェルド元国防長官が「特殊尋問」として許可を出したものだった。
今月29日公開の映画「モーリタニアン 黒塗りの記録」は、実際にグアンタナモ収容所で容疑者として拷問と虐待を受けたアフリカ北西部のモーリタニア・イスラム共和国出身のモハメドゥ・ウルド・スラヒ氏の手記が原作だ。
今回、ニュース番組「ABEMAヒルズ」では、映画を撮影したケヴィン・マクドナルド監督を独自取材。作品に込められた想いを聞いた。
「この映画は実話であって、すべての場面が事実に基づいています。現実離れしていると思われるシーンも本当に起きています」(ケヴィン・マクドナルド監督、以下同)
アメリカ同時多発テロ事件の首謀者の一人とされ、罪状なしで収容されたモハメドゥ・ウルド・スラヒ氏。マクドナルド監督はモハメドゥ氏が受けた虐待と拷問に「まさに悪夢だ」と述べる。
「彼の体験はショッキングだと思います。本作では、ある国家が“法の支配”に目を向けず、尊重しなくなるとき、何が起きるかを物語っています。『法は脇に置いておけ。連中は悪党だ、法律で守る必要などない』と。それを許してしまうと、待ち受けるのは悪夢です。囚人たちにとって、グアンタナモ収容所はまさに悪夢でした」
モハメドゥ氏は、グアンタナモ収容所で最も過酷な拷問を受けた1人。収容中に、グアンタナモ収容所の経験を記した“手記”を発表した。手記はアメリカ政府の検閲対象となるが、2500カ所の黒塗りが残ったまま、2015年に出版。またたく間にアメリカで大ベストセラーを記録し、その後、世界20か国で刊行された。
モハメドゥ氏は今回の映画をどのように捉えているのだろうか。マクドナルド監督は、モハメドゥ氏に会って話したところ「彼は驚くほどポジティブで愉快な人物だった」と明かす。
「彼(モハメドゥ氏)は自分の体験を知ってほしいと思っていました。彼は、映画によって自身の体験がより広く知れ渡ると考えてくれました。多くの人がこの映画を観て、本を読むだろうと。みんな、彼に対する愛情に突き動かされたのです。彼は作品にとても満足してくれています」
映画の中では、タハール・ラヒム演じるモハメドゥ氏を弁護するため、女優のジョディー・フォスター演じるナンシー・ホランダー弁護士の姿も描かれる。国を相手に立ち上がったナンシー弁護士は、当時「テロの容疑者を弁護するなんて」と誹謗中傷の的になった。
「ナンシー弁護士には『なぜテロリストを弁護するのか』と、アメリカ全土から偏見の目と憎悪が向けられた。実際、モハメドゥ氏は罪を犯していなかったのに。もしナンシー弁護士にアメリカ市民の偏見と憎悪に立ち向かう勇気がなかったら、モハメドゥ氏は今でも収容所にいたでしょう。彼女のように人権を守ろうとする弁護士は英雄だ」
世界各地で今なお続く、テロ行為。マクドナルド監督は、イスラム過激派が「9.11」という惨劇を起こしたことは事実とした上で「イスラム系の人たち自身は我々と何も変わらない」と訴える。
「イスラム過激派が惨劇を起こしたことは紛れもない事実です。その多くが、アフガニスタンを拠点にしていた。アメリカや他の国々がテロの脅威を封じ込もうと、戦争を望んだことは理解できます。ただしイスラム全体の人々を非人間的に扱うべきではなかった。あたかもイスラム教徒のすべてに罪か(テロの)疑いがあって、邪悪だという扱いをした。何年間も悪魔のように扱ってきた存在を、最後は人として扱う過程を描いています。『私たちとは違う、別の人間だ』と扱われた人たちは、実際は同じ人間なのです」
世界に震撼を与えたアメリカ同時多発テロ事件から20年。グアンタナモ収容所は、国際社会や人権団体からの非難が相次ぎ、2009年オバマ政権が閉鎖を表明したが難航。現在も閉鎖実現には至っていない。 (『ABEMAヒルズ』より)
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