23日のABEMA『NewsBAR橋下』に出演した元経産官僚で慶應大学大学院の岸博幸教授と橋下徹氏が、衆院選で各党が訴える経済政策や経済成長の考え方について、厳しく批判した。
■岸氏「成長させないで分配なんて、絶対に無理だ」
岸氏は「経済対策について総論から言うと、ほとんどの党が“分配”を謳っていて、その理屈はこの30年、働く人の収入が増えていない、次第に格差が拡大して大変だから、ということだ。気持ちは分かるが、そもそも経済成長しなかったから収入が増えていないわけで、本来であれば経済を成長させた上で、同時に分配もしっかりやらなければいけない、ということだと思う」と話す。
「その点、今回の各党の議論は“分配”ばかりに寄っている。自民党も“成長と分配”と言ってはいるが、党内での議論の過程で“成長”が入って、最後に“改革”という言葉も入ったが、岸田さんはもともと“分配”だけだった。それから、日本維新の会が“改革での成長”と言っている。逆に言えば、それくらいだということだ。
では、具体的にどういう政策が必要か。まずコロナ対応として低所得者や今も危機に瀕している中小企業、飲食店を中心にかなりばらまくことは絶対に必要だ。ただし、これはワンショット、短期間の話。これに加えて、長期にわたる“成長と分配”を考えければならない。“成長”に関しては自民党が言うように政府投資を増やすことも分かるが、改革ももっとやらなければいけない。例えば雇用制度改革や医療保険改革など、やることは山ほどある。それらが不十分だから成長してこなかった。
そしてどうすればしっかりとした“分配”ができるか。これは維新が“ベーシックインカム”以外にも“給付付き税額控除”を謳っている。要は基準となる年収を決め、所得が低い方からは税金を取らず、足りない分を政府が給付する仕組みだ。あるいは自民党が“賃金を増やした企業の税金を安くする”と言っている。このように様々なアプローチがあるが、残念ながら多くは目の前のコロナ対応として、とにかくお金をばらまく。そうすれば過去30年の収入が減ったのが一掃されるかのような感じで、偏りがある」。
■橋下氏「“成長は要らない”と言う大学教授は給料を100万、200万にしてから言え」
岸氏の指摘を受け、橋下氏も「学者とか“インテリ”と呼ばれている人たちの中からは、“成長は目指すべきではない”という意見も出ている。つまり、“人口減少の国、成熟した社会では無理だ。そもそも成長の過程には国外から無理やり収奪してくるような植民地政策があった。ある意味かつての帝国主義が成長の原動力だった。しかし今の国際社会ではそんなことは無理。むしろみんなで静かに衰退していくべきだ”と。そういうことを言っている人たちはどんな人たちなのかと思って見ていたら、ある共通項を見つけた。そこそこの報酬を得ている人たちだ。ほとんどは大学教授で、自分の生活は安泰というとこから斜に構えて言っている。アホか?と」と批判。
その上で「岸さんも大学教授だが、“資本主義は要らないとか、資本主義はもうやめなければいけない”と言っている大学教授たちに対しては、“資本主義で利益を得ているのはあんたらだ”と言いたい。そして“成長は要らない”と言うなら、まずお前の給料を年収100万、200万にしてから言えと。大阪で政治をやっていると、経済的に苦しい地域があるし、もっと言えば世帯所得が少ない地域も多い。そういう人たちは、今日よりも明日が良くなる、来年は今年よりも給料が上がることを望んでいる。政治を預かる人間なら、そういう声も聞かなければいけない」と“脱成長”論を厳しく批判。
さらに「新興国である中国はこの30年でGDPが40倍ぐらいに上がったし、先進国でもみんな上がってきている。なのに日本だけが30年、上がっていない。政治家たちは“資本主義が行き過ぎたから資本主義はもうダメだと、是正だ”と言うが、これが“行き過ぎた資本主義”なのだろうか。むしろ日本は資本主義が進んでこなかったのではないか。僕は“分配”は否定しない。困窮者は救わなければいけないし、うまく稼げない人のところに富める者から富が移転するようにするのも必要だ。しかし、それ以前に資本主義をもっと進めよう、と思う。分配して困窮者を救ったとしても、みんなが豊かになるわけではないない。一時しのぎで分配をしたところで、みんなが富むわけではない」と訴えた。
■橋下氏「企業の活動を阻害していては絶対に成長できない」
また、橋下氏は「ここから消費を動かしていくとも言っているけど、企業の活動を阻害していては絶対に成長できない。自民党総裁選のときに4名の候補者の皆さんと議論をしたが、AIだとか、科学技術だとか、いろいろなところに投資すると言う。しかし投資するだけでは成長なんかしない。例えば日本はいまだにライドシェアが認められていない」と問題提起。
「この間、ある東京の美術館に行った後でタクシーを拾おうと思ったら、全然来ない。アプリもあるけれど、タクシー会社のだから。海外に行ったら、当たり前のようにUberだ。アプリの地図を開くと、現在地の近くにウジャウジャと動いているタクシーが表示されるので、高評価なドライバーを選ぶ。そうすると、ピュッと飛んで来る。だからタクシー待ちをすることもない。
このUberは、Uber Eatsに発展している。みんな使っていると思うけれど、利益はアメリカに持っていかれているし、今度はそういうアプリに金融の機能などもついていき、“スーパーアプリ”に発展していく。インドネシアではGrabが配車も含めた一大経済アプリになっている。これが成長だと思う。しかし日本ではタクシーには免許が要るし、スタートのところ、根っこのところで“ダメだ”と言うから、そこから発展しない」。
岸氏も「世の中、けっこういい加減な言葉が横行していると思う。日本は“行き過ぎた資本主義”どころか、昭和のままで遅れているところがあることは間違いない。また、人口が減少すると本当に成長できないのだろうか。東ヨーロッパには、人口が増えていない、または減っていても、ちゃんと経済成長している国もある」と応じ、「正直に言えば、大企業の社長の中にも、いろいろな言い訳をして思い切った投資をしていない人たちがいて、度胸がないなと感じる。しかし冷静に考えると、これだけ規制が多くて、これだけ自由度がなくて、雇用制度がこれだけ硬直的だったら、思い切った決断ができるはずがない。民間企業がいろいろなことを自由にやってイノベーションを作り出せるはずがない。さらに言えば、“政府投資で成長”と言う人もいるが、だいたい僕が元いた役所である経産省が出しゃばってくる(笑)。しかし経産省の役人は実際にビジネスをやったことがないし、机上の空論で成長産業がわかるはずがない。まともな投資もできるはずがない」とコメント。
橋下氏は「役所には役所の役割があると思うが、それこそ国会議員が、あんな非効率な国会の会議をやっていて、一つ決めるごとにえっちらおっちらやっていて、リモートもいまだにやらない。何やねん!と(笑)。日本全体を成長に持っていって、みんなの所得を上げていくのは無理だと思う。松下幸之助さんとか、孫正義さんとか、三木谷さんとかそういうメンバーが来て、“こういうビジネスをやって皆さんの給料を上げていく”と言ってくれたら乗ろうかなとも思うが、国会議員たちが“所得を上げる”って本当かよ?と」と疑問を呈した。(『NewsBAR橋下』より)