ラッセル・クロウが一石投じたタイの“大量ケーブル”問題 8割が使われず、地中化には「200年かかる」との指摘も
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 タイで死亡事故や火災となってきた、電柱にかかる大量のケーブル。これに対して、世界的なハリウッド俳優が注目したことで、意外な展開となっている。

【映像】連なる“大量ケーブル” 走行中のバイクに引っかかる事故も

 電話やインターネットなどのケーブルは複雑に絡み合い、まるで編み物。重みからか、支えている柱は大きく傾いている。バンコク市内、屋台が並ぶすぐ上を無数のケーブルがはしり、そこに電球が連なる飾りのようなものを巻きつけるなど、生活の一部として受け入れているようにも見える。

 しかし、ケーブルから突然火が上がって燃え広がったり、垂れ下がったケーブルがバイクで走行していた人の首に引っかかり、けがをしたり死亡したりする事故などが多発してきた。

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 こうした中、1枚の写真をきっかけに事態が動き始めた。10月14日、映画撮影のためにタイを訪れていたハリウッド俳優のラッセル・クロウが、自身のTwitterに重なり合うケーブルの写真を投稿したのだ。

 これを受け、タイ国内で批判の声があがり、翌日には電線を管理する電力公社が「通信会社に連絡し、改善するよう指示をした」と表明した。外国人からの指摘で重い腰を上げる結果となったことに、街の人からは「最初から対応するべき」「恥ずかしい」と厳しい声が相次いだ。

■8割は“使われてない”ケーブル、地中化には「200年かかる」との指摘も

 タイでは、バンコクだけでなく郊外でも同じような光景が見られるというが、そもそもこのケーブルは何なのか。ANNバンコク支局の西橋拓輝支局長は、「ごちゃごちゃとしている部分は、電話やインターネット、テレビ、ケーブルテレビ、監視カメラなど、複数の会社などが通したケーブルの集合体。その上の高い部分を高圧電線が通っている。普段触れられるような高さにはないが、感電事故も多く起きている。去年8月には荷物を乗せたトラックが電線を切断して、運転手が車から降りた時に電線に触れて感電し、けがをした。人だけでなく、垂れ下がったケーブルに馬がぶつかって感電死したケースもあった」と話す。

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 このような“ケーブル網”ができた背景には、タイが観光立国として経済成長を遂げてきたことがある。観光客や海外からの移住者が増える中、大型のショッピングモールやホテル、レストランなどが次々と建設され、それに伴って電話やインターネットなどのインフラ整備も行われてきた。その際、ケーブルを上乗せてきたことで、現在のような状況になったという。

 専門家によると、重なり合っているケーブルのうち8割近くはすでに使われていないそうだが、政府は対策をしないのか。

 「ここまで放置してきてしまっているので、地元の人に聞くと『業者としてもどれが使われていて、どれが使われていないかも判別がつかないんじゃないか』と皮肉交じりに話す人もいた。タイ政府としても対策を講じようとはしていて、1984年に電線やケーブルを地中化する計画を立てている。これまでに多額の予算を計上し、区間ごとに期間を設定する形で取り組んできている。実際、バンコク中心部にある大型ショッピングモールが立ち並ぶエリアでは、すでに地中化されている場所もある。現在のプロジェクトでいえば、バンコクや周辺の地域で230km超の地中化を進めるとしているが、まだ2割程度しか終わっていない」

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 電話線やインターネット線、電線、歩道ではそれぞれ所有者が異なるほか、政府側にも主導して進める機関がないことが、地中化が進んでいない要因だという。さらに、西橋支局長は「バンコクは世界中でも渋滞が激しい都市として知られていて、普段は車で10分ぐらいしかかからないところを、通勤通学の時間帯に走ってみたら50分かかった。現地の人に聞くと『そんなのざらだよ』と返ってくる。そんな状況で、狭い道路を塞いで工事をすることになると、混乱が起きて多くの人に多大な影響が出る恐れがある。専門家は、『バンコク全土で電線などの地中化を完了させるためには、今のスピードのまま進めた場合、200年はかかるだろう』と話していた」と付け加えた。

■ラッセル・クロウが投じた一石で工事は加速する?

 そんな中、一石を投じたのがラッセル・クロウのツイートだった。これを受けて工事は加速するのだろうか。

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 「実は、以前にもケーブルについて外国人が指摘したケースがあった。その人物というのが、マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏。2016年、自身のFacebookに『電線が絡み合っている』などといった内容を写真とともに投稿した。タイ国内では『厳密には電線ではない』という指摘が相次ぐなどで反響が大きかったこともあり、この投稿の後、地中化工事の動きを一度加速させたようだ。今回も同じように、ラッセル・クロウさんの投稿の直後に電力公社が声明を出しているので、なにかしら進む可能性はある。ただ、政府が新たな機関を作るなど具体的な動きは出てきていないので、タイの方に聞くとあまり期待はしていないようだ」

 大量のケーブルは人々の生活に溶け込んでいる一方、人命に関わる事故が多発しているのも事実だ。西橋支局長は「それを考えれば、政府はこれまでと違った体制を作るなど、具体的に何かを変えていかなければいけないのではないだろうか。政府に対しては、本腰を入れて真剣に取り組むべきだという声も上がっている」とした。(ABEMA/『アベマ倍速ニュース』より)

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