予想外の対戦要求、そして予想外の対応だった。11月6日の『VTJ 2021』。メインの平良達郎とともに注目されたのが、18歳の修斗史上最年少世界王者である西川大和だ。当初は海外の強豪と対戦予定だった西川だが、相手が新型コロナウイルスに感染したためカードが変更に。アップセットをかけてケージに乗り込んだのは菅原和政だ。
開始直後、イマナリロールを仕掛けたところにパウンドをもらった西川。これで右目の下を腫らすことになったが、アグレッシブさは失われなかった。片足タックルからバックにつくと、菅原の背中をよじ登ってチョークの体勢へ。最後はグラウンド状態でタップを奪った。1ラウンド3分40秒の速攻だった。
試合後のインタビューは目を冷やしながら。下になるリスクの結果だったが、こういう経験を「今の段階でできてよかった」とも語っている。さまざまなことを試し、失敗も含めて味わいながら強くなる。そういう意識が西川にはあるのだ。いずれ訪れるであろう世界の舞台での大一番では失敗できない。怖いもの知らずで“上”に行くより、いま失敗しておいたほうがいい。10代にして、彼はそこまで考えている。
驚いたのは強さ、クレバーさだけではない。試合後のマイク、西川は解説席の青木真也に対戦要求した。
「もっと強くなるのでMMAを教えてくださいよ、来年。僕がやってることがMMAじゃないというなら」
これは青木がメディアにおいて西川のファイトスタイルを批評したことを意識してのことだろう。西川の言葉に、青木はすぐさま反応。解説席からケージに走り込むと、西川に詰め寄ってエルボーを2発、叩き込んだ。不意を突かれた西川だが前蹴り。関係者が割って入る中、青木もマイクを握る。
「お前、誰の名前出したか分かってんのか? 簡単に出していい名前じゃねぞ! こんなインディーなところじゃやらねえ。場所作っとけ!」
青木がケージから出ると、西川は世代交代として避けられない対戦だとあらためてアピール。「青木さんが怒らないくらい(実力を)磨き上げたい」とも。インタビュースペースでのコメントも総合すると、青木とは強くなりたいからこそ闘いたいという思いのようだ。世代交代という言葉は、ファンや周囲を盛り上げるためという意味もある。
一方、青木の胸中はどうなのだろうか。怒りと“プロレス心”の両方を感じさせる乱闘撃で場内を騒然とさせた後、その後も解説を続けた青木。大会終了後はにこやかに関係者と談笑する場面もあった。以下は大会直後の独占インタビューである。
――西川選手からの対戦要求がありました。
「名前出したらタダじゃおかねえぞって。出していい名前と出しちゃダメな名前がありますよ、やっぱり。それに、その場にいるのに流せる俺じゃない。まだ闘いの輪の中にいますからね。みんな青木真也は闘いの輪の中にいないと思ってるかもしれないけど、まだいますから。ナメんじゃねえよって気持ちでいますよ、常に。でも大したもんですよ。力のある若者だと思います。気持ちもある。多くの人間がそういう気持ちに応えない中で、僕は名前出されたら真正面から受けていきますよ。彼が今、日本のMMAで期待されてる若手なんだとしたら受けて立ちます。今まで、僕の上の世代、同世代は受けてこなかったから。僕は受けて立ちます」
――噛みついてきた若手がいることに嬉しい部分もありますか。
「ありますよ。大したもんですよ。本当に嬉しい。僕、いい人生を生きてるなって思いますよ。20歳も年下の若者からやりたいって言われる。若い選手の目標になる、道標になる。いい人生送れてると思います。でも“いい人生送れてる”では満足しないですよ。先に進まなきゃいけないから。勝ちますよ。生きていくし勝ちます」
――秋山(成勲)選手との試合が決まらなかったという件もありましたが、対戦要求されたらすぐに反応する青木真也でありたいという感じも?
「絶対、前に行きますよ。若い世代の道標となって、そして叩き潰していきますよ。叩き潰してきた10数年だし」
――西川選手にしてみると、青木選手からの論評が引っかかった部分もあるような口ぶりでした。
「そうなの? ああそう、いいじゃない。気に入らないなら力でやればいいですよ。あとは関係各位が場所整えたらいつでもやってやるよって」
――しかるべき場所、青木真也にふさわしい場所ということですか。
「ちゃんと用意できんのかって。それがまさにVTJのコンセプトなんじゃないの。用意できんのかって」
――あそこでケージに走り込んでのエルボー連打は、プロレスでも活躍する青木真也ならではの反射神経という気もします。
「ほんっとにね、本当にいい人生送ってると思う。いい人生送ってるって、今成夢人が言ってたんだけど。ガンプロ(ガンバレ☆プロレス)で。今成夢人がいい人生送ってるて言ってたけど、俺も好きなことやって好きなことで生きて、いい人生送ってる。今成に負けない、いい人生送ってると思いますよ(笑)」
――あらためてですが、西川戦を受けることは構わない、あとは舞台だと。
「それができんのかって」
――次のVTJといったようなことではない?
「青木真也がVTJに上がるわけないでしょ。もっとちゃんとしたもん整えろよって。それがお前らの責任だろって思いますよね」
――ここまではっきり名前を出されたのはいつ以来ですか。
「記憶にないよ。青木真也とやりたいって言ったのなんて山本勇気くらいでしょ。誰もやりたいって言えないんですよ。だって存在をかけれないでしょ。僕は勝ち負けじゃなくて存在を潰しますから」
――西川選手はそこまで分かって名前を出したのか……。
「分かってないでしょ。分かってないですよ。でも俺は俺のためにやってますから。青木真也でいるために、黙ってらんないですよね」
――青木選手というと、かつて挑発してきた相手の腕を試合で折ってしまうようなこともありましたが。そういう青木真也もまだ残っている?
「丸くなりました、僕?」
――表面上は。
「表面上は丸くなりましたよね。丸くなったねって言われることありますよ。でも丸くなったらやってないですよ、今まだ。闘ってない、うん」
文/橋本宗洋