偏差値25、父親の服役、養育費3000万円の持ち逃げ被害… 複雑な母子家庭で育った格闘家・YA-MANがどうしても母親に伝えたかったこと
【映像】那須川天心が「止めた方がいい」と叫んだ激闘
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 14日、RISE世界フェザー級王者の那須川天心が丸善インテックアリーナ大阪で開催された『Cygames presents RISE WORLD SERIES 2021 OSAKA』のリングに上がり、来年4月2日の『RISE ELDORADO』でキックボクシングでのラストマッチを行うと発表してファンの注目を集めた。

 その一方、同大会でゲスト解説を務めた那須川が「今日はお前の日だ」と激賞し、反響を呼んだ一人の選手がいる。その選手はRISEライト級7位のYA-MAN(TARGET SHIBUYA)。RISEを代表するファイターの一人である中村寛(BK GYM)との3ラウンドに渡る壮絶な殴り合いを制したYA-MANの激闘ぶりを目の当たりにした那須川は「こういう試合をYA-MANと名付けたい」と興奮気味に語った。

【映像】那須川天心が「止めた方がいい」と叫んだ激闘

 YA-MANは2018年のRISING ROOKIES CUPに出場し、フェザー級で準優勝。今年5月にはオープンフィンガーグローブで試合を行うなど、“打ち合い上等”のファイトスタイルでいま注目の選手だ。試合後にマイクを持ったYA-MANは、まず対戦相手である中村への感謝。そして、母への感謝を述べた。YA-MANが母への感謝を口にすると、その意外性からか場内は笑いと拍手に包まれたが「ちょっと聞いてもらいたいんですけど、自分の家庭ちょっと複雑で…」と騒然となった場内を制したYA-MANは続けて、驚きの半生を語り始めた。

 YA-MANがマイクを終えると、場内には盛大な拍手が沸いた。試合内容もさることながら、試合後のマイクでもファンを魅了したYA-MANに試合後、マイクの真意と自身のこれまでについて話を聞いた。

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■父は違法薬物で服役 養育費3000万は身内に持ち逃げされた

 試合後に母への感謝を述べたことについてYA-MAN本人に問うと「お母さんに感謝を述べたいとずっと思っていた。自分の家は母子家庭で、内容も複雑。お父さんは違法薬物で服役。お父さんの実家が裕福だったので養育費で3000万円ほどを受け取ったものの、そのお金を預けていた祖父と祖母がある日、お金を持ってどこかへ行ってしまった」と、過去の苦い記憶を打ち明けた。

 そんな状況にあって、YA-MANの母は女手一つでスナックを経営しながら、YA-MANを大学に進学させてくれた。

「(一応)大卒っすよ」

 そう照れ臭そうに続けたYA-MANは、大学に進学するまでの経緯についても次のように語った。

「高校は地元でも底辺の偏差値35くらいだった。野球をやっていたけど、高校2年生の時に辞めてしまって。今まで散々、お母さんにお金をかけさせて、何をやってるんだろうと思いました。『野球で食っていくんだ』と当時は思っていたので、将来も不安になってしまって…」

 それでもYA-MANは「とりあえず勉強しよう」と前を向く。しかし、高校2年生の冬に受けた最初の模試で出た偏差値は「25」。厳しい現実を思い知らされYA-MANは当時の心境については「見たことありますか? 偏差値25。俺、こんなにバカだったんだ…」と笑いながら振り返る。

 母に楽をさせるため「お金持ちになりたい」と思っていたYA-MANは、自分の周りでお金を持っている人の多くが建築関係の仕事に就いていることに着目。将来、自身で建築関係の会社を興すことを考えて大学は建築学科に進み、そこで一級建築士の資格を取ることを決意する。

 とはいえ、偏差値25からのリスタートは容易ではない。建築学科入学のため、理系の勉強の必要性を感じたYA-MANは中学生の数学から勉強をやりなおすことに。英語については、ABCからの出直しだった。その結果、高校3年生の冬の模試では偏差値が50に倍増。「上げ幅25っすね」と得意げに勉強の成果を誇ったYA-MANだったが、またしても難題が立ちはだかった。

「大学って、1校の願書を出すだけでも3万円ぐらいかかる。お母さんに負担をかけまいと塾の費用は解体のバイトをして半分ぐらい自分で払っていましたから、お母さんにそんな払わせることはできないと思いました」

 その結果、志望校を2校に絞って受験に臨んだYA-MANは、東海大学の建築学科に無事、合格。大学進学を果たすことになる。そこで出合ったのが、キックボクシングだった。

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■「お母さんの選択が間違ってなかったことを伝えたかった」

 母への感謝は尽きない。しかし、父に対しては「クスリ(違法薬物)やる人はマジで無いなと思っていました。そのせいで、結構大変な思いをしたので。なんでこんな思いしないといけないのだろうって…」と本音を明かすYA-MAN。

 その後、20歳になって父と再会を果たすと、初めて母から“すべて”を聞かされたという。養育費の話、そして、その養育費を祖父と祖母が持ったまま居なくなってしまった話も。

「そこで改めて思ったんです。『お母さんには頭が上がらないなぁ』って」

 YA-MANが尊敬してやまない母は埼玉県富士見市にある東武東上線のみずほ台駅近くでスナック「Allure(アリュール)」を経営しているというが、昨今、コロナ禍の影響を受けて大変な状況にあるという。

 女手一つでYA-MANを育て、大学進学を叶えてくれた母。大学を卒業して就職するか、またキックボクシングの道に進むか悩んでいた際には、周囲が反対する状況にあっても「自分の好きな道を」と背中を押してくれた母だ。そんな母にYA-MANは何としても感謝を伝えたかったというわけだ。

 その一方、父は周囲の人達と同じくキックの道には反対したという。子どもの将来を思っての反対であることをYA-MAN本人は理解しているというが「父には『見たか、ボケ!』と言ってやりたい」と反骨心を露わにする。

 そして、自分の決断が正しかったことを証明するためにも、RISEのトップファイターとして活躍する中村との一戦に負けることは許されなかったという。

「本当に勝てるかどうかわからなかった。それでもここで勝ったら、明日からの景色が変わると思っていた。中村寛選手というトップ選手に勝ったという一つの証明ができたと思ったので『好きな道を選びな』と言ってくれたお母さんの選択が間違ってなかったんだということを伝えたかった」

 そんなYA-MANの激闘、そしてマイクパフォーマンスを目の当たりにした那須川天心は試合後「自分で自分の存在を、どういうことをしないといけないのかがわかっている。それを体現している選手だと思いました。プロですよ」とYA-MANを絶賛。「今日はYA-MANの日だった。こういう試合をYA-MANと名付けたい」と興奮気味に続けた。さらに自身のツイッターで「今日はお前の日だ YA-MAN!!」とツイート。一時「YA-MAN」がトレンド入りを果たすなど反響を呼んだ。

 インタビューの最後、那須川の熱狂について本人に感想を聞くと「たぶん、YA-MANって言いたいだけだと思います。間違いないと思います」と激闘直後とは思えないほど、清々しい表情で笑った。

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■反響を呼んだYA-MANのマイクパフォーマンス全文

中村選手、ありがとうございました。最高の試合ができました。

この場を借りて、自分のお母さんに感謝を述べたいと思っていて…
お母さん…あのぉ、育ててくれてありがとうございます。

(場内笑い)

なんか、ちょっと聞いてもらいたいんですけど、自分の家庭ちょっと複雑で…
お父さん、ちょっとポン中で(場内笑い、YA-MANも笑い)刑務所行ったりしてて

で、おじいちゃんとおばあちゃんも養育費持ってどっか行っちゃうし(YA-MAN大笑い)
まぁ、でもこうやって、こうやって、OFGで1日で人生変えられるんで…
もし、この中に俺って不幸だなって思ってる人いたら、
自分でしか自分の道切り拓けないと思うんで、自分で切り拓いていってください。

お母さん、ありがとうございます。育ててくれてありがとうございます。

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【映像】反響を呼んだYA-MANのマイク
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